第一章

第11話 現世に帰還 1

 ──沢山のスキルを渡してきた──


 それは、そんな感覚がしただけだ。

 異世界に行く時に味わった痛みに、その時の痛みが似ている。そして、その痛みが前回以上の痛みだったのだ。


 ていうか、ナイフが喉に刺さってる時に戻るって、普通に死ぬやん。


 俺は、1度味わったため、慣れている痛みに耐えながらそんなことを考えていた。



 ◇



 俺は、体が重力を感じた。

 恐らく、現世に戻ってきたのだろう


 なら喉にナイフが……って痛くない?

 あれ、刺さってるはずなのに。


『スキル──修復──と──健康──が発動してるからです! あなたの首の最奥の方で修復してあるので痛くないだけです』


 ん? 神様の声?


『そうです! さすがにあなたの事は監視しないといけないですので!』


 チート能力を渡しすぎたから監視すると言うことか。

 というか何故俺にチート能力をそんなに渡したのだろうか。


『まぁ、それについてはのちに話します! が、それより今は早くこの場を離れた方がいいです! 目立ってます!』


 俺は、瞑っていた目を開けると、赤髪の男が逃げるように去っていくの見えた。

 辺りは、土砂降りの雨で自転車置き場の屋根の下はこちらにスマホを向けている人達で溢れていた。


 ナイフによって裂かれ、泥が雨で染み込み茶色に染まっている制服。異世界ではあまり気にならなかったので、異世界に行く時に神様が元に戻してくれたであろう、眉毛より上の位置にナイフで雑に切られた前髪。喉元に刺さっているナイフ。

 全てが異世界へ行く前に戻っていた。


 そして俺は、このまま目立っているのも良くないと思ったため、首にナイフが刺さったまま、逃げるように校舎裏にある裏門から学校の敷地外へと出た。



 人気のない場所に着いた俺は、ナイフに触ってみた。すると、激痛──喉を引き裂き、声を上げたくなる──が声は出ない──ような痛みに襲われた。


『スキル──無痛──を使用します? でも──無痛──って言うのは結構危ないんです痛みっていうのは体への危険信号のため、使用しっぱなしというのはおすすめ出来ませんので、使用したい時に言って頂ければその時だけ使用しますが』


 じゃあお願いします。ナイフ抜きたいので。


『分かりました……はい、もういいですよ。抜いちゃってください!』


 その声が、俺の脳に直接響く。

 俺の脳に響く声に、痛みや不快感は無いが、不思議な感覚である。


 俺は、首に刺さっているナイフに手を当て、ゆっくり抜くのは逆に痛そうだと思ったので、一気に引き抜いた。

 すると、首に痛みは無く、首に手を当てると、傷口は愚か、傷の痕も血液も付着していなかった。

 それに、体も寒気を感じない。かと言って風邪を引いたから暑いと言う訳でもない。


『それは、スキル──修復──と──健康──が働いてるからですよ!』


 らしい。便利だな。

 とりあえずこれからどうしようか……


『今はその、下の下着とお腹の腹筋を見せびらかしたまま居るのはどうかと思うので一度に帰って着替えてから話しはします』


 俺は、と言われてに帰ろうか悩んだ。


 自宅か職場か。


 俺は悩んだ末、この格好を見て母親に心配させないよう、後者の職場へと向かった。

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