第1話 異世界へゆく。1

 秋。

 秋はとりあえず風が強い。

 こんなに風が強いなら夏にその風を持ってきて貰って構わないのに、秋は天邪鬼だ。

 そんなことを言ったら冬も、夏にその寒さを持って行ってあげればいいのに。

 いや、そんなこと言ったら四季全てがそうか。

 なら、季節風と言うものを作った世界が天邪鬼と言うことで良いだろう。


 ──そう、世界は天邪鬼だ。



 まぁそんなことは置いといて、今、強風の中、学校への道を歩いている俺だが、今日はいつもと違う日にしようと思っている。


 俺は、いつもいじめられているのだ。


 いじめは、優越感に浸れるらしい。

 なら、優越感に浸れない人がいじめをするのである。


 俺は生憎、優越感には興味無いし、いじめられた経験なんてなかった。

 そんな日々を過ごして約15年。俺は初めていじめを受けた。

 いじめはしたことないため、いじめをしてる側の気持ちは理解し得ないが、この経験で、いじめられてる側の気持ちは理解することが出来た。


 しかしいじめられてる側はキツいな。そう思った。

 俺は、そういう系の体質や気質を持ち合わせているわけでは無いため、普通に苦痛である。

 しかし、苦痛とは言うものの俺にとっては、仲の良い友達の友達と二人にされた時の、あの気まずい雰囲気と比べたら、その雰囲気と苦痛は同じくらいだ。

 ──が、物理的な損害が出たら話は別だ。

 落書きされて何度もノート買い換えたりや、いろいろな言葉をカラフルな色で書いてある上履きを買い替えたり、それを週5でやっていると、とうとうバイト代も底を尽きた。

 そうなると、次の給料が出るまでカラフルな上履きと、落書きされているノートで頑張るか、親に相談するかの二択だ。


 そして、今日の分のノートと上履きを買い、バイト代の尽きた俺は三択目を選んだ。


 ──自殺だ。


 自殺って素晴らしいな。と俺は思う。

 だって、自分の死に方と死ぬ時を自分の好きに決めることが出来るのだ。


 ──いや、そんな訳ない。


 そんな訳ないだろ。

 自殺が素晴らしい訳ない。

 自殺は人生をリタイア、諦めると言うことだ。そんなことが素晴らしい訳ない。当然母親は、自分よりも子供が早く死んでしまったら悲しむだろう。

 しかし、それも承知の上、お金も尽きたし、もう人生をリタイアしたかった。

 まだ、そんないじめ序の口だろ。とか言われるかもしれない。でも、一度もいじめられたことが無かった俺の、メレンゲのようなメンタルでは、いじめや、お金が無く好きなことが出来なくて溜まるストレスが沢山重なり、もう耐えられなくなった。


 そんなことを考えながら歩いていると、やがて学校に着き、いつものように下駄箱を開いたのだが、そこにあった上履きには何も書かれておらず、何一つ汚れの付いていない上履きが入っていた。


「え?」


 俺は思わず声を出してしまった。

 すると、下駄箱付近にいた人たちは声を出してしまった俺の事を一瞥したが、何事も無かったかのようにそのまま教室へと向かっていった。

 上履きが一日分浮いたのは嬉しいが、今まで上履きに落書きされてた身からすると、逆に不自然すぎて怖い。


 その後、俺は靴箱からだした上履きを久しぶりに履き、教室へと向かった。


 教室では、やはり俺の席の周りには誰も居なかったが、机に落書きはされていなかった。

 俺は、周りからはバレないように恐る恐る椅子に座ったが、椅子と机に何か細工が施されている訳では無く、机の中のノートを開くが、どのページにも落書きはされていなかった。

 これはおかしい。そう思いながらノートのページをパラパラとめくりながら確認していると、一枚のメモ帳のようなものがページとページの間に挟まれていたらしく、教室の床にヒラヒラと落ちた。

 それを、誰にもバレないよう、そっと拾い、そのメモ帳に書いてあることを読んだ。


『放課後、校舎裏に来い』


 そう書かれていた。

 随分と口調の荒い子が告白してくるみたいだ。

 そんな冗談は1パーセントに、99パーセントはどんな人がいじめの主犯だったのか考えていた。


 そして、いつも通り授業を終え放課後を迎えた俺は、自殺しに行く前に、一度は主犯格が誰だったのか見ておきたい。

 そう思い、メモ帳に書いてあった通り校舎裏へ向かった。

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