第4話 嵐の目

「はいはいなるほど。つまり二条さんと藤宮さんは生まれた時からの許嫁で、それはあくまで藤宮財閥の不要なスキャンダルを防ぐために親御さん同士で結ばれただけのものだと。二人はただの友達だと……ってなんですかそれ!!ぶっ飛んでますよ!!」


「おかしいな……さっきも見たぞこの光景……」


 生徒会+来訪者の四人はソファに腰かけていた

 昂る萌木と頭を抱える二条。


「まあまあ萌香ちゃん。そんな興奮しないで落ち着くんだ。お客さんの前だし」


「いや、荒ぶるどころかあらゆる醜態をさらした不動が言えることじゃねえだろ……」


「だ、だって会長! あの二条さんに女性の友達がいること自体、天地がひっくり返るくらいのことですよ!」


「おい」


「それは私も思ったけど、受け止めるんだ萌香ちゃん……これが現実だよ……」


「おいおい」


「そんな……信じられない……」


「どんだけだよ!!!!!」


 息子の余命宣告を受けた母親と医者の構図。


「ねえ透、――あ、ごめん。ここでは、二条くん」


 『透』という言葉に、即座に反応する不動と萌木。

 藤宮! 圧倒的な余裕! 何故か自信に満ちた表情!


 二条に体を寄せ、耳打ちするような形をとる。二条も、全く動じない。


「また日を改めた方が良いかな? かなり動揺してるみたいだし……」


「ん? いや別に今日で良いだろ。どうせ依頼は大抵俺がこなすことになるんだから、俺としても早く仕事に取り掛かれる方が睡眠時間が確保出来て助かるしな」


 二条の平均睡眠時間、三時間。


「それはそれで、そもそもの仕事量に問題がありそうね……ブラック通り越して暗黒じゃない。良かったらまた昔みたいに私の家で――」


「ちょっとまてぇい!! 近い近い!! ソーシャルディスタンス!!!」


 不動が二人の間に入って会話を止める。居酒屋のおっさんみたいな口調だった。


「そ、そうです! ただの友達にしては近すぎます!」


 下っ端萌木も追撃する。なんともやかましい生徒会室だった。


「お前らホントに俺の事を何だと……」


「ボッチ」


「孤独」


「おいやめろぉ!!!!せめて孤高と言ってくれ!!」


「「それはない」」


「ぬおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


 渋い顔で唸る二条。あながち間違いではないどころか9割正解だった。

 二条は堅物である。真面目過ぎるのである。勉強は出来るが逆に言えば勉強しかしてないので友達など居るわけもなく、どうしてそんな彼が副会長になれたのか、と一部の学生の間では未だに疑問の声が後を絶たない。

 真面目で、不器用で、不愛想な秀才。それが二条透なのである。


「透、そんなに友達いないの?」


「やめてくれ澪、俺を哀れむな」


「だ、だったら私が……」


 センサーピコ―――――――――――――――――――ン!!!!!!!


 萌木の中で、何かのセンサーが反応する。危険信号だった。


 萌木は素早く動き回り、二条と藤宮を引き離した。

 引き離して、

『 不動 二条 萌木


    机


    藤宮      』

 

 の構図を作り上げたのであった。


「さあ!! 依頼を聞きましょーーー!!!!! どうぞ!!!」


(あれ? 私なんでこんな焦ってるんだ?)


 内心驚いている萌木。


「え、ええと、それでは……」


 余りの俊敏さに驚きながらも藤宮はついに本題を切り出した。


「私の依頼と言うのは……」


 杯宴都学園生徒会執行部のお仕事、『お悩み相談』が今、始まろうとしていた。

 学内、学外問わず生徒の悩み、頼みを全力を挙げてお手伝いするというぶっ飛んだお仕事は、不動の提案で始まったこと。

 生徒の誰もが胸を張って生きていける学校。それが不動の掲げた理念。


「――私、彼氏が欲しいんです!」


 藤宮の言葉に、驚く三人。

 その中でも二条は、目と口を最大限に開いて、驚いていた。

 

「は……はい?」

「わあお……」


「お、おい、澪、どういう――」


「結婚を前提としたお付き合いの出来る、彼氏が欲しいんです!!」


 こちら杯宴都学園生徒会室。

 恋が恋を呼ぶ大嵐、接近中。





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