第3話 嵐の予兆

 驚天動地、はたまた天変地異。


 天真爛漫なチビッ子生徒会長不動はその背丈に合わない叫び声を上げた。


「許嫁ぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ?????????????」


 顎が外れてしまうのではないかと言うくらいに驚いていた。ある意味大道芸である。


「まあ、一応形式上は、だけどな」


 驚く不動に、平坦としたトーンで返す二条。驚くのも無理はない、と思っている口調だ。


「形式上の許嫁・・・?それって結局許嫁でわぁ⁉ 二条キュンあんた、そんな真面目そうな顔して許嫁いるとかおかしいでしょ!!どう考えたって一生独身でしょ!!!解釈違いだよそんなん!!設定変更を希望する~!!」


「ふ、不動さん⁉」


 変顔したり物まねしたり饒舌になったりと、余りにも滅茶苦茶な生徒会長に驚きっぱなしの金髪ツインテール。職員室に入ったと思ったらそこが大道芸会場だった、みたいな感じである。

 彼女は、サラサラの金髪に黒い花形の髪飾りを付けていた。背丈も二条とそう変わらない。(二条の身長は170前後、つまり女子の中では相当高い。対して不動は・・・とても小さい。もう一度言う。不動は、とても小さいのである)


「とにかく中に入ってくれ。扉を開けたまま説明して部外者に聞かれるのも、会長に騒がれるのも面倒だからな。」


 金髪ポニーテールを室内へと手招く二条。不動は頭を抱えて、『解釈違い』で起こった脳内の葛藤と戦っていた。


「それに、澪がわざわざ来たってことは、要件があるんだろ?」


 二条の問いに、『澪』と呼ばれた金髪ポニーテールは小さく頷いた。


「――ええ。大事な要件」


 ***


「ほえ~~~~~なるほどね~~~~~二条キュンとそちらの藤宮澪さんは、お家柄もあって生まれながらにして許嫁になってはいるものの、基本的に互いの生活には干渉しないという独自のルールを決めている、という訳か~あるあるだね~」


 生徒会室の豪華なソファに座る不動の前に、二人は座っていた。

 

 不動は、うんうんと首を痛めそうなくらいに縦に振ってから、

「――って納得できるかァっ!!!!なんじゃ許嫁って!!古風すぎてわたしゃついてけないよ!!というかまず聞いたことないそんな展開!!あるあるどころかなしなしだよ!!」


 耐えきれなくなって壊れた。自分を騙せなかったらしい。そしてまた一人頭を抱えて葛藤しだした。


「・・・ねえ透。不動さんって普段からこんなに激しくツッコミしてるの?普段の不動さんのイメージとかけ離れてるんだけど・・・」


「いや、普段はボケというか阿保なんだが・・・こんなに激しくツッコミしてるのは初めて見たな・・・」


「普段がボケとか阿保とかそれもかけ離れたイメージよ・・・」


「ちょっとそこぉ!!イチャイチャするな~!!!」


「してねえよ」「してません」


「あああああああああああ息ピッタリだぁぁぁぁ~!!!!」

 

 不動舞。名誉ある杯宴都学園生徒会長。学校一の人気者。この学園の象徴ともいえる存在。

 常に笑顔を絶やさず、誰であろうと分け隔てなく明るく接する彼女が、生徒会長選挙で圧倒的勝利を収めたのは当然の成り行きだった。

 そんな生徒会長が、頭を抱え、限界オタクのような悶え方をしている。


 限界オタク! それすなわち! 叶わぬ世界を夢見る者!(諸説あり)


「なんでそんな驚いてんだよ不動・・・言ったろ?俺と澪はただの友達だし、許嫁とは言ったけどそれはあくまで便宜上と言うか、公的な立場としてそうしておいた方が楽な事情が――」


「あの堅物女っ気0の二条キュンが、ただの友達を下の名前で呼ぶなんておかしくない⁉ そう思わない⁉ 藤宮さん!」


「え、あ、いや私と透は――」


 透。二条透。


「わざとやってんのかあんたらは~~~!!!!!!」


「おい落ち着けって不動。澪・・・間違えた、藤宮さんだって話があってきてるんだから・・・」


「また名前で呼んでるじゃんかぁぁぁ・・・」

「いやこれは昔の癖で・・・」

「私にはいっつも冷たいのに~!ずるいよ~!」

「そ、それは不動が仕事しないからだ!!」

「優しくしてくれたらシゴトするから~」

「甘えるな!働かざるもの食うべからずだ!」

「絶対それ使いどころ間違ってるよ~」


「あの~・・・」


 痺れを切らしたように、高身長金髪ポニーテール――藤宮澪が切り出す。


「透と会長さんって、お付き合いされてるんですか?」


 固まる。世界が、硬直した。


「いや、なわけないだろ」

「付き合ってないよ?」


 即答する二人。一切の照れもなく、断言した。


「随分仲がいいなあと思ったんですけど・・・」


 口元に手を添えて喋る藤宮。彼女は名だたる財閥の長女であった。育ちの良さゆえかその所作の節々に気品を感じさせる。二人の会話を見ている時もお淑やかに笑うのである。


 一方で。

 慎ましのかけらも無い会話を散々繰り広げる二人は、一瞬互いの顔を見合わせた後、答えた。


「どこをどう見たら仲がいいんだ」

「そうそう、私なんて日頃から虐められてるんだよ?」

「俺はあんたの怠慢で生まれた仕事に虐められてるけどなあ⁉」

「それもまた、真なり」

「認めてんじゃねえよ!!働け!!」


 すぐさま二人の会話がヒートアップしていきそうなのを見て、再度藤宮は小さく笑う。


「ふふ、面白いですね、二人とも。――でも良かった。お付き合いしてないなら安心してお願いできます。というかそもそも、この学園の生徒会に限っては無いですよね」


 藤宮の言葉に二人の漫才みたいな掛け合いが止まる。

 ピタリ。ヒヤリとした空気が張りつめる。


「私の話、聞いてくれます?」


 不動と二条は息を飲んで頷く。

 

 (一体、どんな依頼が・・・)


「私は――」


 形式上の二条の許嫁が持ち込んできた依頼が、嵐を呼び起こすその瞬間。


「お疲れ様でぇーーーす!!遅くなってすみません! 会長!今日のモンコレレイドの作戦を・・・ってあれ?お客さんですか?」


 勢いよく開けられた両開き扉から、お団子ヘアの萌木会計が元気よく現れた。

 三人は固まったまま、不動が口を開く。


「お客さん・・・というか二条キュンの許嫁さん・・・だよ」


 言ってから、不動は萌木の反応を予測する。

 分かり切った反応を、予測した。


「あ・・・」


「・・・」


「・・・」


「い、いいなずけえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ???????????????」


 さあ、気を取り直して、もう一周。

 頑張れ、公式二条キュン。


 



 



 


 

 

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