第16話 妹と緑茶

「ただいま。」


誰に聞こえているわけでもないが、俺はいつものように玄関でボソッと呟く。


明日から謹慎期間のスタートだ。ゴミクズの鼻を2つへし折っただけで2週間も自宅に謹慎とは、なかなかに厳しい処分である。


とはいっても、2週間の謹慎で困ることはなんだろうか。


当然、謹慎したことによって友達に会えなくなるのが寂しいなどという懸念は存在しない。


勉強に関しても、ありがたいことに、白仲がノートを見せてくれるみたいなので、家で教科書を読んで勉強しておけば問題はないだろう。


まぁ問題があるとすれば、一週間後に学祭が控えていることだろうか。


まず、謹慎中の身であるのにも関わらず、出来上がった衣装を白仲家に届ける必要がある。


白仲家の皆からしたら、人を殴って学校から謹慎処分を受けるような生徒など、敷居を跨がせくないのではないだろうか。


そもそもその部分の許可も事前にとる必要があるだろう。


それに、劇の進行具合も気になる。

白仲のプランに悪い影響が出かねない演出が進みそうになれば、自分を使ってでも阻止する予定だったが、それもできない。


それ以外だと...相田...は大丈夫か。足震えてたし。




はぁ...色々考えすぎて頭痛くなってきた。緑茶のも。


「ぷっっはぁぁあ、これこれぃ!ザイゴー!」


「キモッ」


おっと...後ろにいたか。


「菜月、朗報だ。明日から2週間、俺は引きこもりになる。」


「...なにそれ。2週間?」


「そう、2週間。」


「いじめ?」


「まぁ、いじめみたいなもんだ。家に常駐してるけど気にするな。」


「待って。」


リビングに戻り、話に終止符を打とうとする俺の袖を掴む菜月。


「ちゃんと話して。」


菜月のここまで明確な俺に向けての確固たる意思表示を見たのはいつぶりだろうか。彼女は真剣な眼差しで見つめてくる。


「あまり楽しい話ではないぞ。」


「...うん。」


さすがに妹に話すのは少し抵抗はあったが、珍しく真剣に訴えかけてきたので、俺は今回学校であった一連の出来事を伝えた。






「何それ!わけわかんない!それお母さんとかに言って、学校に訴えかけようよ!」


「落ち着け。現に、あれはあいつらの鼻を折ってる。」


「だって、だって!そいつらは!!そいつらから!兄貴が守ったんでしょ?」


菜月は半泣き状態で訴えかけてくる。


「俺もまだガキだけど、この先、生きていくなかで、理由はどうであれやっちゃいけないことや、やったら罰をくらうような事がたくさんある。これはその練習だと思ってる。」


俺は菜月の感情的になっている姿に動揺しつつ、あくまで冷静な返答になるように努めた。


「なにそれ...もうっ嫌い!!!!!」


菜月は俺にブチ切れて、2階の自部屋に戻っていった。


あー。

まぁこうあーだこーだ理屈をこねるから、うざくがられて嫌われるんだろうな。



寄り添ってくれた妹に対して大人っぽく理屈をこねた自分と、素直に心のモヤモヤを吐き出せない幼稚な自分に対して、俺は強烈な自己嫌悪を抱きつつ、手にしているグラスに僅かに残った緑茶を飲み干した。


常日頃から飲んでいる緑茶より、少しだけ苦い味がした。




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