第15話 想定外

俺は正直、想定外の現状に、頭を悩ませている。


今回の件、白仲が襲われることを予想して、近くで待機し、彼女の窮地に駆けつけることができたのだ。


と、言えば、カッコいいかもしれないが、残念なことに、本当に素材を買いにいった時にたまたま見かけたというのが現実だ。


そして、今回のデマが出回っているこの状況と、学校側からの自分への処分は、正直、想定外の出来事だ。


騒動をスマホのカメラを向けて傍観している連中がいたので、何かしらの形で拡散されることは覚悟していた部分はあったが、ここまで俺にのみヘイトが溜まるデマが広まるとは...




事件の翌日、柚香と涼は、相田立ち会いの元、生徒指導の教師に事の顛末を伝えた。

被害者である白仲本人が証明したことにより、流石に俺が助けたという事実は学校側には正しく伝わった。

事件のあと、サッカー部3年の2人は鼻骨骨折で入院していた。


そして、最終的に厳重注意と2週間の自宅謹慎という処分が下った。

サッカー部3年の2人と、下田涼の双方に。


下田涼が生徒を入院に追い込むまでの暴力を振るった事実は処分に値すると判断された。


そして、サッカー部の3年は実際にわいせつな行為をするに至らなかったことと、動画証拠では、無理矢理誘っている部分が確認できなかったことから、下田涼と同処分にすることとなった。


相田に関しては、襲われる雰囲気だったのに相田が見捨てて去った、という白仲の主張と、仲良くしているように見えたので問題ないと思って帰った、という相田の主張が食い違ったことで、それ以外の確たる証拠はないと判断され、相田の処分はなしとなった。


学校側も事を警察沙汰にして、評判を落としたくないのか、被害者に寄り添った判断ではなかった。


「いい加減にしてください!話を聞いてましたか!?、下田君は助けてくれただけです!」


職員室で白仲は必死に訴えてくれていたが、動画には、涼が3年に暴力を振るっている部分しか写っていないことと、校内に流れているデマが作用してか、処分はひっくり返らなかった。


「白仲、もういい、多分もうこれ以上は意味がない、ありがとう。」


これ以上は、白仲の評判にも関わってくる。俺はとりあえず彼女を落ち着かせて、場を立ち去ろうとする。


「まぁまぁ、喧嘩両成敗ってことでさ、おれも勘違いしてて悪かったよ。反省してるから!」


「あんたは絶対に許さないから...」


「ちょ、こ、こわいって...」


「あの人達も、あんたも絶対にこのままで終わらせない!」


白仲は涙目でブチ切れながら一人で足早に教室に帰っていく。


「なぁ、相田。


「な、なんだよ?!」


涼は髪をかきあげて、胸ぐらを掴み、顔を近づける。


「お前、次白仲にちょっかい出してみろ。あいつらみたいに鼻折るくらいじゃ済まさねぇからな、俺の人生をかけて、お前の人生を終わらせる。」



涼の人間とは思えない、あまりの怒りの形相と迫力に、相田は腰を抜かしてその場に座り込んだ。





涼が悪役扱いのデマが浸透した原因として、双方に同じ処分が下されたことで、被害者と加害者の処分上での差がうやむやになったところにより、下田が元凶という内容に疑いを持つものが少なかったという部分が大きい。


しかし、今回の件、涼は悲観的になってはいなかった。もちろんあいつらは何回でもぶっ飛ばしたいし、許せない。


だが、白仲の評判に悪い影響が出るわけではない。むしろ、同情を集められることで、より関心も持たれる。



それにしても、明日から2週間かぁ... 1週間後は学祭本番だ。衣装は家で作って、白仲家に持っていくことにするか。


照明係やりたかったな... 同じく照明係の森田君にプランをちゃんと引き継ごう。


「うわっ...動画の最低野郎じゃん...」


「ああいうのが将来、犯罪者とかになるんだろうな。」


「前髪切れよ、キモいな...ストーカーが。」


照明係ができなくなったことと、白仲の晴れ舞台を見れなくなったことに未練を感じながら、職員室から教室に戻ろうと廊下を歩いていた俺に、なかなかに容赦のない言葉が聞こえてくる。


いや、これはさすがに傷つくな。本格的に嫌われ者だ。


「涼ちゃん、大変そうだね。」


「よく俺に話しかけられるな、美礼。」


「なんで?何かおかしいかしら。」


「俺は、ストーキングしてる女が男の先輩と仲良くしてることに嫉妬して、狂ったように暴力を振るったストーカーだぞ。」


「ふふっ、それは怖いわねっ。」


こいつ...


「どうあがいてもあの子にはこの状況をひっくり返せないだろうけど、私ならできるわ。」


「それは怖いな。」


「あの、涼はのクラスにいるゴミクズも、今、入院してるゴミクズも、事を荒だてないように必死なゴミ教師共も。全てを壊してみせる。あなたが望むなら。」


美礼は光が消えた目で、不敵に笑みを浮かべて俺を見据えてくる。


「いや、これは俺1人の問題だ。お前の力は借りない。」


「そっ」


美礼は少し残念そうな、どこかつまらなそうな表情で、自分の教室に戻っていった。



もちろん、この状況の校内で白仲に話しかけることは不可能なので、俺は放課後になる前に、LIMEでやりとりをする。



[衣装は家で作る、完成したら家に持っていく。照明はちゃんと森田に引き継ぐ。何も心配するな。]


[で、でも、私、君がこんな状況なのに、白雪姫とか... ]


[頼む。俺のためだと思って劇に集中してくれ。]


[わかった。私のせいで、本当にごめんなさい。今後のことはまた家来たときに話そ...なんかあったらいってね。ノートもとっておくから...]


[あぁ、ありがとう。また連絡する。]



謹慎中、衣装作成以外に何しようかな。


面倒くさいから伸ばしっぱなしだったけど、心機一転、髪でも切るか。


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