第14話 プランナーとしての覚悟
「おはよー!」
「おはよう!」
「お!白仲さん!おはようっー」
柚香は今日も登校して早々、近くにいるクラスメイトに分け隔てなく、笑顔で挨拶する。
涼に指示されてからは、毎日の日課となっている。
「白仲さん、最近、劇の練習見ててもめっちゃいい感じじゃん!もう準備万端て感じー?」
「いやぁ、まだまだ全然だよ!覚えたセリフを言うことはできるけど、演技としては棒になっちゃう時あるし!」
「おぉ、もはや、プロの意識!さすが!」
柚香の前の席である相田が話しかける。
「でもさ、練習ばっかりで疲れてるんじゃね!たまには息抜きも必要だよ!」
「そうだね...やっぱり大事だよね。リフレッシュする時間もとらないとね。」
柚香は、衣装作りやプランナーとしての仕事に没頭してくれる涼の姿を頭に浮かべながら答えた。
「なぁ、今度息抜きも兼ねてカラオケでも行かない? 他にも誰か誘っとくからさ!」
「え... ああ、うん!いいよ! いつ?」
「今度の水曜の放課後とかどう?」
柚香は、水曜の放課後という、ここ最近でなぜか少し楽しみな時間でもあり、そして自分のために大事なでもある時間を潰してのカラオケの誘いに、当然のように断ろうとしたが、打ち合わせの本来の目的、ゴールを考えれば、このカラオケを優先すべきだと判断した。
「あー、うん。分かった!次の水曜ね!」
「よし、じゃあ、駅前のビックラボに現地集合で18時からね!面子は俺に任せて!」
「分かった!ありがとう。」
柚香は、最近仲良くしている波島や、涼の指示がある前から元々心から信頼がおける友人である、有島美希や相模果歩などの面々が来てくれることに期待しつつ、クラスメイトの誰が来ても上手く振る舞ってみせるという決心を持って承諾した。
白仲からのLIMEがきた。今週の水曜日の放課後はクラスメイトとカラオケに行くことになったから、打ち合わせは中止にしてほしいとのことだ。
まぁ、今は俺がひたすら良い衣装を作るというフェーズに突入しているので、問題ないか。
俺は、了解した。と返信する。
クラスメイトの関係性は把握しておきたいので、誘ってきたのはだれかを聞いておいた。誘ってきたのは相田か。
クラスメイトと行くとのことなので、普通に八島とか波島がくるパターンだとは思うが...
あまりいい噂を聞かないサッカー部3年が絡んでくることも警戒すべきかもしれない。
まぁそんなことを白仲にいっても、せっかくの息抜きに水を差すことになるので、黙っておく。
涼はまるで父親のような気持ちで、柚香の心配をしつつも、純粋に息抜きを楽しんでほしいと考えながら、自分は衣装作成に勤しんでいた。
水曜日の放課後、
「お待たせー。」
「お!白仲さん!お疲れ!」
「あれ?相田君1人?」
「あ、いや、他の人は中にもういるよ!」
「そうなんだ!」
柚香は相田の後ろをついていって、既に先に人が入っているという部屋に入る。と、知らない男子生徒が2人。
「え...」
「お!きた!白仲ちゃん!!」
「相田君...この人達だれ...」
「サッカー部の先輩!!!」
「聞いてないけど...」
「まぁ、いいじゃんいいじゃん!白仲ちゃん!ほらこっちこっち!」
柚香はサッカー部3年の2人の間に座らせられた。
「白仲ちゃんは彼氏とかいるの?」
「いないです」
「えー、じゃあ俺と付き合っちゃう?楽しいことたくさんできるよ?」
「い、いやぁ...まぁあんまり先輩達の事知らないので...」
「じゃあこれから、どんどん知っていこう!」
柚香の気分は最悪だった、デリカシーのない質問も、体を舐め回すような視線も、明らかに多いボディタッチも。全てが気持ち悪かった。
盛り上がってるのは、気持ちよく歌う先輩達と合いの手をいれる相田だけだった。
白仲は終始、ノリ気じゃないまま、カラオケをやり過ごした。
「ふぅぅー楽しかった!、よし次どこいく?!」
「あの...私そろそろ...」
「は?まだ時間あるっしょ、せっかくだしどこか入ろうよ。」
「いえ、私、この後用事があるので...」
「いやいやいや、大丈夫大丈夫、俺らと楽しいことしようよ。その後気持ち良いこともしちゃったりして。」
柚香は背中に悪寒を感じたので、その場から無理矢理立ち去ろうとする。
「生意気だな、お前。いいから来いつってんだろ。」
すると、サッカー部3年が、柚香の腕を掴んできた。
「ちょ、先輩、流石に...」
「今後部活で痛い目にあいたくなかったら、邪魔すんなよ相田。お前はもう帰れ。」
「でも...」
「あ??」
「...か、帰ります。ごめん白仲さん。」
相田は先輩に完全に萎縮してしまい、その場から立ち去った。
「ちょ、ちよっと!」
「よーし、こっから俺らと楽しいことする時間だ。」
「は、離して!」
「暴れるな、このっ!」
柚香の抵抗に苛立ったサッカー部3年の1人が、柚香を大人しくするために、手を出そうと振りかぶった瞬間。
パシッ
何者かがその振りかぶって腕を掴んだ。
「こいつの顔や体に少しでも傷をつけたらお前ぶっ殺すぞ。」
そこに現れたのは涼だった。
「下田君?!」
「あ!?なんだてめぇ、ボコられてぇのか。」
「それはこっちのセリフだ。」
直後、もう1人の3年が後ろから殴りかかってきた。
俺は後頭部に鈍痛が走ったがそれに耐えて、元々掴んでいた腕を離して、後ろから殴ってきたそいつの顔面をカウンター気味に思いっきり殴り飛ばした。
涼には人気漫画やラノベの主人公のような、抜きん出た喧嘩の強さはない。肉体的にもヒョロヒョロではないとはいえ、屈強というわけではない。
小学校低学年の時に空手教室に通ってたくらいのレベルだ。
だが、プランナーとして、自分がプランニングしている女性を傷つけられることは、絶対に許せないし、それをさせるわけにはいかないというポリシーが涼の体を突き動かした。
涼に後ろから殴りかかってきた方の3年は、一発で地面に倒れた。
パンチをもらうことを想定しておらず、しかも、自分の攻撃に意識がむいている状態でもらう、いわゆるカウンターは、パンチそのもの威力がなくても、ダメージは相当ななものとなる。
「くっそ!こいつ!」
2人目は顔面にハイキックを叩き込んできた。1人目の相手をした直後でガードは間に合わなかった。サッカー部の蹴りというのもあって、そこそこな威力があった。
「へへっ、ここでボコって校内で晒し上げてやる!」
そんなセリフと共に、攻撃を続けてくる3年。涼は攻撃をもらい続ける中で、反撃の機会を伺う。
「下田君!」
柚香は青ざめた顔で、状況を眺めることしかできなかった。周りを見カメラを向けてくる人はいるが、止めてくれる人はいない。
「よっしゃ、とどめだ!ぶっ飛ばしてやる!」
これは、大振りのパンチがくる───
涼の直感は正しかった。直後、強烈なカウンターが3年のテンプルに入った。無論、3年は前に倒された仲間と同じく、地面に倒れた。
「ちょ、大丈夫?!」
涼の元に駆け寄る柚香。
「やっぱこういうのは性に合わないなっ、ボロボロだ...」
涼は笑いながら冗談めかして言った。
「ていうか、なんで?もしかして、元から助けようと見張ってたの?」
「いや、サッカー部の3年の良くない噂は聞いてたから心配はしてたけど、行くのはクラスメイトって言ってたし、大丈夫かと思ってマジで普通に帰ってた。ごめん。そしたら、百貨店で素材買った帰りに本当にたまたましつこく絡まれてるのを見つけたんだ。」
「ごめん...ほんとに...」
「いや、白仲は悪くない。こいつらがクソなだけだ。 怖かっただろ。ルール違反だが、今日は家まで送る。」
涼は柚香を家まで送り届けると、柚香の心配を振り切って自宅に直帰した。
翌日、相田の誘いから始まった、サッカー部3年との一連の事件は校内に拡散された。
下田涼という陰キャのストーカーが、白仲柚香がサッカー部の先輩お仲良くしていることを知って、嫉妬に狂った結果、先輩達に暴力を振るったという内容で。
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