第11話 お似合いの二人
衣装を作るには、まずパターンを作成する必要がある。
パターンとは、服を作るための設計図を指すもので、服の見た目を形よく、着心地よく完成させるために作られる。パターンは先日の白仲家訪問もあって、作成に時間はかからなかった。
白雪姫は色合いが定番の赤、青、黄を基調にしたものだと決まっているので、後は衣装を形にするだけとなる。
今日の放課後、素材の買い出しにでもいくか。
下田涼は休み時間にパターンを見つめながら考えていた。
「涼ちゃん、それ何見てるのー??」
また面倒くさい時に来たな…
「またいきなりなんだ、いつも音もなく近寄ってくるなよ、美礼。」
「いいじゃない、別に。 で、それは何を作っているのー?」
「どうせ知っているんだろ?」
「ふふっ、劇の衣装のパターンってところかしら、白雪姫やるんでしょ?」
こいつ、まじでどこまで知ってるんだ…
「楽しみだなあ、クラスのイケメンと人気者の白仲さんのペア。きっと素敵なんでしょうね。」
「まぁな、俺も楽しみだ。」
「自分を酷使するのは効率的で悪くないと思うけど、辛くなったらいつでも私のとこにおいでね、涼ちゃん。」
美礼はまるでこの先の展開をすべて読み切ったかのような、他愛に満ちた笑みを浮かべながら涼に耳打ちした後、上機嫌な足取りで自分のクラスに戻っていった。
「はーい。今日も始めるよー。」
吉森さんの合図で、今日もまた劇の練習が始まる。
最近では、出演者全員がセリフを覚えてきたところらしい。
俺は相変わらず照明のステージ割り振りや色の配色、タイミングなど、地道な作業を繰り返している。
「セリフも馴染んできたところだし、そろそろ本場に近い形で練習始めようか。」
八島が出演者に提案をした。もちろん、全会一致で、本番さながらの動きを付けた練習に突入することとなった。
白雪姫には、数々の名場面や名セリフが存在する。この世で一番美しいのは誰?のくだりや、原作から改変はされているが、王子様のキスによって白雪姫が目を覚めるくだりなどが挙げられる。
そんな山場のシーンを中心に練習が繰り返される。波島が演じる悪役の王妃のえんぎはしっくりきすぎてマジで怖かった。えげつない照明あてて完璧な悪を作りあげよう。なんか照明も悪くないな。楽しくなってきた。
もう一つの名シーンであるキスのシーンだが、もちろんマジのキスはしないが、それなりに顔を近づけて、観客からみてキスをしているように見せる必要がある。
まあ、当然、このキスの練習の時は、周囲から黄色い歓声があがる。
「あの二人もう付き合ってるんじゃない?」
「ね、絶対そうよ、美男美女!」
白仲がクラスの人気者になってから、男女ともに、この2人を応援する風潮がクラス内でできあがっている。俺のせいでもあるのだが、よくもまあ当の本人の気持ちを知らない人間がここまで勝手に盛り上がれるものだ。
「もう少し顔を近づけないとお客さんにキスしてないのが伝わっちゃうかな??白仲さんはどう思う?」
「い、いやー私はこれで充分だと思うけど…」
「そ、そうだよね。ごめん、真剣すぎたかな。」
「ううん真面目に取り組んでて、凄いと思うよ!」
おーなんかいい感じに白仲と八島が会話が進んでいる。いい傾向だ。少し八島の距離が近いとは思うが。
この二人の間には恋愛感情が生まれていたりするのだろうか。来週の水曜日に白仲にヒアリングでもしてみよう。
「そうだ、衣装のほうはどうかな?」
「あー、う、うんいい感じ!王子様のもかっこよく作るね!」
なんかすまん、白仲。
よく考えたら、白仲のためとはいえ、俺はあいつに嘘ばかりつかせている。今後は白仲本人への配慮を加味したプランにするべきだと少し反省しながら、俺は照明の機材の設定をいじっていた。照明楽しい。
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