第10話 白仲家 ep3
幼稚園年長くらいのだろうか。セミロングの髪を短めのツインテにまとめた女の子がきょとん顔で玄関に入ってきた。
「ママっー このひとだあれ?」
「この人は、お姉ちゃん達の友達よー」
「おねえちゃんのともだち…じゃあおにいちゃん?」
「初めまして、お邪魔してます。しもだりょうって言いますっ えっと、」
突然の天使からのお兄ちゃん呼びに、弾む心を表情に出さないようにこらえながら、怖がらせないように簡潔な自己紹介を済ませる。
「あ、この子は三女の香南っていうの。仲良くしてあげてねー。」
「そうなんですね。よろしくね香南ちゃん。」
「うん…」
初対面だからか、シンプルに俺が怖いのか、分からないが、香南ちゃんは白仲の後ろに隠れてしまった。
「ごめんねー、あんまり男の子と遊んだことないから、恥ずかしがってるのかも。」
「いえいえ大丈夫ですよ。世界がひっくり返るくらい可愛いですね。」
「でしょでしょー、たくさん遊んであげてねー。とりあえず中に入りましょっ」
この世に香南ちゃんという天使を誕生させた張本人である白仲母の案内で再びリビングに案内してもらう。白仲家の面々と一緒に大きなコの字型のソファーに座らせてもらうことになった。
…さっきから、白仲の背後から香南ちゃんがこちら覗いてくる。
可愛い。
「香南ちゃんはいまなんさいですか?」
「…ご。」
香南ちゃんは手をパーにして顔の前に出す。
「そっかーごさいかー。おにいちゃんはね、16さい。」
「じゅうろくさいずるいっー、かなんもじゅうろくがいい! じゅうちょうだい!」
「えぇ…」
「ふふっじゃあ下田君6さいになっちゃうねっ」
白仲は香南ちゃんの頭を撫でながら、楽しそうに言った。
俺がさせているクラスメイトとの談笑のときには見せない、家族への愛情からきているだろう心からの微笑みに俺は目を奪われた。
本当の意味で、美しいと、綺麗だと思えた。
「おにいちゃん、遊ぼうっ!!」
「いいぞー何するんだー?」
香南ちゃんは白仲の膝の上からおりて、いったん和室に入り、ままごとグッズを持って俺の方に駆け寄ってきた。遊びに誘ってきた。可愛い。
「ままごと!」
「よし、おにいちゃんは何役かな?」
「だんなさん!」
「お、じゃあ、香南ちゃんがお嫁さんかな?」
「ううん。それはいや。」
なんでええええええええ。
「およめさんはゆずかねえちゃんっ、かなんはふりんあいて!」
なんでええええええええ。
「どこでそんな言葉を覚えてきたんだ…」
俺だけでなく、白仲父も複雑な反応だった。
「最近やってる昼ドラじゃないー?」
陽香さんは終始楽しそうな表情で喋っていた。
ままごとの設定に白仲は最初は困惑していたが、あくまで香南ちゃんの思いつきだからか、設定の上で俺は罵倒してきたり、料理の出来をきいてきたくるなど、ままごとを一緒に楽しんでいた。
最後に2人の不倫相手として、陽香さんが腕に飛びついてきた時は死ぬかと思った。色んな意味で。
それを見た白仲父は怒ることはなく、なんかそわそわしていた、大丈夫かこの家族。
ままごとを終えると香南ちゃんは疲れたのか、陽香さんに抱きつきながらぐっすり寝ていた。
その後、皆で食卓を囲んで、白仲の両親の馴れ初めなど、色んな話で盛り上がった。
ポテトサラダがマジで美味かった。
最初は断られたが、ご馳走して貰ったお礼に、洗い物を手伝った。
「下田君、今日は香南とまで遊んでくれてありがとう。」
「いえいえ、逆に長居してしまって申し訳ないです。」
「ううん。陽香も柚香も楽しそうだったわー、久しぶりに見たわよあんな顔。下田君もみんなの相手して大変だったでしょう。」
「うちは両親も仕事尽くしで、妹も年頃なので、あまりこういう一家団欒の中に入ることがないので、とても幸せでした。」
「そう、思ってくれたなら嬉しいわ。またいつでもおいで。」
「はい。ありがとうございます。」
「柚香は凄く繊細な子だから、色々大変だと思うけど、よろしくお願いできるかしら、」
「分かりました。」
そのよろしくが何を意味しているか、分かりかねたが、俺は前向きに返した。
「今日は色々と大変お世話になりました。」
「…おにいちゃんかえっちゃうの-?? かえっちゃいやーっ」
「こらー。香南、下田君を困らせちゃダメ。」
玄関で挨拶をすると、香南ちゃんがしがみついてきた。
香南ちゃんを白仲が引きはがそうとする。
「ごめんなー。また遊ぼうな。香南ちゃんにあげた10歳分取り返しにくるから、待っててくれ。」
「うん。分かった!」
くああああああ。可愛いいいい。これは決意せざるを得ない。
俺はここに、必ず戻ってくる(キリッ
「なに考えてるの? もう…変な顔して。」
「すまんすまん。とりあえず今日測ったサイズをもとに衣装は作る、デザイン固まったら候補をいくつか持ってくる。また水曜日な。」
「明日月曜日だけど…」
ツッコミをもらいつつ白仲とも別れの挨拶を交わす。
「またおいでっ、食事の件、今度また連絡するね。」
「ありがとうございました。はい待ってます。」
今日の陽香さんはいつもより大人に見えた。
家族でいる時は三姉妹の長女として少し包容力がある雰囲気で新鮮だった。
「またいつでも来なさい。」
「ばいばーい!」
白仲家の全員に一礼して、俺は白仲宅を後にする。
…なんか寂しい。
久しぶりに人の温かさに触れて、あの空間から離れるのがとんでもなく寂しく感じた。急に一人になるとよりそれを強く感じる。
下田涼は、一家団欒の温もりの余韻に浸りつつ、そこから現実に引き戻されるかのように、自宅へと足を進めるのであった。
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