第6話 白雪姫と王子様
「柚香はどう?意外と素直で良い子でしょ?」
「まぁそうですね、正直依頼主が陽香さんの妹でクラスメイトだとは思いませんでしたけど、名字気にしたことなかったのが裏目でしたね。」
白仲柚香ヒロイン抜擢大作戦が成功した日、家に帰り着いた直後に陽香さんから電話がかかってきた。彼女はどこか楽しそうに弾んだ声で続ける。
「柚香はねー、すごーく良い子だけどめちゃくちゃ繊細だから、ちゃんと引っ張っていってあげてね。」
「まぁ、使えるものは全部使いますよ。」
「私の時とはまた違ったやり方みたいだね。あんまり無理はしないようにね。」
この人は水城とはまた違ったベクトルで勘がいいというか察しがいい。陽香さんのプランナーとして仕事を手伝った時は、自分を活かしてというよりは俺の持ってる全ての知識をフル活用して、彼女の手伝いをした。
正直、陽香さんは元々のスペックがバカ高い上、頭も良いので難易度は高くなかったが。
「はい。あざっす。あ、最近陽香さんについてる人変わりました?コーデとかメイク雰囲気変わりましたね。」
「そう!最近新しい人がついてて、大人っぽい感じ。私的にはありがたいねー。もう21だし。涼くん的にはどう?」
「ありだと思います。陽香さんの魅力が、より引き立ってます。最近ゆるふわのゴリ押しがちょっと気になってたので。」
プランナーによって、モデルの売り込みの方向性が変わってくるケースは少なくない。最近の陽香さんの活躍を見ると、良いプランナーに恵まれたのだろう。
「あ、そうだ。今度ご飯でも行かない?お姉さんがご馳走したげるっ!」
「行きます行きます。」
信頼している人間からの誘いは基本断らない主義だ。
「じゃあ、スケジュール空けれそうな日分かったら送るね!」
「分かりました。お待ちしてます。」
陽香さんとの通話を終え、俺は今日も白仲について今後の展開に思考を巡らせる。
学祭準備期間の放課後、クラスでの劇の練習が本格的に始まる。 題材は白雪姫。白雪姫役はもちろん白仲、王子様役は八島だ。悪役の王妃は嬉々として学級委員の吉森さんが立候補したことにより。即決定した。
俺は照明係に決まった。まぁ王妃もびっくりの真の悪役陰キャの俺だ。ステージに立たせてもらえないのは当然といえる。
まぁでも、正直ありがたい。押し付けられた係とはいえ、白仲の美しさを際立たせるという点においては、目的の達成へのアプローチができるとも考えられる。
「とりあえず、全体の配役は決まったからセリフの練習を始めようか。どんな役でも一人一人が頑張ること大事だから、みんな一緒に頑張ろう!」
八島の呼びかけでクラスが一丸となる。
セリフの練習はしばらく続いた。そして1回目の準備日の最後の時間、衣装について話し合いが行われた。セリフとかの練習は俺には無関係だし、そもそも関わらせてもらえないが、衣装となると別だ。
もちろん俺が直接動くわけではないが、既に指示は出している。
「私、服飾系前から興味あって、王子様と白雪姫の衣装は私が作ってきても良いかな?」
白仲が提案する。
「白仲さん服作れるの?凄いね!」
吉森さん含め、周囲のクラスメイトから、感心の声。
「白仲さん、王子様のも作ってきてくれるの?ありがとう。大事に思ってくれて嬉しいよ。頼んでも良いかな?」
八島がなんとも分かりやすい喜びの表情を浮かべながら白仲にお願いする。まぁ全て俺の指示だが、王子様の衣装も作ってきたいと発言してくれたのが余程嬉しかったのだろう。
「ねぇ、やっぱりあの2人...お似合いだよね。」
「もう付き合ってたりして...」
最近、白仲と八島の関係を噂する声もちらほら出てきた。以前までの白仲ならこんな噂が立つには、それなりの付き合ってる感満載エピソードが存在する必要があったが、今は違う。
地道に行ってきたクラスメイトへの気遣いやコミューケーションとイメージ戦略として整理された清楚な外見により、1人の女性としてイケメン王子様の八島とのカップリングを想像したくなるようなポジションへと到達したのだ。
人が脳内でラブストーリーを思い浮かべる時、登場人物が自分じゃない場合は大体有名な俳優や女優、もしくは美男美女キャラを思い浮かべる。
◯4時間の再現ドラマでも、大体美男美女が演じるから、よりエピソードを美化して観れるというものだ。
とりあえず衣装はなんとしても俺が家で作ってきたかったので、そうなるように白仲に指示を出した。みっともない格好で全校生徒の前に立たされてはたまったものではない。
逆に、ここで衣装、メイク、共にカマせば、全校生徒から一気に憧れの的となる。
またもや計画通りに進んだ事前準備時間を終えて、俺は屋上前階段へと向かう。今日は水曜日だ。
階段に着くと、どこか不服そうな表情の白仲が待っていた。
「ちょっと今日は色々言いたいことがある!」
白仲の初っ端の発言に、なんか面倒くさいことになりそうな展開を予想しつつ、俺はいつも通り打ち合わせを始める。
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