第5話 自分という切り札

そろそろ学園祭の季節。1年にとっては今後の学校生活のキーとなるイベントだ。

出し物を決めて、クラス一丸となって1つの目標に向かって進んでいく。

この過程を含む学園祭は、入学から漠然と決まっていたクラス内カーストがほぼ確定するイベントと言っても過言ではない。


仕切る奴、盛り上げる奴、空気を読んで従う奴、主役の奴、嫌な役割を押し付けられる奴などポジショニングはそれぞれだ。


俺はもちろん学園祭そのものに興味がないし、そこから浮き彫りになる自らのポジションなどどうでも良い。しかし、白仲にとっては、この一大イベントは非常に重要なポイントになってくる。

ここの立ち回りが上手くいけば、土台固めは盤石なものとなる。




「じゃ、学祭の出し物決めていきまーす。」


HRの時間、みんなの優しいまとめ役である学級委員の吉森さんの司会で、話し合いがスタートする。


「はい!やっぱ、あれっしょ、メイド喫茶、男は執事かなんかやってさ。」


「もぉーあんたメイドコスプレ見たいだけなのバレバレっ」


「相田っ、君の企みは女子のみんなもお見通しみたいだね。」


初っ端、サッカー部に所属するクラスのムードメーカーの相田と少しギャルっ気のあるクラス内女性カーストトップの波島のやりとりに対して、

1年にしてサッカー部のエースであり、性格が良い上に圧倒的イケメンなことで校内でモテまくっているイケメン王子こと八島が優しいオチをつけたことで、クラス内が盛り上がる。


その後も、中心人物のおもしろやりとりを挟みながら、たこ焼き屋、お化け屋敷など、様々な出し物候補が黒板に記されていく。


HRの時間が半分を過ぎたところで、俺は白仲にアイコンタクトを送る。


「あ、私も1つあるんだけど、劇とかどうかな? 私、白雪姫とか憧れててさ、あ、全然私がヒロインやりたいからとかじゃないんだけどね!」


「おー、劇かぁ、それもあるねぇ」


何とも当たり障りのないコメントを残しながら吉森さんは黒板に劇を書いた。

クラスとしても、否定的なムードはないが、全肯定なムードでもない、微妙な空気が流れていた。


最近株爆上がり中の白仲の発言とはいえ、この空気になるのは無理もない。

思春期の人間が多い高校生だ。劇を行うのは少し恥ずかしいという生徒も多いし、クオリティの高い劇にするには準備に時間がかかる。

まぁ当然の空気だ。だが───



「は、劇とかだっさ。どこに需要があんだよ。」


俺は仕掛ける。


「ねぇ、そこの君、下田君だったかな、その言い方はないんじゃないのかな?白仲さんに失礼だ。」


いつもより少し声のボリュームを上げて、出し物ごときに真剣になろうとする奴まじでダサいんだが感満載で白仲の案を馬鹿にした俺に、イケメン王子こと八島が注意してくる。


「失礼? いやいや、まず劇そのものがセンスない出し物だけど、そもそも白仲さんじゃ力不足もいいとこなのに、少しでも希望持ってる感あるのが笑えるからさ。」


「ほんとに最低...」


「なにあいつ陰キャのくせして、白仲さんマジ可愛そう。」


「白仲さん、あんなやつの言うことなんか気にしないで。」


陰キャ下田の唐突な発言の連続に、

徐々にクラス内のヘイトが溜まっていく。

そして困惑した表情でおろおろする白仲。


「なぁみんな、出し物はやっぱり劇にしないか。ヒロインはもちろん、白仲さんだ。みんなどうかな。」


「それ良いね!あの陰キャに分からせてやろうぜ白仲さん!」


「私も賛成。柚香の気持ち考えたら...辛くなってきた。あいつを見返そうよ!」


イケメン王子の英雄のような発言に、相田、波島が賛同した。そして、そうだそうだ と吉森さん含め他のクラスメイトも賛同していく。


「よし、決まり!!出し物は劇で決定ね!」


吉森さんの締めの言葉で出し物は劇で確定した。ヒロインはもちろん白仲、主人公は会話の流れから、必然ともいうべきか八島に決定した。


こうして、1年5組の学祭は、

陰キャ下田vs下田を除く5組の生徒 という構図の元、進んでいく流れと相成った。





完璧だ。我ながら美しい。。。計画通りだ。


その日、俺は下校しながら、今日のことを振り返り、感慨にふけっていた。


・白仲が主役となる出し物(メイクや衣装などを活かせばより白仲ぎ輝くようなポジションなら、なお良し)


・白仲柚香という人間のストーリーを美化させる悪役の誕生(同情を誘うことで嫉妬による同性の邪魔を防止)


・今後肝となるであろうイケメン王子との繋がりの強化


自分で設定したこの3つの条件をクリアできた。俺、陰キャ下田という道具を持ってすればさほど難しいことではないと考えていたが、ここまで上手くいくとは。


「ちょっと!ちょっと待ってよ!下田!」


るんるん気分で通学路を歩いていると、後ろから声が近づいてくる。なんか知らんうちに呼び捨てになってる...


「ルール忘れたのか、あまり大きい声で話しかけるな...」


「い、いや、だって、あれなに?!あの流れに持っていくために私に、 あのセリフ言わせたの?」


そこそこ走ってきたのだろう、息を切らしながら白仲は問い詰めてくる。無理もない。俺は出し物決めがある日の前の週の打ち合わせで、ヒロインに憧れているというアピール付きで劇を提案するようにセリフまで決めて指示していた。が、共有していたのはここまで。

白仲本人もその後の急展開に困惑しているのだろう。


「まぁそんなところだ。お前が輝けるビッグチャンスだ。絶対にモノにしろ。」


「でも、このままじゃ下田は...」


「自分が何のために俺みたいな陰キャと絡んでいるかを忘れるな。あと、これ以上話してると誰がに見られかねんから先に帰るぞ。」


計画がおじゃんになる要素は少しでも無くしておきたいので、俺は白仲を置いて。そそくさと帰る。


白仲柚香はそんな下田の後ろ姿を、感謝と心配そしてその他のよく分からないないモヤモヤとした複雑な感情を抱きながら複雑な表情で眺めていた。

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