第4話 土台作り
ラノベやラブコメ漫画で登場する、校内で人気を博する美少女には大きく分けて2パターン存在する。
・圧倒的に飛び抜けた容姿で、本人の立ち振る舞いに関係なく注目を集める人
・優れた容姿でかつ、普段の仕草や誰にでも分け隔てなく接するコミュ力を携えていることから、皆から慕われて注目を集める人
本人には申し訳ないが、白仲が周囲からの支持や憧れを集める人気の美少女生徒になるには、後者のパターンを狙うしかない。
もちろん、見た目の部分も様々な修正を加えるが、それは、素材は良いが地味なイメージの女の子を周囲の目を引く美少女に変えるだけであって、美少女を世間が注目するレベルの絶世の美女に変えることとはまた違うのである。
本人のモチベーションにも関わるので、ハッキリ伝えはしないが、まずは最低限の立ち振る舞いから変えていくように指示を出していく。
それにより、人気者への土台を校内で作った後、最後にビジュアルの部分を本気で仕掛けることで、一気に人気をかっさらうというプランだ。
「白仲、まず、指示を出したビジュアル修正をさっそく実施してきたのは偉いよ。ありがとう。」
「それはまぁ指示出されたんだからやるけど...」
「プライドが邪魔して素直に指示を聞かない女性も多いんだ。」
「それはまぁ、私もメイクをナチュラルにして髪型もいじらずに伸ばし続けろって言われて抵抗はあったけどさ...地味から脱却しようとしてたから。」
「地味じゃなくて、清楚を目指すと捉えてほしい。結局はクオリティの高い清楚が一強なんだ。」
契約を結んだ翌週の水曜、白仲は指示を出したことを全て実施してきた。相当変わりたいという気持ちが強いのが伝わってくる。素直な相手は非常にアドバイスしがいがある。
「で?次は何をすれば良いの?」
「最初に話をしたが、見た目の部分のアップデートは一旦止めて、周囲の人間への立ち振る舞いを変えていく。」
「まぁそうなるよねぇ...大変そう...」
不安そうな白仲だが、こればかりは本人に頑張ってもらうしかない。
「大丈夫、最初は違和感あるかもだが、きっと慣れる。てか元々コミュ力低くないだろ?それを発揮する範囲を少し広げるだけだ。白仲なら余裕だ。」
「よ、よし!なんか行ける気がしてきたっ」
この子扱いやすい...
その後、白仲は終始不安そうな顔を覗かせていたが、無事2回目の放課後打ち合わせを終えた。
2回目の打ち合わせの翌日、退屈な国語の授業を終えた休み時間。
「え、森田君それ、シノーメンのファイル?すごい!どこで買ったの?」
「え...」
「あ、ごめんね、たまたま目に入って気になっちゃって、」
「い、いやびっくりしただけ... こ、これ近所のハニメイトに売ってて、ラスト一個だったんだ。」
「おー運良いね!私も今度ハニメイト行ってみるっ 教えてくれてありがとうっ。」
話しかけられた大人しめな性格でクラスでもそんなに目立たない森田は会話後も少しだけ浮ついた表情だった。直後、友人に軽いじりを受けていた。
そのやりとりを、教室の隅から眺めていた俺は、心の中で、軽い安堵と共に、彼女に感心していた。
実践しているコミューケーションのバランスが俺の指示通りだ。
これくらいの会話が丁度良い。会話が盛り上がりすぎても、熱心な恋心を持たれたりして後々厄介になる。
2次元寄りの趣味にも精通してて、目立たない男子とも分け隔てなく会話をする女性像をクラスメイトに刻みながらも、距離感を保つ。
こんなことが目的達成に繋がるのか、白仲は疑問に思っているだろう。
まぁ今はそのうち分かるから頑張ってくれとしか言えないが。
白仲は翌日以降も、指示通り次から次へと布石を打っていく。
その間、まだ俺は動く段階ではないので、状況を静観していた。
「なぁ、最近、白仲さん良いよな...」
「分かる、人当たりも良いし、何より...清楚美人だ...」
「あんな感じだったっけかな、」
「な!印象変わったっ」
こんな声もちらほら聞こえるようになってきた。
白仲の努力は少しずつ結果へと繋がってきている。
「ねぇ、涼ちゃんさ、最近なんかあった?」
「...なんで、クラスの違うお前がこの教室にいる」
良い調子じゃぞ。良いぞ白仲。と我が子を見守る親のごとく一安心していたら、俺が知りうる人間の中で一番ヤベェ奴が話しかけてきた。こいつはヤバい。こういう場合は、
「トイレはついさっき行ってたよね。昔からお腹弱いとかないよね。」
怖いぃぃぃ...
「なんで知ってんだ...」
「で、最近なんかあった? ? なーんか最近どこか楽しそうなんだよねぇ...」
この銀色の長い髪に、少しだけ切れ長の目、ハーフのような整った顔立ちの女性は、親の仕事の関係で一応昔からの知り合いだ。その美貌から校内では人気を博しているが、その近寄りがたいオーラから、他生徒とは一定の距離感が存在する。
そして昔から勘が良いのか、シンプルにストーカー気質なのかよく分からんヤベェ怖さを持っている、昔から俺にちょっかいをかけてきたり、全てを見透かした感じで、探りを入れてくるから、正直あまり得意ではない。
「本当になんもねぇよ...生粋の陰キャ舐めんな」
「なら、私とお付き合いして、陰キャ脱却で良いじゃない。」
水城はクスクスと笑いながらからかってくる。こちらの反応を見て楽しんでいるのだ。
「からかうな、やっぱお腹壊したからトイレ行く。あ、そーいや最近寝不足か?目に出てるぞ。肌にも悪い。ちゃんと寝ないとご自慢のお顔が台無しだ。」
反撃の意味も持たせて、去り際に一言添えてやった。
「食えない人...」
水城みゆきは去っていく彼の背中を見ながら無表情で呟いた。
一方、白仲は、下田の指示に沿ってクラスメイトとコミューケーションをとりながら、その2人のやりとりを遠くから横目で見ていた。
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