第3話 ルール
「下田君...? だよね? ごめんね、ちょっとここで待ち合わせしてるから、場所譲ってくれないかな?」
「あ、あぁ... すまん。」
なんだこれは。陽香さんから、知り合いの相談にのってほしいと頼まれたから渋々引き受けて、指定された場所に来たんだが。なんでここに...白仲が...
あ。
「間違いだったら申し訳ないんだけど、もしかして陽香さんの知り合いって白仲のことか?」
「う、うっそ... じゃあ姉さん紹介の生徒って下田君? 」
陽香さんと白仲が姉妹ということを含めて、なんとなく流れを察した俺の問いかけに対して、白仲の明らかに顔が引きつっている。
いやもう少し隠す努力してぇ。と思いながら、とりあえずお互いの状況のすり合わせを目指す。
「あのーあれだ。俺は陽香さんに、ここに来て知り合いの悩みを解決してほしいと頼まれた。」
「いやいやいやいや。そもそも、なんで下田君が姉さんと知り合いなの?」
「実は、 陽香さんと俺は昔、将来を誓い合った
仲でな... 結婚の約束もしてるんだ... 」
「真剣に答えないと、制服くずして涙目で大きい声出すよ?」
「申し訳ございません。両親の仕事の関係でモデルとしてご活躍されているあなたのお姉様と交流がありまして、今回の流れに巻き込まれる形となりました。」
おっと、陰キャの分際で調子に乗りすぎた。このままだと社会的に死ぬ。
「最初からそういえば良いじゃない...にしても、下田君が私の悩みを解決って...」
まぁ怪訝な目で見られるのには慣れてるが、ここまで警戒されるとは。まぁ仕方ないか。前髪で片目は隠れてるし、友達もいない、しまいには全身から放つこの陰キャオーラだ。
「まぁ、とりあえず、陽香さんには恩があるし、白仲の悩みを聴かせてくれ。大体想像はつくけど。」
普段なら、絶対にこんな面倒くさそうなことに関わるのはごめんだが、陽香さんの頼みなら無下にできない。
「う、うん... 下田君なら話してもいいかも...打ち明けても私の生活に影響出なそうだし。」
お、おう。
「私はもっと可愛くなりたい綺麗になりたい。周囲から一目置かれるようなそんな存在になりたいの。」
前半の失礼なロジックはほっといて、まぁ願望としてはそんなものだろうと思った。
「でもまだ正直、下田君が私の望みを叶えてくれるとは思えないんだけど...」
「まぁ、だろうな。今回の件に乗っかるかどうかは、白仲が決めることだ。好きにしてくれ。」
「............うーん。
いや、姉さんはこういう手合いでふざけるタイプじゃないと思うし。それに仕事の繋がりで姉さんと知り合いなら、知識もありそう。乗っかるよこの話。」
プロ棋士もびっくりの長考の末、乗っかることにしたみたいだ。やっぱり陽香さんは信頼されているんだな、流石だ。あの人は普段おちゃらけた人だけど、行動や考えに芯がある。そのギャップが人を惹きつける。
「よし、ならそうだな... 俺が白仲を手伝うにあたってルールを作ろうと思う。」
「ルール?」
「周囲に注目されるということは、容姿や振る舞いに磨きをかけてカーストを駆け上がる必要がある。そのプラン俺との関係性が広まるのはデメリットしかない。」
「ま、まぁそうだね...」
「だから、ルールを設ける。まぁ契約みたいなもんだ。」
白仲の望みを叶えるにあたって、俺が2人の間に設定したルールは、この4つだ。
(1) 周囲に生徒がいる状態で、むやみにコミュニケーションをとらない
(2)学内の生徒に2人の関係はバラさない
(3)白仲の目的が達成したら、関係は終わり
(4)毎週水曜に、屋上前階段でアドバイスや反省を行い、翌日から即実行。
「まぁ、妥当だね。問題なさそう。」
白仲もこの基本ルールで納得してくれたみたいだ。とりあえず、来週の水曜からこの関係がスタートということに決まった。
「じゃあ、俺はこれで。」
「うん... じゃあね。
あ、し、下田君! ...これからよろしくね。」
「おう。」
解散モードで歩き始めた俺に声をかけてきた白仲にシンプルな挨拶をしてから、帰路に着く。
正直、ルール通りアドバイスを週一でするだけでは彼女の望みはすぐには叶わないだろう。彼女のポテンシャルは陽香さんを遥かに上回るものがあるが、短期間で現在のポジションから学校カーストを駆け上がるのは並大抵のことではない。
無論、白仲自身の改善以外の要素が必要になってくる。
光がより輝くにはそれを引き立てる陰の存在が必要だ。
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