第2話 まさかのまさか


───白仲が校内で人気美少女になる半年前。



可愛くなりたい。みんなに認められたい。今、そう思願って努力を続けている。きっかけは中学の頃少し気になってた男子に振られた時の一言。


「悪くないけど、少し地味だね。僕には似合わない。」


今思えば、なんであんな人を好きなったのか分からない。クラスで人気な男と少し仲が良かったのと、友達に彼氏が出来ていったことに焦りを感じていたのか。もう覚えてないけど、問題はそこじゃなかった。あの振られ方は女性として惨めだった。


モデルとして業界で注目されている姉をもつ私にとって、とてもショックだった。胸を張って歩きたい。注目を集めたい。下に見られたくない。色んな感情から、努力を重ねた。


美容の特集がテレビであればメモをとって即実行。姉の部屋にある雑誌を読み漁って、できる限り実践した。けど、周囲の反応は変わらない。自分でも自信がなく、結果は出なかった。


こうなったらあの最終手段しかないよね...


「お姉ちゃん、相談あるんだけど...」


私はリビングで頭にタオルを巻いてソファーに横になっているモデルの姉、陽香に声をかける。


姉は私とは対照的なショートヘアで、顔のパーツに至っては全て完璧。大きな目に高くて綺麗な鼻筋、印象としてはどこか…そう、可愛い猫のような印象だ。                 


「なに? 珍しいね相談とか。あ、もしかして恋の相談ー? 柚香ちゃんにも春がきたかぁー! で? どんな子? お姉ちゃんに教えて!」


「違う!そんなんじゃないよ!...勘違いしたまま突っ走らないでよ...」


いつも通り残念なくらい騒がしい姉をなだめつつ話を続ける。


「私、お姉ちゃんみたいに可愛くなりたい!綺麗になりたい!周囲の目を引くような、そんな女性になりたい!」


「ぁぁ...だからなんか最近コソコソしてたのね」


「うん...でも上手くいかなくて」


「でしょうねぇ... 柚香は柚香にあったやり方で努力しないと意味ないよ。」


「私にあったやり方って言われても...なにがあってるのか分かんなくて...だから...」


普段は落ち着きがなく、ふざけてばかりの姉だが、こういう美容とかの話になると、少しトーンダウンする。仕事に関することだから当たり前かもしれないけど、言葉に説得力が乗っかってくるので、こういう時はいつも気圧されてしまう。


「でも、私はあくまで見てもらう側だから、的確なアドバイスができるか自信ないかも。私より適任なのはやっぱり仕立てる側の人間よね。」


「...仕立てる側?」


「今の柚香にぴったりな人を紹介してあげる!」


「本当?!」


「うん!同じ学校の生徒だから、交通費もかからない!そもそも学生だからお金もとらない!しかも腕は一流。私が保証するっ」


「そっか...よかったぁ...そんなぴったりの人が、って、え? ちょっと待って! 同じ学校の生徒?!」


「そう!もうLIMEしといたから、明日の放課後、学校の屋上行き階段のとこに来るようにって。」


姉から色んなアドバイスや協力をもらえる流れを期待していた私は想定外の事態にただ流されるだけだった。

私の悩みの解決を赤の他人に?しかも同じ学校の生徒に...


「そんな顔してないで、自分のために頑張るんでしょ? ものは試しよ!変な人じゃないから!大丈夫!はい。この話終わり!私はねるーっ」


「あ、ちょ! お姉ちゃん!」


姉はそそくさと自部屋に駆け込んでいった。




そして、翌日。

はぁ...憂鬱だ。憂鬱だが。姉が動いてくれたことだし、頓挫するわけにもいかない。

話してみて少しでも嫌な感じだったら、なかったことにしてもらおう。相手の女友達に言いふらされても嫌だし。まず様子を見ながら...


頭の中であれこれと考えているうちに、目的地の近くまで来てしまった。


な、なんか...緊張してきた。どんな人が待ってるんだろう...

いや考えても仕方ない、うん。なるようになる!


心に踏ん切りをつけて、集合場所に顔を出す。

すると階段に座っていたのは、


まさかまさかの男子生徒。



しかも、クラスで目立たない、いわゆる陰キャのイメージが強い、同じクラスの下田君だった。

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