73話 いつもは全く気にならないのに、掃除のときだけやたらと目に入る漫画。あの現象に名前はありますか。
ゴミの中に身をゆだねて数分、冷静になってみれば後輩たちが家にやってくるのは週末だ。
今日は確か一週間のど真ん中……そう、水曜日くらいだった気がする。
いや、なんか仕事に毎日言って一週間の一日か、二日たまに休んでって感じだと曜日感覚なくなるでしょ?
もうその感覚を長く続けていると今日が何曜日とか気にならなくなるわけ。
とりあえずあと何日いったら休みってことしか考えなくなるわけですよ。
まあそれはともかく先輩と後輩が家にやってくるまでに、まだ2日くらいの猶予はあるわけだ。
要するに今日焦って片づけをしなくても、まだ猶予は二日間あるわけだ。
だから別に今日レイが暴れる日だったとしても何ら問題はないわけで、こんなに落ち込む必要もなかったということになる。
まあ散らかした本人はもう自分がしたことをきれいさっぱり忘れているのか、仰向けで寝転がっている俺の腹の上で正座したまま、ぴょんぴょんと跳ねている。
正座のまま跳ねていることを突っ込むべきなのかもしれないけど、そのくらいの不思議行動にはもう驚くことはない。
というよりも、俺のお腹ってそんなトランポリンみたいに飛べるようなバネ搭載してたっけ?
一応そんなに太っているつもりはないんだけど、ちょっと不安になるからやめてほしんだけど。
あと単純に心臓に悪い。重さを感じないからいいもののもしレイが急に重くなったりしたら、俺耐えられる自信ないからね。
……レイが重い? バカ野郎、女の子はいつだって翼のような軽さを持ってるんだよ。何を言っているんだ俺は。反省しろ。
そんな自問自答を行いながら、今なお現実逃避を続けているわけだが。
仰向けのまま顔を動かし部屋の様子を再度確認する。
床にはレイが散らかした紙切れが大量に散らばっており、他にはポストに届くよく分からないチラシやらなんやらが散乱している。
そしてシンクの上は言うまでもなく大惨事。パッと見た感じ、割れている物がなさそうなのがまだ救いなのかもしれない。
さらに机の上には中身の入っていない無数のペットボトル……。
いつか捨てなければいけないと思って、早何週間過ぎたのだろうか。
なんでペットボトル回収って二週間に一回とかなんだろうね。
地域によっては不燃物として一緒に捨てられる神の地のようなところがあるようだが、残念ながら俺が住む地域は田舎なのに、そういった分別はしっかりとしている。
そして一人暮らしであるがゆえに、お茶を沸かすとかそういったことは一切しない。
ペットボトルオンリーである。
そして今度の回収日に捨てよう、まだ回収日までには時間があるから片付けるのは今度でいいや、回収日がいつの間にか過ぎている。
この魔のループに入ってしまっているのである。
そこまで考えてようやく思い至る。
今日片づけを放置してしまうと俺は恐らくぎりぎりまで部屋の片づけをすることはない。
恐らく、前日か当日ぎりぎりになって過去の俺に文句をたれながら掃除をする羽目になる。
そんな未来が容易に想像できる。
なぜなら俺は夏休みの宿題は夏休み最終日、もしくは夏休み終了後の提出授業直前にやるタイプだからだ。
今日やらなくて済むことは今日やらなくていいって学生のころは思ってたけど、結局今日やらないことはいつまでたってもやらないんだよな、大体。
というわけで、結局片づけをしようという気分になっている今日やるしかないのだ。
レイのやつも俺の腹トランポリンに飽きたのかどっかに行っちゃったし、寂しさを紛らわすためにも掃除するしかない。
よし、なんかやる気出てきたぞ。
体に気力が戻ってきたつもりになった俺はそのままの勢いで立ち上がる。
そして高くなった視点で部屋の様子を見て一瞬やる気がなくなりそうなところを何とか根性で持ちこたえる。
俺ならやれる。パパッと掃除してさっと寝て明日にはすっきりした部屋で目覚める。
うん、いいプランだ。
「さとる、これ」
伸びをして気合を入れていた俺のもとにレイが突然音もなく姿を見せる。
びっくりした! せめて足音くらいさせてほしいんだけど。なに、とうとう瞬間移動でも身につけたの?
こんな狭い部屋でそんなことを習得しても実用性があまりないと思うけど。
むしろMP的な何かを使用して行うのであれば、歩いた方が疲れないと思うんですけど。
いやレイがMPを使ってるかどうかなんて知らないんですけどね。考えたこともなかったわ。
俺の戸惑いと驚きと切なさをよそにレイは目の前でつぶらな瞳をこちらに向けて、両手を突き出している。
その上には見覚えのある物がのっている。
「なに?」
「あー、これは……トランプだな」
よく見つけてきたな。引っ越し当初誰かと一緒に遊べるかと……まあ詳細は省くけど、要するに買ってから一度も使っていない、開封していないトランプだ。
新品のはずなのに哀愁を感じるのは気のせいだろうか。……いや、きっと気のせいだろう。
「あそぶやつ?」
「そうそう」
「あそぼ」
おっと、これは魅力的な提案だ。
掃除途中に見つけてしまった懐かしいマンガやアルバム。
それよりもはるかに魅力的な提案だ。
しかしここは心を鬼にして断らなければならない。
なぜなら今日やらなければ俺は金曜日にきっと地獄を見ることになるだろうから。
すまんなレイ。今日じゃなかったら、全然いくらでもトランプの遊び方どころか極意を教えてあげられたんだが。今日だけは。今日だけはダメなんだ。
「悪いけど……」
そこまで口にしてふとレイと目が合う。
レイの目は心なしかうるんでいるように見えて、これから俺が何を言うのかわかっているのか悲しんでいるような、はたまた何かを期待しているような、そんなどちらともとれるような目を向けてきていた。
「さとる?」
「よし遊ぶかー」
俺にはできない! そんな小動物のような目で、しかも上目づかいで見つめられて俺に抵抗できるはずがない!!
そのあと俺はレイと全力で七並べをした。
それはもう今すぐ寝なければ明日の仕事に支障が出る! ってくらいめちゃくちゃ白熱したトランプゲームだった。
まあ俺が全勝してるんだけど。
ほんとにレイはアナログゲームが苦手だなあ。
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