62話 絶望を覗く時、絶望もまたこちらを覗いているのだ(言いたかっただけ)
一つずつ着るのが恥ずかしいのであればまとめて着てしまえばいい。それなら恥ずかしさは一回で終わる。
そう決めるや否や俺は立ち上がって、服を脱ぎ始める。
突然俺の支えがなくなったからか、バランスを崩したレイは足をバタバタさせながらそのままコロンと倒れてしまった。
いや恨めし気に俺の方見てるけど、レイの場合俺別に支えてないからね? 勝手に転んだだけだよね?
まあそんなレイのことは置いといてとりあえず難易度の低いTシャツを着る。
やっぱりきつくて結構ぴちぴちだが、まだこれは序盤。次にワイシャツを羽織り、ボタンをしめる。
……よし、大分変態並みにパツンパツンだけどまだ耐えられる。
次からは難易度が上がる。ニットワンピだ。
正直どうやって着るのが正解なのかわからんが、とりあえず頭からかぶればいいのだろうか。
服が体を締め付けているせいで、可動域の圧迫感を感じながらもなんとか頭を通すことに成功する。
そのまま自然に足の方まで落ちるかと思ったが、それは不自然に腰のところで動きを止める。
服の裾を持って引っ張ってみるが、どう考えても画像にあったような股を隠すぐらいには伸びそうにない。
「……仕方ないか」
なんか肺まで圧迫されている感じになってきて、苦しくなってきた。
しょうがないからニットワンピはこれであきらめて次に移るとしよう。
そして次に手に取ったのは、ぴちぴちの短パンだった。あの太ももが見えてる履いている意味があるのかないのかわからないやつ。
下半身の着替えとなるとさすがに難易度は跳ね上がる。
俺の想定ではニットワンピで足まで隠れてズボンは見えない。恥ずかしさ激減! の予定だったのだが、その予定も狂ってしまった。
まあ予定に想定外はつきものだよね。夏休みの宿題もやろうと思ってたら、気づいたら夏休み終わってたりするもんな。
「きゃー」
俺がすでに履いていたジーパンを脱ぎ始めると、レイは突然声をあげて座り顔を両手で隠した。
……いや、あなた俺が全裸の時に平然とした顔で風呂に乗り込んできましたやん。
それに悲鳴が棒読みすぎまっせ。
レイのよくわからないリアクションを横目に見てあきれつつ、いよいよ短パンに足を通す。
…………いやこれ無理じゃね?
片足を上げて何とか履こうとするが、俺のふくらはぎを通りそうにない。
えー、これ女性のみなさんどうやって履いてるの? もしかしてこれも頭からかぶる系?
片足を上げたまま短パンと格闘していた俺は、突如バランスを崩して思い切りその場でずっこけた。
……いってえ。
慌てて試着室内を確認するが、どうやら鏡が割れたりとかはしていないようだ。よかった。
「あのー、大丈夫ですか?」
「ひっ!?」
突如試着室の外からかけられる声。思わず変な悲鳴を上げてしまったが、相当な音が鳴っていたからな。
心配して店員さんが声をかけてくれたのだろう。
「だ、大丈夫です! すんません!」
「いや、さっきからうめき声とか聞こえてたので……何かお手伝いしましょうか?」
うめき声!?
ああ、服が小さすぎて腕とか頭を通す時にうめいていたかもしれない。
いやそんなことよりも今店員さんに中に入ってこられると確実にまずい!
今の俺の姿を誰かに見られるなんて、俺がその瞬間はずか死ぬ!!
「ちょっとバランスとか倫理感とか羞恥心を、崩しちゃっただけなんで! お構いなく!」
「はあ。……何かお困りでしたらお声掛けくださいね」
店員さんはそういうと試着室の前から去って行ったようだ。
人の気配がなくなった。
……危なかった。別にやましいことはしてないから隠す必要もないのかもしれないが、俺の自尊心の維持のためにも、この姿を見られるわけにはいかなかった。
俺はむなしく片足に入ったままの短パンを脱ぐ。こいつは強敵すぎる。諦めよう。
一度深呼吸をして心臓を整えると、今度はひざ上30センチくらいだろうか。ミニスカートを手に取る。
レイ、本当にこういうの着たいのだろうか?
そう思いつつも手に取ったものはしょうがないため、チャレンジする。
……意外と入るもんだな。チャックは閉めれないけど、ワンピースで何とか隠れるからぎりぎりセーフだろう。
スカートを人生で初めて履いた感想。めちゃくちゃスースーして落ち着かない。
こんなことになるならすね毛とかそってくれば良かった!!
いやそんなことしたら俺がめちゃくちゃ女装する気満々みたいになるじゃん。いやむしろそこまで吹っ切れたかったかもしれない。
中途半端に男の部分が見えるというだけで、途端に羞恥心が湧いて出てくる。
あ、男の部分ってすね毛のことだからね? 念のために言っておくけど。
しかしそんな時のために握りしめていたニーハイの出番である。
俺ってば準備がいい。
まあそんなつもりは一切なく邪心しかなかったんですけど。
結果オーライである。
同じ過ちを犯さないように俺は座ることで、何とかニーハイを履くことに成功する。
もう全身の圧迫感がすごすぎて、俺だけ真空管に閉じ込められているんじゃないかと錯覚してしまう。
真空管に閉じ込められたら窒息で死んでるんじゃないかというマジレスは受け付けてない。
セルフ突っ込みをしながらも、なんとか立ち上がった俺は鏡で自分の姿を見る。
……うん、わかってたけどファッションのファの字もないほどに一目でわかるくそださコーデの完成だ。
なんか全体的にぴちぴちしすぎてて、もう違和感しかないし単純にパツンパツンじゃなかったとしてもこの着方はないだろうと俺でも分かる。
何よりワンピースの下からちょっとワイシャツが見えてしまっているのがダサすぎる。
見せるのか隠すのかせめてどっちかにしてほしい。
これが未来の最先端ファッションだといわれてもこの格好で街中は歩きたくない。
まあいいや。別に誰に見られるわけでもないし。
全裸も見られているレイにだけ見られているだけだから、いまさら恥じらいなんてない。
……無いっていうのは嘘だな。恥じらいを隠して押し殺してレイに披露しなければいけない。
まあレイはずっと試着室の中にいて俺が着替えてこの姿になる様子を見ていたわけだから、いまさら四の五の言っても遅いか。
それにしてもレイのやつ静かだな。
俺はそう思って現実を受け入れるようにようやく鏡から目を離す。
そして試着室の中を見渡したのだが……どこにもレイの姿は見えなかった。
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