59話 やっと女性服売り場に降り立つ決心はついたけど、まだたどり着きません。

 俺はまだ女性服売り場にたどり着くことができていない。

 いや何度か素通りはしているんだけど、足を止めてじっくりと服を見るなんてことができない。


 休日の昼下がりということもあり、店内にはそこそこ女性客もいらっしゃる。

 そんな中、足を止めてじっくり服を選ぶなんてことはハードルが高すぎる。


 俺はユミクロをなめていたのだ。

 でもこのまま女性服売り場をウロウロするのもなんだか不審者感が出てきて、居心地が悪い。


 ちょっと周りを見渡して、あ、ここ女性服売り場かー、間違えちった、てへぺロ!の雰囲気を出すのにも限界がある。


 そんな冷たい目で見ないでください。俺は純粋に服を選びに来ただけなんです。

 このままうろうろしていても仕方がない。

 俺は遠くで目視のみでめぼしい服を選ぶこととした。


 ……まったくわからん。


 俺自身ファッションセンスはないと自覚している。そして自分の為に買う服も割かし適当だ。

 さっきみたいにセンスよりも面白さをとって選んでしまうことなんて、日常茶飯事だ。


 そんな俺に女性の服を選べと?

 それはいくらなんでも無茶が過ぎるんじゃないだろうか。


 何かテンションあがって現地まで来たはいいけど、いざその時になってみたら何したらいいのかまったくわからんのだが。


 なんで電車の中で気づかなかったんだろうか。どうして俺がレイの服を自分のセンスのみで選べると勘違いしていたのだろうか。


 思い上がるなよ俺! 実際は女性服売り場にも堂々と立てないちっぽけな存在にすぎないんだぞ!!


 よし、ネットの力に頼ろう。

 いやー、現代に生まれてよかったなあ。

 もし江戸時代とかに今の状況に陥っていたら完全にゲームオーバーだった。


 パーカーだけ買ってほくほく顔で帰宅してしまうところだった。

 あれ、江戸時代にパーカーって売ってるのか? 


 ……まあ細かいことは置いておいて、自分の脳みそで追いつかないところはネット大先生の力を借りればいい。


 とはいえ、なんて調べればいいかなあ。

 レイにちらっと目をやり彼女の容姿を改めて確認する。


 レイの身長は小さい。でも子供用の服を着せるには、それが似合わないくらいの大人びた顔つきをしている。

 でも完全に大人かといわれるとまだ幼さが残る。


 そして何より可愛い。全体的に見て可愛い。これ大事なところ。


 もし俺以外にも彼女の姿が見えていたら、店内で10人中半分以上は二度見するだろうっていうくらいには可愛い。

 そんなレイの姿が俺にしか見えてないって、どんな幸せ者だよ。俺めちゃくちゃ得してるじゃん。ありがとうございます。


 ……いかん、思考がトリップしてしまった。

 例えば『小さい女性が着る服』とか? あまりにも安直すぎるだろうか。


 おお、いろいろと画像が出てきたぞ! さすがネット師匠だ。

 弟子の考えをすべて読み取ってくれているようだ。


 レイも俺がスマホを触っているのが気になったのか、精いっぱい背伸びをしながら画面を覗き込んでくる。


「えっちなやつ?」


「ちげええわ!!」


 あまりの突然のレイの発言に思わず普通に突っ込んでしまった。


 当然周りから注目される。

 俺は慌ててスマホを耳に当てて、誰かと会話している風を装う。

 もちろんだませている感じは全くないけど。


 それよりもレイさん、いきなり何を言い出すんですかね。

 こんな往来でそんなエッチなやつを見るような変態に俺が見えるのかね。


 それに俺が女性の画像をスマホに出してたらそういうものって発想がまずよくない。

 俺とモデルさんに失礼だから反省してほしい。


 全く誰のせいで、そんなことを考えるようになったんだか。元凶を作った奴の顔が見てみたいね。


 俺の心と周りの視線が落ち着いたところで、再びスマホに目を落とす。

 ワンピースとか、ワイシャツとかいろいろとあるんだな。


 なになに? ほうほう、ハイウエストにすると足が長く細く見えるのか。

 ふむふむ……何書いてあるのかいまいちわからんけど、女性が大変なんだなということはわかった。


 でも見てる感じワイシャツとかよさそうである。それにワンピースとかもこのレイのふわっとした感じと相まって、いい感じなんじゃなかろうか。


 個人的な趣味を言うのであれば、このロングニットワンピにニーハイとか、萌え袖に絶対領域とかいう俺得祭りである。


 レイはよく萌え袖はしているけれど、ニーハイを履いているところは見たことが無い。

 というよりもパーカー以外何か着ているのを見たことが無い。


 今日だっていつもの俺のお古のパーカーを着て、ちょこまかと動き回っている。

 そう、いつだって彼女は見えそうで見えないのだ。何がとは言わんけど。


 そうなればミニスカか短パンくらいあってもいいんじゃないだろうか。

 別に短くなくてもデニムがあってもいい。第三候補くらいで。


 よし、そうとなればルートは決まった。

 まずはニーハイコーナーを攻めて、そのあとこのロングニットワンピとかいうものを探す。そして短パンとスカートを探す。


 もしレイが気に入りそうなものが無ければ次はワンピースを探す。なんかこうふわっとしたもの。

 それでも気に入らなければデニムとかを見てみる。


 順番はつけたけど特に意味はない。

 別に俺がレイに着てほしい順に回る順番をつけたわけではない。

 効率を考えたが故の行動だ。


 どこら辺に何があるかは女性服売り場を三周くらい下からあらかた把握しているしな。


 よし、うじうじ頭の中で考えていても仕方がない。勇気を出せ俺よ。

 誰も俺のことなんて見ていない。さっきちょっとだけ注目を浴びたかもしれないが、そんなことは誤差の範囲だ。

 俺のことなんてだれも興味がない。興味をもたれることがあり得ない。


 さあ突き進め。


 俺は自分にそう言い聞かせて、ちょっとだけ悲しくなりながら女性服売り場へと再び歩を進める。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る