50話 電車に幽霊もすごく定番ですね、昼間に現れるのはレアだけど。
電車ってさ、ちょうど人の睡眠欲を刺激してくれるくらいの心地よさで揺れるし、もし眠くならなくても、電車の中から見る景色って外から見るのとはまた全然違って、ものすごくいいよね。
「なんで無視するの」
それにさ、この電車の中の独特なにおい? これって電車の中でしか味わえないと思うんだよね。
田舎過ぎて満員電車なんてものに遭遇したことはないんだけど、それも一度は味わってみたいよね。
「むーー」
思い立ったが吉日。
俺は早速休みになるや否やレイのおしゃれ計画の為に街に繰り出していた。
やめろ、こっちを見上げながら頬をつつくのはやめなさい。可愛いから。
悶える変なおじさんになるから。
「うーー」
……現実から逃げるのはやめよう。
視線を下げると、俺の膝の上に乗るような形で座っているレイがいた。
足をぶらぶらさせながら、俺の体に背中からもたれかかってきている。
さっきから話しかけられてはいるのだが、電車の中でまばらに人もいる状況でうかつに返事をするわけにはいかない。
それがたいそう不満なのかほとんど直角に首を曲げて、膨れ面で俺の顔を見上げてきている。
そして今は俺の頬をつねろうとしているのか、両手を俺の顔の方に近づけて何やら妙な動きをしている。
そんなレイを見ても一切怖さはなく、むしろかわいすぎて癒されているんだけど、その動きは呪いとかじゃないよね? 俺の注意を惹こうとしているだけだよね?
この後電車の座席に貼り付け状態になるとかありえないよね?
そもそもどうしてこんな電車の中にレイが一緒にいるのか。
もちろん俺が連れてきたわけではない。俺は一人で家を出て、そして電車に乗るまではずっと一人だった。
……なんだよ、一人で街に繰り出して何か問題でもあるのか。
ないよな、一人の方が気楽だしな! 一人最高!
まあ気分的にはそんな感じで電車に乗り込んだわけだ。
そして座席に腰かけて、外の景色を見て黄昏ていると、股の間からレイが突然生えてきた。
さすがにレイの顔だけが椅子から、股の間から出てきたときは飛び上がってしまった。
そんな心臓に悪い登場をしたレイは、今思えばその時からどこか不機嫌そうに見えて、そのままぬるぬると俺の前に立つと、そのまま膝の上に座ってきた。
もちろん俺に拒否権など存在しない。断ったら俺の心臓が凍えて止まるかもしれないし、そもそも止める必要がない。
まあどうしてレイがこんなところまで来れているのかまったく想像がつかないし、せいぜい移動できても家の近くまでなんだろうなとか勝手に決めつけていた俺からすると、こんな長距離で家から離れることができるなんてのは衝撃的事実だ。
そこら辺を問い詰めたいところではあるんだが、この間のコンビニでの一件を思い返す限り、レイの姿は俺以外に見えていないはず。
それであれば突然一人で会話をし始める俺の姿は、他の人から見ればさぞ変質者に映るだろう。
ちなみに俺の周りに人は座っていない。
まあ突然俺から、正確に言うと俺の周りから極寒の冬を思い起こさせるような冷気が流れ始めたら、離れるよな。
俺はもう慣れたけど。
断じて俺がひどく臭うとか、席を陣取っているとかそういう理由ではない。
一応自分の臭いをかぐけど……うん、特に問題ないよな。
レイもこれだけくっついているわけだし。
ともかく俺の両隣とかには人はいないわけだけど、同じ車両内に人はまばらにいる。
最初は鳥肌が立つほどの冷気を放っていたり、突然飛び上がったりする俺のことを訝しげに見てくる人はいたが、今はさほど気にされていない。
俺もこれ以上レイを無視しているとさすがに命の危険に及ぶ。
レイは突っつきたくなるほどに頬を膨らませて、明らかに怒ってますよアピールをしている。
まあ頬を突っつかれているのは俺の方なんですけど。別に止める気もないし、とめることもできない。
そして俺の頬に何か感触があるわけではないから、別に俺の顔をどういじられようとも何の変化も実害もない。
しかしレイは少し楽しそうにつついているから、もしかしたら彼女の方は感触があるのかもしれない。
一人だけそんなこと楽しむなんてちょっとずるくないですかね?
何かいい方法はないか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます