49話 結局何が言いたかったのかわからないです。おすし。
『何の用でしょうか』
『先輩! やっと気づいてくれたんですね!』
『ていうか先輩に敬語で返されるとぞわぞわってするのでやめてください』
鳴り響くスマホからチャットアプリを開き、返答するや否や軽快に2回スマホのバイブが鳴る。
スマホを再びポケットにしまう暇すら与えてくれないんですけど。
目の前で机の上に座るレイは、幸せそうに口をもきゅもきゅと動かしながら、ショートケーキを頬張っている。
幸せそうで何よりですけど。
こっちは後輩に遠まわしに気持ち悪いって言われてるんですけど。
俺があえて無視していた間に後輩が送ってきていた内容を確認すると、意味の分からないスタンプが大量に送られてきていて、何が言いたいのかまったくもってわからない。
単純に気づいてほしかっただけだろうか?
それにしても会社の先輩に気づいてもらうためにスタンプ連打するなんて、そんなことをするかふつう?
……まああいつは普通じゃないからそういうこともするか。
『それで何の用だ?』
『先輩に相談したいことがあったんですけど、いつ暇ですか?』
『ぞわぞわに関してはスルーの方向ですか?』
『俺に相談?』
『突っ込んだら俺の心が勝手にダメージ負っていきそうなんでスルーの方向で』
『そうです! 私結構真剣に悩んでるんです!』
『別に私は先輩を追い詰めようとはしてませんよ』
『ひま』
「暇って、今俺が食べるはずだったケーキをおいしそうに食べてたじゃん。ああ、食べ終わったのね。俺の分を残すとかそういう発想は……ないよね。すいません」
「?」
失礼しました。レイの血文字が乱入してきてしまいました。
口に出して言えばいいのに、なんでわざわざ紙に書いて見せてきたんだろう。
なんだろう。俺がレイそっちのけでスマホをいじっているのがさみしかったとか?
もしそんな理由だとしたらかわいすぎるんですけど。
レイの方を見たらこれまたかわいく頬を膨らませてこちらを見つめてきているんですけど。
その頬を指でつんつんしたい。させてほしい。いやするしかない。
ほぼ無意識のうちに彼女の方へと伸ばした指は、案の定レイの頬を貫通してそのまま空にむなしく俺の指が残るだけ。
何の感触も感じることができない。その感触はレイだけしか知らないのだ。
霊のみぞ知る……なんか神秘的じゃない?
絶対に触ったらぷにぷにして気持ちいいのに、絶対に触らせてもらえない。
いやきっとレイには自覚がないんだろうな。
手を伸ばした俺に向かって首をかしげてるくらいだし。
可愛すぎて可愛いしか出てないくらい語彙力が低下する。ずっと見てたい。
でも無意識の不可侵領域とか最強じゃん。
人は手に入れられないものが近くにあるときこそ燃えるんだよ?
……は! これが本当の絶対領域ってやつなのか!?
考えがいろんな所へ散らばり始め、俺自身混乱してきたので改めて震え続けているスマホへと視線を戻す。
そういえば後半やけに静かだったけど、あきらめたのか?
『おーい』
『せんぱーい。寝ちゃいましたー?』
『私もねまーす』
『今度相談のってくださいねー?』
『ではまた会社で!』
その後猫が渋い顔で、まるでビルの上からターゲットを狙っている砂いぱーのような表情をして敬礼しているスタンプが送られてきて、そこでメッセージは終わっていた。
見事なまでの自己解決……。たった数分送らなかっただけでここまで普通メッセージを送ってくるものか?
実はめちゃくちゃヤンデレなんじゃないの。彼氏になる人は大変そうだな。
もしかしたら人じゃなくて建物かもしれないけど。
人よりも建物の方がしっくりくるっていうのがなんというか……。
結局何を相談したかったのか、そもそも何のためにメッセージを送ってきたのかすらよくわからなかったな。
俺はそのままスマホの画面を閉じて、机の上に置く。
レイはブラックアウトした画面に映る自分の姿を見て、不思議そうに自分の顔や服を引っ張っていた。
というかレイって幽霊なのに普通に鏡とかこういう反射するものに姿が映るんだよな。
なんか幽霊ってそういうの映らない印象があったけど……それは吸血鬼とかだっけ?
まあこうやって自分の格好を確認しているレイもかわいいからどっちでもいいんだけども。
「そろそろ俺も服買わないとな」
これからどんどん寒くなってくる。最近は誰かとどこかに出かけるなんてこともなかったから、ファッションに気をつかったりとかもしなくなってきてしまっていたけど、さすがに今年は秋服と冬服を新調した方が良いかなあ。
思い立ったら即日行動! といっても今日はもう遅いし、次の休みくらいに街に繰り出してみようかな。
まあ今年も誰かとどこかに行く予定なんて一つもないんですけどね!
気分転換は大事だよね!
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