41話 コンビニというのは、現代社会が造り出したダンジョンだと思う。
そこから俺は一切俺のことを離そうとせず、しがみついたままのレイを半ば強引に引っ張るように歩きながら、近くのコンビニへと向かった。
それにしても怖がりすぎじゃないですかね。
ていうかコンビニに着く直前たまに笑い声とか聞こえたから、きっと怖がってないよね。俺の体を使って遊んでただけだよね!
まあ重さとか一切ないから普通に歩けるからいいんだけど……。
「いらっしゃいませー」
複雑な思いを抱えながらコンビニに入ると、涼しい風が体に当たる。
外は結構な夜になっていて静かな感じだったけど、中に入ると店内BGMや照明の明るさで、結構雰囲気が変わる。
いやあ家から徒歩五分の距離にコンビニがあるって最高だよな。
思い立ったらすぐに行けるっていうところが素晴らしい。
俺はここにコンビニが建っているせいで金欠気味だよ。
レイは突然周りの雰囲気が様変わりしたことに驚いているのか俺から離れて、周りをきょろきょろと見始めだした。
「さて、目的のものは……」
俺がコンビニに来たのには理由がある。
店に入ってすぐに右に曲がりその奥へとすすむ。
レイはきょろきょろしながらも、俺の背中をちょこんとつかみながら必死に後ろをついてきていた。
なんか子供みたいで可愛いな。
ドリンクコーナーとトイレのちょうど間くらいに、それはぽつんと置かれてあった。
そう家庭用手持ち花火セットである。
いやあ、初めてコンビニでこれを目にしたときは何でコンビニにこんなものまで売ってるんだよとか思ったけど、まさにこういう時のために用意してくれてたんだな。
コンビニで花火を買う人なんてそう相違ないだろうとか思ってたけど、今まさに俺はその人になろうとしているわけで、あのときは本当に小ばかにしてすいませんでした!
心の中で謝罪しつつ複数種類の花火が置かれている箇所をチェックしていく。
打ち上げ花火は音的にダメだろうし、何より家でこの時間にやるのはまずい。
そうなってくると手持ち花火も音が出そうなやつはダメそうだな……。
なかなか音が静かな花火となると数が限られてくる。
それこそ線香花火とかだけになってしまう。
「お?」
しかし俺は見つけてしまった。
『音が出ない!夜お家でできる!安心安全手持ち花火セット!』
……何というベストマッチ。一つだけ残っていたそれはまさに俺に買ってくれと言わんばかりに存在を主張している。
きっとこいつは俺に買われるために生み出されたのだろう。
ここで俺が手に取らなければきっと悲しむに違いない。
俺が買ってあげるしかないじゃないか!
「帰ろ」
「おう、もうちょいまって」
レイはあまりにも慣れていない場所に来てしまったせいか、早々に帰りたそうにしている。
ていうか普通に会話しちゃったけど、レイの声とか姿って周りに見えていないよな!? 大丈夫か?
それに見えてなかったとしても、一人で誰かと会話している風を装っている変な人になってない、俺?
そう思って周りを見回したがそもそも店内には俺以外、お客さんがいなさそうだった。
田舎でまじよかった。
俺は変に上がったテンションをレイの言葉を受けて少し冷静になりつつ、運命を感じた花火セットを手に取る。
よし目的は達成した。あとはこれを買って帰るだけだな。
俺は謎の達成感に包まれながらレジに向かっていると、突然レイの様子が変わった。
あれだけ俺の背中に隠れておびえた様子を見せていたレイが突然俺の前へと走りだし、ある場所で止まったのだ。
その顔は見たことないくらい幸せに満ちていて、目がキラキラと輝いている。
そう、レイが見ている場所は間違いなくデザートコーナーだった。
……わかる。わかるよ。俺もめちゃくちゃ疲れている日とかにその場所に行くと、すべてがおいしそうに見えるもんな。
でも買わないからな。今日はこの花火を買いに来ただけだから。
そんなことを考えていると、レイは今度は後ろを振り返ってまたそのまま固まってしまった。
ここのコンビニにはデザートコーナーの真後ろがアイスコーナーになっている。
レイにとっては魔のゾーンといっても過言ではない。
ほら、レイの顔よだれが垂れそうなくらいふにゃふにゃになってるもん。
こんな顔、家だと一切見たことないんですけど。
ちょっとコンビニに嫉妬しちゃうんですけど。
「ここは……天国?」
いや、気持ちはわかるけどそんな大げさに言うほどか?
それに幽霊であるレイが天国とかいうとシャレにならんから。本当に成仏しちゃったらどうするのよ。
再開した瞬間にたくさんのデザートと遭遇して消えちゃうとか、俺きっと一生後悔するからね?
コンビニのデザートコーナーに立つたびに泣き出しちゃうかもしれないよ?
「レイ、そろそろ行くぞ」
一向に動こうとしないレイを連れて行こうと、俺はデザートを買おうかどうか迷っている人を装いながら、小声でレイに話しかける。
しかしレイはそれでも動こうとしない。目をきょろきょろさせながら目の前に並んでいるスイーツを、これでもかというほど眺めている。
「……はあ。一個だけな」
結局俺の方が折れた。
だって本当に微動だにしないんだもん。俺は彼女のことを触れないから、その場から動かせる手段を持ち合わせていない。
それなら潔く買ってあげて、気持ちよく帰ってもらった方がいい。
別にデザートとアイスを見るレイが可愛すぎるから思わず口に出してしまったわけではない。
俺はそんな感情に流されるような男ではないのだ。ちゃんとした戦略的発言だ。
ていうかくるくるくるくるその場で回って忙しそうだな、レイのやつは。
そして目がマジだ。
これは一個決めるのにも相当時間がかかりそうだな……。
結局コンビニから出たときには、夜は一層更けていた。
俺の手には花火セットが入った袋が。レイの両手には大事そうにアイスが握られていた。
結局スイーツじゃなくてアイスにしちゃったのね。
レジにおいて店員さんがアイスを持った時のレイの悲しそうな表情は、正直見てられなかった。
だってまるでこの世の終わりか一生の仇みたいな顔で店員さんのこと見てるんだもん。
店員さん寒気がすごすぎて震えながらレジしてたよ。まあ俺も一緒にふるえてたけど。
そんなレイにただ会計しているだけだからと小声で説得するのが大変だった。
きっと店員さんには聞こえていないと思う。
なんか時々変な人を見るような目で俺のこと見てきたけど、たぶん気づかれてない。
そのまま俺とレイは無事に家に帰ることができた。
レイはアイスをちょっとずつ食べていて、帰るまで俺の背中に抱きついてくることはなかった。
……なんかアイスに負けたみたいでちょっと悔しいんだけど。
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