7話 立場が逆だと思うんですけど、どうしてあなたがおびえてるんですか?
よし、ちょっと今起こっている状況を整理しようか。
俺はトイレに行った。トイレから帰ってきたらテーブルの上で透けている女の子が座っている。
……はああああ、だめだ。全く理解できない!
目をこすっても頭を振っても、その場で一回転しても目の前で佇む女の子は消えない。
俺はこんなに混乱しているというのに、目の前で膝を抱えて座る女の子はプリンに夢中なようで全く俺のことに気づいてないらしい。
女の子って決めつけてるけど、髪が長くてパーカーで萌え袖してるから、そう判断しただけだからな。
実際のところ人間なのかどうかも怪しい。というか人間ではない。
だって透けてるんだもん。本来女の子に隠れていて見えないだろう窓際に置いている段ボールが丸見えだもん。
それよりもまじまじと手に持った?宙に浮いた?プリンを眺めているけど、それ本当に見えてるのか?実は自分の髪を必死に眺めてましたってそんなことはない?
俺の頭は思いのほか冷静で、いや冷静ではないけど現状を理解しようと女の子を観察できるくらいには落ち着いていた。
女の子の前髪は長くそしてパーカーをかぶっているため、ほとんど顔が見えない。
真正面に立っている俺が顔を確認できないのだから、女の子の方は視界も自らの髪の毛とパーカーによってほとんど塞がれているのではないだろうか。
てか着ている服がパーカーしかないのかってくらい、服が身長にあっていない。
足の膝までパーカーに隠れている。
そしてあなたはそのプリンを持って何をするつもりなんだい?
ものすごく嫌な予感がするのは俺だけだろうか。いやまあ俺しかいないから俺だけなんだろうけど、とにかく何かとても嫌な予感がした。
そういえば部屋に入った時に感じた猛烈な寒気がなくなっている。
普通に立っていられるし鳥肌も立ってない。
さてなんて声をかけたものか……。
「とりあえず机の上には座るな?」
俺が声を発すると同時に目の前の子はびくっと体を震わせると、両手に掲げていたプリンを落としながら、こちらに顔を向けた。
えー、今俺の存在に気づいたの?俺一応ここの家主なんですけど。
ていうか、びっくりしたいのは俺の方なんですけど。
こちらに髪の隙間から真っ白な瞳を向けてくる彼女は実に童顔だった。
え、若くない?もっとこう痩せこけたザ・お化け的なのを想像してたのに、めちゃくちゃ可愛くない?やっぱり妄想なの?
女の子は困ったように俺の顔と机の上に落とした自分の足元にあるプリンを交互に見つめる。
俺もつられるように女の子の様子と横に転がっているプリンの様子を眺めていたが、ぺりぺりという音が聞こえたと思ったら、一瞬でプリンの蓋が開いていた。
そしてその中身が消えていた。女の子が持っていた二つとも同じように中身がなくなっていた。
「俺のプリン……」
俺は呆然としながら女の子の方に視線を戻すと、女の子は頬を目いっぱい膨らませながら、口をもきゅもきゅと必死に動かしていた。
「え、食べたの?今の一瞬で?」
さっきは俺の言葉に反応した女の子だったが、今は口の中にあるのであろうプリンを食べるので必死なのか、俺の言葉に反応することなく頬に両手を当てながら涙目になりながら一生懸命ほおばっている。
しかしその顔が若干幸せそうに見えるのは気のせいだろうか?まあ幸せだろうな、プリンを一気に二個も食べられたんだから幸せだろうけど。
そりゃあ二つのプリンを一気に口に入れればそうなるわな。ていうかそんなこと俺でもしないし、何その贅沢。俺もやってみたいんだけど、今度やってみよう。
そもそも今のは何?なんで手も触れてないのにプリンが口の中で一瞬で入るわけ?
もしかして今までもそうやって俺が買ったデザートを食ってたってこと?
「そんなんじゃだめだ……」
俺は気づけば口を開いていた。何とかプリンを飲み込めたのか女の子は再びおびえた様子で、ウルウルとした目でこちらを見つめている。
いやとる態度は普通逆だと思うんだけど? いや逆だとしても俺がおびえながらプリンほおばることになるから、それはそれでおかしいけど。
「プッチンプリンはプッチンしてこそだろうがああ!!」
気づけば俺は彼女と向き合う形で座ると、残っていたプリンを手に取って大きくそれを掲げていた。
目指す場所はただ一つ! 目の前のこいつに本当のプリンの食べ方について教えてやる!!
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