皇都第一中学校の生徒会選挙2

その隣には飯田の秘書――いや、少し違うように見える――女性が立っている。先ほど『ごめんください』と言ったのはこの女性のようだ。

「ん?君は――」

 そう言って飯田が千代を見る。今の千代はあの包丁を持って襲い掛かった雪の降っていた夜とは違い、自暴自棄ではない。飯田を見た千代はひどく動揺し、何も考えられなくなった。背中に嫌な汗が流れる。

 そして飯田はこう言葉を続けた。

「――誰だ?おお!秀二君。仕事に行く前に少し話をしようと思ったのだが……なるほど、こういう子が趣味だったのか、はっはっは!顔はかわいいがまだまだ小さい、それに服はボロボロだな。よし、そんな秀二君にこれと同じ服を後日送ろう」

 飯田は隣に立つ女性の服を指さす。旅館などで見る給仕服によく似ている。似てはいるが違う個所もあり、裾が短く、袖や裾になにやらひらひらしたものがついている。西洋の給仕服のデザインに似ている個所も見受けられた。なるほど、どうやらこの隣に立つ女性は飯田のもとで働くメイドのようだ。

「総理!すみません、直ぐに準備いたしますので」

「おう!そこで待っているぞ」

 飯田の下種な発言に言葉が出ない千代に代わって秀二が会話を続け、その後ひとまず扉を閉めた。

「千代、落ち着け。もうわかったと思うが飯田総理はお前を覚えていない。いや、覚える気すらないと言った方が正しいか」

「……一般大衆など興味がないということでしょうか」

「そうだな。あと、もらえるものはもらっておくか。休暇があれば新しく服を買いに行くつもりだったが買いに行けていないし、千代も今の服のままでいるわけにもいかないし」

 秀二は千代の着ている服を見ながら言う。出会ったころと大して服装は変わっていない。

「私にあれを着ろと?」

「?そうだが……クズを見る目で俺を見るな。まあ、もうそんな表情ができるくらい落ち着いたのならもう大丈夫だな。俺はもう家を出るぞ、家事はほどほどに勉強をしておけ」

 そう言って秀二は家を出た。

 一週間後、本当に送られてきたメイド服を前に千代は悩んだ末、着ることに決めたのだった。

 そしてさらにおよそ二か月後の四月一日、千代はいよいよ皇都第一中学校の入学式を迎える。


 ◇


 桜の咲き乱れる温かな日、皇都第一中学校では入学式が行われていた。制服に着替えた千代は秀二に連れられてその会場に向かう。この制服は西洋の服がデザインのもとになっているらしい。セーラー服と言うそうだ。

千代はその地元の学校とは違うきらびやかさに圧倒されていた。

「あまりきょろきょろするな。ここには千代の嫌いな人種もいる。そういう連中になめられるぞ」

 そう言われた千代は緊張しているのか、少しぎこちない動きながらもできるだけ周りを見ないよう注意する。

 そのまま千代は秀二と別れ、会場に用意された自分の席に着いた。

 どこの学校にも校長先生のありがたい話というものはあるようでしばらくの間、退屈な時間が続く。

 その後、クラスの振り分けが発表される。全部で四クラスあり、千代は一組だった。

一組の教室に向かった千代は自分の名前が書かれている席へ座る。一番後列の真ん中の席だ。

 そのほかの生徒も続々と自分の席に座り始める。やがて千代の隣にも生徒が着席した。

「わ~!かわいい子がいる。あ、ごめんなさい。いきなり変なこと言っちゃって。私の名前は京極美咲。あなたの名前は?」

 明るい雰囲気の女子生徒だった。長くてきれいな髪を二つのリボンでツインテールに結んでいる。

 初対面の相手にも臆さず話しかけるあたり、緊張しっぱなしの千代とは違いなかなか社交的だ。

「私の名前は宮下……じゃなかった、清水千代って言います」

「同学年だからもっと砕けた話し方でいいよ。千代ちゃんだね、よろしく。私のことは美咲って呼び捨てでいいよ。」

「うん、よろしく……美咲ちゃん」

「ねえねえ、千代ちゃんはこの学校で何が楽しみ?」

 いきなりの美咲の質問に千代はすぐには答えられなかった。学校に行きたいと思ったことは本当のことだが、具体的に何がと聞かれるとわからない。

 幸い美咲はそんな千代の様子は気にせず、話を続ける。

「私はね、生徒会選挙が楽しみ」

「生徒会選挙?」

 いったいそれは何だろうか。少なくとも千代の地元の学校にはなかったものだ。

「おいおい、まさかこの学校に生徒会も知らないやつがいるとは!」

 美咲とは反対側の千代の隣の席に座った男子生徒が、明らかに千代を厄介者扱いして声をかけてきた。


 

*この作品はフィクションです。


* * *

まだしがない学生のw-Akiです。つたない文章ですが読んでくださってありがとうございます。訂正した方が良い箇所がございましたらアドバイスをもらえると嬉しいです。

 皇国の清水秀二は毎週土曜日22時ごろに投稿する予定です。

 宿題や課題で忙しく、投稿できないこともあるかと思います。ごめんなさい。


Twitterを始めました。小説のネタになりそうな話や簡単なイラストなどを投稿しようかと思っています。初めに言っておきますと絵は下手です。中学の美術の成績で5を取ったことがあります。10段階でね‼

Twitterには僕のプロフィールや近況ノートからとんでいただけると思います。


こちらの小説も書いています。興味があればどうぞ!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921425988

タイトル:reincarnate

ジャンル:異世界ファンタジー

キャッチコピー:世界が変わっても「――」に会えるのか、「――」は誰なのか


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