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 このストーカーらしき犯人に、何か少し違和感を感じている八千代だが、とにかく盗聴器を仕掛けた犯人を探さなければいけないと、この部屋に入った人物を聞く。桜枕はようやく答え始めた。


「それじゃあまず……ね、うちの両親と、電気とかガス屋さんでしょ。あと、理学部の松岡くん、生命環境学部の木村さん、法律サークルの上町田くんに——」

「か、上町田も? 真穂、ちょっと待って、私達入学してから半年ちょいだけど……もうそんなに? それって、つきあった人って事?」

「そ、そうかも」


「……容疑者が多すぎて見当がつかない。じゃあ、彼氏ちゃんとつきあう前は?」

「あ、相葉……先生……」

「はーーー? 先生?」

「あ、でもでも相葉っちに結婚が決まったから別れたんだよ。すぐ」


「それは……二股だったって事だよね……」

「そう、だからすぐ別れたんだけど……」

「あーなんか頭痛くなってきた。ついでにお腹もすいてきた」

「ごめん……わたし地方出身で、地元では友達もミユキしかいなくて……こっちに出てきて、ちやほやされるようになって調子にのっちゃったんだと思う」


「まぁ、それに関してあれこれ言う気はないけど、あんまり取っ替え引っ替えしてると、今回みたいに自分の身が危険にさらされたりするからさ」

「取っ替え引っ替えって……なんだか、あ、でもでも、今回は健全なんだよ。まだキスもしてないし」

「そんなんどうでも良いんだよね」


「……はい。次からは気をつけます……ていうか、もう付き合うのとかやめようかな? やちよんがいてくれたらそれで良いかな。そっかわかった! わたし、寂しかったんだ! 毎日一緒だったミユキと別れて、一人になって……だから、そばに誰かいて欲しかったんだ……とか?」


 キャピ! という擬音がつきそうなしゃべり方と動きで、桜枕はごまかそうとしている。


「知らんわ。さびしんぼちゃんアピールは良いから、今起きてる現実に目を向けよう」

「むーーやちよん言い方がきつーい。なんだか肉肉しい」

「そこ『憎たらしい』でしょ! 完全にわざと言ってるし、完全に開き直ったね」

 「だって〜なんかもう、全然わかんな——」


 モ〜、モ〜、モ〜。

 言いかけた桜枕の言葉を、自身の携帯の着信音がさえぎった。


『その着信音、なんかムカつく』八千代の心の声。

「もしもーし。真穂だよ〜どした? うんうん」

『そのしゃべりもなんかムカつく』八千代の心の声フタタビ。

「え? あー今ね、やちよん来ているの。そう。う〜ん、そうだね。わかった。また明日、授業終わってからね」

 そう約束して手短に電話を切った。


「彼氏ちゃん?」

「うん。『今から会いに行って良いか?』って。なんだろう? 学食で、今日はやちよんと一緒だって言ったのにね。だから、明日にしてもらった」

「ホウ、ソレハ オアツイ コトデ」

「わあああ、なんか、もの凄く冷たい言い方〜。目もすわってるし」

「ア……ワタシ、イイコト オモイツイたわ。この盗聴器を利用して、犯人を見つけよう」


 八千代の作戦はこうだ。

 リビングの盗聴器だけを残し、これから一時間おきに、それとなく言い方を変えながら、独り言のように明日瀬央と会う事を言う。

 犯人が聞いていれば、一つしか作動していない盗聴器を不思議に思うはずで、ちょうど無人になるこの家に来るだろうと。本当に侵入出来るのならば、それを、ここに隠れた八千代が捕まえる。

 もし犯人が真穂の方に現れた場合は、そのまま瀬央にストーカーのことを話し、協力してもらう。


「でももし犯人が男の人で、ナイフとか持ってたらどうするの? 危険すぎない?」

 そう心配する桜枕だが、八千代は意外にあっけらかんとしている。


「んー何か違和感があってね。何だろう? アピールがないのかな。ポストや玄関にイタズラはしてるけど、姿を見せて告白したり、家に帰った途端に『おかえり』とかメールをして来たりとか、ストーカー的なアピールがさ。だから襲ってくるとか、なさそうな気がするんだよね」

「アピール……? じゃ、何が目的なのかな?」

「んーわからない。盗聴器とか凄い怖いけど、ただ監視してるだけのような……。弱っちい女なのか。それだったらわたし、押し潰せるし。あ、それは無理か。わたしそんなに重くないから」

 全部わかっているので言い直さなくて良い。


「じゃ、リビングの盗聴器をコンセントに戻すよ。作戦開始」


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