3

「わー広いね、部屋。これがワン、エル、ディー、ケーか〜凄すぎる」

 広く綺麗に整頓されている部屋に圧倒される八千代。


 あのあと学生食堂に真穂の彼氏である瀬央が現れたのだが、とりあえず犯人が確定するまで相談をするのはやめた。そもそも犯人と呼べる者がいることすらはっきりとはしていなかったからだ。


 二人は約束通りファミリーレストランで合流し、これからのことを決めて二十時過ぎ、現在、真穂の住むマンションに来た。


『さて、それでは——』と言い、八千代は人差し指を立てて口元に持っていき、ボソリと『じゃ、探そうか』と、ウロウロと熊のように家探しを始めた。


「本当に盗聴器なんてあるのかな?」

 と桜枕が小さくたずねた。

「それをこれからはっきりさせるの。家に入られてる形跡もあるんでしょ? ちなみにそのテレビの前に筆立て二つあるけど、入ってるテレビのリモコンはあってる?」

「うん。あってる。この前は手前のエアコンとかのリモコン入れに入ってたの。


「よくテレビの【警察24時間目】とかで盗聴器仕掛けられてるとか、やってるじゃん」

「そっかぁ、さすがやちよん。確かに【相方】とか【仮装店の女】とかでも出てくるよね」


「それドラマだけどね……ま、そんな感じ。テレビみたいに探す機械はないけど、たいていコンセントのとことかにあるみたいよ。ほら、こういうタコ足配線のやつ。他には〜」

「…………あれ? そういわれると、そういうタコ足って、わたし買ったことないね」

「え……まじ?」


 部屋中を探して、玄関、トイレ、キッチン、リビング、脱衣所、寝室から計六個の盗聴器が見つかった。

「……ほら、この画像と一緒でしょ。盗聴器だよ」

 集めたコンセントを分解して、携帯で画像を確認した。すべて三穴コンセント型だ。


 桜枕は今にも泣きそうで、口を手で覆い、ふるふると震えながら『これ、昨日も充電するのに使ってたよ』と、八千代は呆れつつも、なだめるように『秋田美人の真穂はね、色白で可愛らしくて、スタイルもすらーっとしてるうえに、おとなしくて、おっとりしてるから狙われやすいんだよ』と言った。


 そう、秋田美人の桜枕は八千代とは正反『だから普段から警戒心を持たないと』正反対であ『今回は、はっきりとしていなかったからアレだけど、せめて自分の用意した物じゃない物が家にあったら、おかしいと思わないと駄目だよ』

 …………


「も〜〜〜本当に危機感ないんだから」

「あ!」

「ん? なんか思い出した?」

「あ、ううん。ごめんなさい。ありがとうやちよん。なんか探偵みたいだよね」

「え? いやー、そうかな? じゃ、犯人見つけよう。はいつも一つ! の名にかけて!」

「…… うっうんうん。微妙に間違ってるような、あってるような、だけど」


「じゃあまず、いつ盗聴器を仕掛けられたかわからないから、この家に今まで入ったのってどんな人がいるの?」

「え……全員言うの?」

「ん? どうしたの? けっこういるの?」

「んーーと」

「なあに? どうしたのよ、も〜〜〜〜」

「あ!」

「え? 何また? 何かあるならちゃんと話してよ」


「あの、これは関係ないんだけどね、実は……地元の友達、唯一の親友でミユキっていう子がいたんだけど、やちよんが、その子にそっくりなんだ。特に今みたいに、ほっぺたを膨らませて『も〜〜〜〜』って言うところ。


「え……、そうなんだ。確かに全然関係ないね。しかも、別にほっぺたは膨らませてないし。むしろ『も〜〜〜〜』って言ったらほっぺたヘコむよね」

 八千代には思い出話に浸るよりも、つっこまなければいけないことがある。


「それに、なんか想像つく。その友達あれでしょ、私みたいにポッチャリしてるとか、そういうオチでしょ。そういうのいらないから」

 千代田八千代、十九歳はこういう話題に、相当卑屈になっている。


「そんなことないよ、ぽっちゃりとか太ってるとかないよ。そんなの普通だよ」

「太ってるとか言ってないし。まったく、も〜〜、あ! もーって言っちゃった」

「あ……」

「……ふふ」

「ふふふ」

『あっ、ははははは』お互い見合って笑っている。


「良かった。やちよんが笑ってくれて。怒られると思った」

「は〜まあ、怒ったりしないよ。で、その友達はこっちに出てこないの?」

「え? あ、違うよ、そういうのじゃなくてね、わたしがこっちに出てくる半年前に、出荷されちゃった」

「それ人間ですらないじゃん! 何? 豚? 『も〜〜〜〜』だから牛かっっ!」

「やああぁぁぁ、怒らないで〜やちよん。本当に親友で、大好きだったんだよ〜」

「そんなん、私も大好物だわっっ!」


 この二人、永遠に続けるのだろうか。






 


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