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『それではお邪魔しました〜』と瀬央は家を出た。
どんな流れからだったかは覚えていないが、男を泊めてしまった自分に驚き、『お酒って怖いわ〜』と思う八千代だった。
大学の三限目、授業は十三時十分開始なのだが、いつも八千代は早く来ている。ガヤガヤと騒がしい学生食堂で満面の笑みで大量の食事を運んでいる。もちろん自分が食べる為だ。
さて、食べようか、という時に『やちよん、おっはよ〜悪かったね、透、泊めてもらっちゃって』と真穂が現れた。
「あれ? うん。おはよう。早くない? 真穂、三限からじゃなかったっけ?」
「そういう、やちよんだって三限目からでしょう」
「私はほら、授業前に脳味噌にエネルギーを蓄えないとダメだから。学食安いし」
「どれどれ、カルパッチョ風サラダに明太マヨサラダ、サラダ菜、サラスパ、皿ウドン?」
「ね〜サラダづくしだよ〜痩せちゃうよ」
「うっうんうん。そ、そうだね。なんだか、サラ違いなのが一品あるような、無いような、だけど」
「ふふふん。で、真穂は何食べるの? 何も持ってきてないけど」
「あー、うん、あまり食欲無くて。ここに来たのも、やちよんがいると思ってなんだよね。ちょっとお願いがあって」
「ん? もぐもぐ、んんん? 私に?」
「あ、気にせず食べてて。なんかね、ここ一週間おかしな事ばかりでさ。マンションのポストの中の物が落ちていたり」
「ふむふむズルルルル」
「誰かに後をつけられているような」
「んー? モグモグごくん」
「普段より早く帰ったり、逆に遅く帰ったりした時はそんな事はないんだよね。それで、昨日も理由つけて飲み会してもらったんだけど……」
「ふむ、モグ?」
「帰ったら、ドアノブがヌルヌルしてて」
「ごくり。ちょっと待って、それ、嫌がらせとかストーカーなんじゃない。一応、しっかり戸締りとかしておかないと」
「ちゃんとそれはしてるんだよ。してたんだけどね、家に入ったらテレビのリモコンが、いつも置くところと違うところにあったの」
「⋯⋯まさか、それは、さ、勘違いだと思うけど」
「わたし、教育番組見ないんだけど、テレビつけたら⋯⋯チャンネルが教育番組だったの」
「警察行こう警察。部屋に入られてるよ、それ」
「あ、でもね、わからないのはさ、悪い人が教育テレビとか見るかな?」
「はあ? それはいま、問題ではないよね」
「だからね、お願いがあるの。その前に確かめようと思って」
「確かめるって⋯⋯どうやって?」
「ほら、やちよんの言ってた特殊能力で⋯⋯ほら、なんだっけ? 見た瞬間に記憶しちゃうやつ」
確かに八千代にはかなりの能力はある。これまでに不運を繰り返していたせいで、一定のパターンや場の悪い空気を感じたり、意識せずとも、辺りにいる人間の顔を覚えていたりする。自分を守るためだ。
「そうそう、瞬間記憶喪失!」
「駄目じゃんそれ! 忘れちゃってるじゃん! 確かに、それはそれで凄いけど」
ボケラー二人の会話のせいで、千二百文字も使っているのに一向に話が進まない。困ったもんである。
「ま、まあ瞬間記憶能力みたいに凄いものではないけど、それなりには役に立てるかも。真穂につきまとってるかもしれない誰かを見つければ良いってことか」
「そういことなのだ。じゃ、五限終わって、十九時前かな。いつものファミレスで」
「了解! お酒は無しね。アルコール入ると記憶が無くなる。あ、そうだ、彼氏ちゃんにも協力してもらおうよ。学食来ないんだっけ––––⋯⋯? そういえば、彼氏ちゃんとつき合い始めたのも一週間前だよね?」
「ん、うん、そうだけど」
「もしかして、彼氏を作ったから真穂のことを想っている誰かが、恨んでるとか? もしくは、彼氏ちゃんを想っていた誰か、とか」
「ど、どうかな? そういうのはないと思うけど⋯⋯確かにね、透は奪った感じではあるけど」
「え? 今なんて?」
「透にね、彼女はいたんだけどさ、なんか、わたしと付き合うことになったから⋯⋯」
「間違いなくその女が犯人だろ!」
遠まわりしすぎな二人である。
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