第2話 【空上 燕(くうじょう つばめ)】
【空上 燕(くうじょう つばめ)】の場合
「異世界転生……?」
「そうじゃ。」
ワシが次に呼び寄せたのは、前回と同じく地球という球体の世界の日本という国の人間だった。最初に呼び寄せた人間より少し若いが、周囲と己の見た目に関してとやかく言わないという条件を満たしている人間である。
「でも、なんで僕が?」
「お主はあまり見た目を気にしないらしいな。」
「見た目?僕は在宅仕事なので……え、そんなことで?」
「大事なことじゃ。どうかの、世界を救ってみないかの?」
ワシは話した。転生先の世界では魔王が世界征服を企んでおり、人間をはじめとした多種族への大量虐殺が始まりつつあることを。それはもうドラマチックに仰々しく語った。先ほど言ったばかりなので、スラスラと言葉がでてくる。それから最後に、この話は断ってもいいと付け加えておく。
「わかりました、でも僕なんかにできるのでしょうか?」
「おぉ、やる気がある……の、かの?」
「僕みたいな現代の最底辺かつ負け犬ような人間にできるのでしょうか……」
「自信なさげじゃの。」
「駄目な人間はどこに行っても駄目なんですよ。」
「えーっと、適材適所という言葉があってだなぁ。」
「誰もが人より優れた能力を持っていると思ったら大間違いですよ。」
「人間は成長力に優れた生物だと聞いたぞ、お主は若いし、転生するならワシも手伝うk」
「どんなに優れた器であっても中身が中身なら中身なんです!」
「強情じゃの!?地球で何があったんじゃ!」
「仕事でひどく貶されました、でも僕の能力不足が悪いんですわかってるんです。」
「急に早口で喋るのう。資料資料……あぁ、お主は絵描きなのか。」
「一応です、名乗るのもおこがましいくらいの画力で本当に申し訳ない限りですよ全くもう」
「というわりには多くの絵を描いておるし、賛同者も多いようようじゃが?」
「……一週間前、某イラスト投稿サイトで散々なことを言われたんです。」
「本当じゃ、『身体のパースがおかしいし、現実味がない。プロとは思えない。』」
「言わないでくださいぃ」
「気にすることか?その下の
『いつもありがとうございます!今回のイラストも可愛くて、ありがとうございます!』
『最高です!でももし良ければ次こそ✕✕の〇〇ちゃんをお願いします!何卒!』
を見たかの。こちらの方が真実味があるぞ。」
「それは」
「あとこの悪口を書き込んだ人間、まだ十にも満たない赤子じゃぞ。」
「小学生!?それであんなに偉そうなんですか!?」
「お主は年齢に不相応な感情の起伏だのぉー」
「悩んでたのが馬鹿みたいじゃないですか、てっきりプロの人かと。」
「プロはそんなに暇じゃないじゃろうに、ともかくこれで転生する気になってくれたかの。」
「……神様なら、異世界転生よりも先にこういう輩に天罰を与えるべきだと思うのですが。」
「それは地球の神の仕事なのでな。それに、もうこのものは罰を受けている。」
「具体的には?」
「母親の携帯を使っていたのがバレて、折檻されとる。」
「え?」
「良かったの。」
「それは、いささか、いや、かなりやりすぎでは?」
「やりすぎというのは神ではなく母親のことかの?」
「う、そ、そうですが、」
「どちらにせよ、お主の気は晴れたろう?もう転生の準備をしてよいかの。」
「あの……異世界転生について、詳しく話を伺ってもよろしいでしょうか。」
「もちろんじゃ。」
前回の反省を踏まえて、ワシは転生方法から転生で得る能力、異世界の状況、将来的な話までこと細やかに話した。異世界能力重視の話も、もちろん伝えた。しかし、この人間先ほどから地面を見つめてばかりで全く反応しない。顔色を伺うまでもなく、いい返事がもらえないことはわかった。
「せっかく説明してもらって、すみません。」
「何だか浮かない顔をしておるの。」
「やり残したことがあるんです。」
「さっきまで、自分は役に立たない人間だの言っておったのにか?」
「その思いはかわりません。僕には大した価値なんてありません。」
「だったら、異世界で最初からやり直してもいいのではないかの。」
「ありがたいお話なのはわかっています、素晴らしい話だということも。」
「であれば、」
「でも、僕は人生のほとんどをイラストに費やしてきます。それが、今ようやく報われつつあるんです。それに、コメントしてくれたファンはこんな僕に期待してくれている。」
「よいのか?期待と失望は近いところにある。重荷にもなる。必ずしもそれに応えられるわけではないのはわかっているであろう。」
「わかっています。でも、さっき読み上げられたコメントで思ったんです。もっと努力してみたいって。」
「意思は固いようじゃの……わかった、帰りの準備をしよう。」
「あと、頼みというか、お願いがあるのですが、聞いていただけますか?」
「聞くだけ聞こうかの。」
「僕に悪口を投稿した子、虐待を受けていますよね?」
「そうともいうが、少なくとも両親は躾の範囲内だと思っているの。」
「止めさせられませんか。」
「無理じゃろ、両親は既に息子にそういうことをする人間として成熟している。」
「神でもできないのですか?」
「神は平等なんじゃよ、一人の人間に固執したり寵愛を与えたりはせん。」
「じゃあ、両親から引き離せませんか?せめて、あの児童相談所に連絡するとか。」
「それくらいならやっても構わんが……内容はともかく一週間お主を苦しめた人間じゃぞ?いいのかの。」
「いいんです、僕は人の善意に救われたから、同じように人には善意で接したいんです。」
「……なるほど?わかった。必ず手配しよう。」
異世界転生をすれば、絶対的な成功をつかむことができる。しかし、全ての人間がそれを望んでいるわけではない。残念じゃが、今回は仕方がないと思える結果になった。
ワシが求めるのは、異世界転生に前向きで意欲的な人間じゃ。
優しさという点ではこの者は相当の適正があったが、人間は強制されると途端にやる気を無くすのはよくわかっている。無理強いはできん。それに、あの者は将来……。
まぁともかくこうしてワシは児童相談所に連絡を入れてから、次の転生候補者の手配を行うはめになったのだった。
異世界転生しない理由~チート級能力あげるって言ってんじゃん!~ 焼き立てパン @kantaberi
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