②
仕立て屋を出て数十分後。
ロザリアは、リュカ、オスカー、サラの四名で、街の大通りの先にある公園に来ていた。
ベンチに座って周りを見てみると、中央に可愛らしい看板を掲げた屋台があり、若い男女が集まっている。どうやらそこが、サラのお気に入りのアイスクリーム店らしい。
「ロザリア様、どうして私たちも一緒なのでしょうか」
「私もわからないわ。かなり良い感じの
小声でリュカとやり取りをする。サラは言うまでもなく楽しそうにニコニコしており、オスカーはこういった場所に初めて来たからか、興味深そうに周囲を観察していた。
「いきなり二人きりは恥ずかしい、ということかもしれないわね」
「なるほど」
前世では経験があるが、今のロザリアとしてはもちろん、オスカーも、公共の場でベンチに腰掛けてアイスを食べる──なんてこと、したことがないはずだ。それでもオスカーが不快感を示さずついてきたのは、サラのことを知ろうと思ったからなのだろう。
(あれ、そういえばオスカールートにこんなイベントがあったぞ? サラの視点で物事を見ようと考え始めたオスカーが、二人で街に出かけてデートをする……というイベントが)
つまりこれは、オスカールートのシナリオが進行しているということだ。自分たちがいるという
(調子いいじゃないの! やったぁ!)
「ロザリア様も喜んでくださって、嬉しいです」
「そうね、なんだかとっても楽しい気分だわ」
二人して微笑んでいると、オスカーが疑問を口にした。
「それで、この後はどうすればいいんだ?」
「あ、はい! この中から食べたいものを選んでください! 買ってきますので!」
オスカーの問いかけに、サラがメニューの
「どのアイスも見た目が可愛くて
どれも食べてみたくて目移りしていると、オスカーが『人気ナンバーワン』と書かれた写真を指さした。
「人気らしいし、これなんかどうだ? ミントチョコレート……」
「ロザリア様はこちらですよね、ストロベリーチョコレート」
オスカーの言葉を
「ロザリア様は、ミント風味のものがあまり好みではありませんでしたよね」
「さすがリュカ、よくわかっているわね。私もこれが一番良いなと思っていたの」
「…………」
ニッコリ微笑み合うロザリアとリュカを、オスカーが顔を
「じゃあ俺も、同じものを」
「ちょっと、
「いいだろう、俺もお前が好むという味に興味を持っただけだ」
なぜツンツンしているのかわからないが、意見を変える気はなさそうなので、まあ好きにすればいいか、と受け流す。後の二人も味を決めたところで、リュカが立ち上がった。
「では買って参ります。ロザリア様、
珍しいリュカの申し出に、ロザリアは彼の意図をすかさず察した。
(そうか! 二人きりにするチャンスよね! さすがリュカ!)
「ええ、行きましょう」
差し出された手を取り、ロザリアも立ち上がる。
「そんな、ロザリア様に頼むわけには」
「いいのよ、サラさん。興味があるから行きたいの」
申し訳なさそうなサラを宥めて、オスカーに向き直る。
「では、二人で仲良く
「? ……ああ」
意味深な笑みを見せたロザリアに、オスカーは不思議そうな顔をしながらも頷いた。
(よし、この時間で親密度を上げちゃってね!)
心中でひっそりとオスカーにエールを送り、リュカと共に屋台へ向かう。店には二十人ほどの行列が出来ており、いかに人気店なのかということが
(なんだか懐かしいな、この感じ)
前世では、友人とこんなふうに買い食いをしたことがよくあったものだ。しかし、こうしてリュカと並べる日が来るとは思わなかった。あの頃の私に
「申し訳ありません、ロザリア様。このように並ばせてしまって」
「気にしないで。むしろ機転を
そのまま並んでいるうちに、なんだか視線を感じることに気付いた。そろりと辺りを
(え、どうしたのかしら。何か目立って──……ああっ!?)
(みんなリュカを見てる!? なんで!? ……いや、なんでじゃないわよ私!!)
脳内ツッコミを入れながら、当たり前の公式設定を思い出す。
(そうだった、リュカもロザリアに引けを取らない
学園ではリュカはロザリアの従者として周知されているので、彼をそういう目で見る者はまずいない。でも学園外に出てしまえば、何も知らない女性たちから熱い眼差しを向けられてもおかしくないのだ。
(なんだろう、
ここまであからさまに見つめられることは、そうはないからだろうか。リュカが目を引く外見だということを、こんな形で自覚する羽目になろうとは。
妙に胸がザワザワし始めたロザリアの
「ど、どうしたの?」
「……やはりいけませんね。どうしても目を引いてしまうようです」
「……そうね。あなたって本当に目立つのね」
「え? いえ、目立っているのは私ではなく……」
「うっかりしていたわ、あなたが絶世の美青年だったということを忘れるなんて」
「……無自覚なのにも困ったものですね」
苦笑いされた気配を感じ、しかめっ
「笑い事じゃないわ。落ち着かないじゃない、こんなに女性たちから注目されているなんて。私が隣にいるというのに──……」
「……まったく、どうしてそんな心配をする必要があるんですか」
(
困り顔をそう受け取ったロザリアは、
「本当にわかっていないですね、
小さく呟かれた言葉は、人の
周りからの視線に
「二人とも、楽しそうね」
「ロザリア様、リュカさん! ありがとうございます!」
「すまなかったな」
「いいのよ、おかげで現実への危機感が持てたから」
「……何を言ってるんだ?」
「こちらの話よ。さ、いただきましょう」
ベンチに腰を下ろし、アイスクリームに口をつける。
「うん、美味しいわ!」
「なるほど。なかなか
「えへへ、お口に合ったのなら良かったです!」
(ふむ。サラは楽しそうだし、オスカーも平民の食文化に特に
計画が順調であることを意識すると、先程のモヤモヤも
「ロザリア様、よろしければこちらもお食べになりますか?」
「え、いいの?」
スプーンに載せられたキャラメル味のアイスに、目を輝かせる。実は、リュカが選んだ味は最後まで
「はい。ロザリア様は、こちらの味もお好きだろうと思いましたので」
「もしかして、私のためにこれを選んでくれたの?」
「もちろんです」
ニッコリと微笑まれ、キャーッと心の中で
(さすがリュカ! ロザリアのことを知り
「ありがとう、ではいただくわ」
スプーンを受け取り、口に含む。ううむ、期待していた通りに美味である。
「ま、待て。俺のも食べていいぞ」
なぜかオスカーが慌てた様子で、自分のアイスも一さじ掬った。
「あなたのは私と同じ味でしょう。いらないわよ」
しれっと断ると、オスカーが苦々しげな顔をした。そこにサラも割り込んでくる。
「ロザリア様、私のはいかがですかっ?」
「いいのよ、あなたは好きなだけ食べなさ──、きゃっ」
「ロザリア様!」
「な、何かが急に──……あら」
見ると、肩には小妖精のエアリアルが乗っていた。空気の精でもある光の妖精だ。
エアリアルは、キラキラした目でロザリアが持つアイスを見つめていた。
「美味しそうねぇ! 私にもくださいな!」
「これが食べたいの? いいわよ、どうぞ」
キャッキャとじゃれつくエアリアルに、快くアイスを分けてあげる。リュカが何か言いたそうにしたが、「いいのよ」と目で制する。
「ロザリア様、その妖精さんはお友達ですか?」
サラの問いに、いいえと首を振る。
「初めましてよね。良き
「ええ、そうよ!」
ふわりと
「気に入ったのなら、好きなだけ食べていいわよ」
「わあい!」
可愛いなぁ、とニコニコしながら
「さすがロザリア様! 初めて会った妖精さんとも、すぐに仲良くなれるなんて!」
「やだ、
「……いや、大袈裟なんかじゃない。お前は本当に……すごいな」
オスカーも
「すごくなんてないったら。ねえ、リュカ。──……リュカ?」
一瞬、リュカが眉を
「そうですね。ロザリア様は本当に……、誰もを
含みのある言い方に聞こえたのは、気のせいだったろうか。
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