第1話 ドッカーン☆ 誕生! マキナスパーク!!⑦

 「はぁ〜、夕方だねぇ。お腹すいたねぇ〜」

 空空技術大学前のバス停に到着するなり、キッカがお腹をぱんぱん叩きながら呟いた。

 「さっき知能パン三つも食べてたのに?」

 「うん〜。育ち盛りだからねぇ」

 しわくちゃのビニール袋に残った知能パンを見つめながら、寂しそうに言う。

 「それも食べちゃったら?」

 キッカの提げるビニール袋を指差す。

 「だめ〜。これはお土産なの! 夕飯まで待つよ〜」

 ーーキッカの父親はパン屋としてのプライドが高く他店のパンは決して口にしないが、知能パンは別。空技大に遊びに行った時は必ず買ってくるように言いつけられるほど気に入っているらしい。父に差し出すと誰ともわかち合わずに一人で食べきってしまい、母が寂しそうなので、必ず二つを土産に持ち帰るーー。と言う話をマキナは以前キッカから聞かされたことがあった。

 「律儀だねぇ。……あ! 夕飯!」

 目と口をかっ開き、マキナが叫んだ。

 「うわぁ! びっくりした! どうしたの?」

 「夕飯の買い出しとおつかい、忘れてたぁ……。ごめんキッカ! これから駅前行かなきゃだから、一緒に帰れないわ……」

 マキナが額の前で両手を擦り合わせる。

 「いいよぉ〜行っておいで〜」

 袋の中身を見つめ心ここにあらずと言った様子のキッカの口から一滴の唾液が地面に染み込んだ時、空空駅前行きのバスが到着した。

 「また明日ね、キッカ!」

 マキナはせわしなくステップを駆け上がり、小さく手を振った。

 「またねぇ〜」

 キッカはお腹をくうくう鳴らしながら、閉じるドアに向かって小さく手を振った。

 バスが発進すると、マキナは最後部の座席に腰掛け、二人は互いの姿が見えなくなるまで手を振りあった。


 マキナはバスに揺られる道中、退屈だったので鞄からロボットを取り出した。

 矢武教授は本当にしっかり直してくれたようで、これが野犬のオモチャになっていたことなど、微塵も感じられなかった。

 合金と思われる外被がひんやりするし、曲線の造形も滑らかで手触りが良いのでマキナは気分が良くなって、学校でキッカがやっていたのを真似てロボットをポンポンと叩いた。

 「ん? なんか変……」

 マキナは何か違和感を覚えたが、その正体は分からないまま、空空駅前に到着した。空空駅直結のデッキ通路を渡り、デパート内のドラッグストアを目指す。

 父はシャンプーに強いこだわりを持っており、旅行先でも決まったシャンプーしか使わない程だ。そのシャンプーは父とマキナの知る限り駅前のデパートでしか取り扱っていないのだった。マキナは、その強いこだわりが薄毛に由来するものであることを知っている。

 ーーまったく、自分で買いにくればいいのにーー!

 シャンプーを買い終えると、再びデッキを渡り、百貨店の食品館を目指す。

 ーーもう真っ暗だぁ、早く帰らないと、夕飯が明日になっちゃうーー!

 パタパタと走っていると、上空が一層深い闇に覆われ、空空駅を象徴する抜き文字の看板に強烈な雷が落ち、一文字目の空が火柱を上げた。

 

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