第1話 ドッカーン☆ 誕生! マキナスパーク!!②

 「マンガリッツァって?」最後部の座席にストンと腰掛け、マキナが問う。

 「ぶたさんだよー。毛むくじゃらで可愛いのー! ほら!」マキナに続き、その隣へちょこんと腰掛けたキッカが嬉しそうに答え、手提げ鞄の持ち手につけた手作りのぬいぐるみを手にとって見せた。

 マキナはそれを受け取り、まじまじと見つめる。ーー縫い目も綺麗に揃っていて、毛並みも整っている。綺麗にまん丸で、棉の詰め方による感触も絶妙だ。これは本当にーー。

 「器用だねぇ、キッカ」その反応にキッカはニヒルな表情で答え、小さなため息を漏らした。

 「私はマンガリッツァの可愛さを伝えたいのに〜!」

 「ははは、キッカはかわいいなぁ〜!」そう言うと、マキナはキッカの頭をポンポンと叩いた。

 「もう〜!」キッカは頬を膨らませ、そっぽを向いてしまった。

 マキナはまだ笑いながら、膨らんだキッカの頬を突いていた。

 「ぱっ」何かに気を取られ、キッカの口が開いた。

 「ん、どうしたのキッカ」

 キッカの見る窓の向こうを覗くと、野犬が3〜4匹、仔犬を取り囲んでいじめているのが見えた。

 マキナは堪らなくなり、すぐさま停車ボタンを3回連打した。最寄のバス停に到着するより先に、マキナは髪を逆立てながらずんずんと車両前方へ歩を進めた。

 到着するなりバスから飛び降り、韋駄天走りで野犬たちの元へ向かった。

 「こらーっ! 弱いものいじめはやめろーっ!」近くに落ちていた棒っ切れを野犬の群に向かって放り投げ、挑発した。

 四匹の野犬は、マキナを”弱いもの”としてロックオンし、一気に向かってきた。

 マキナは野犬が到達するより早く構えた。野犬は直線上に”飛びかかって”くる。それも、急所を狙って。

 だから一匹ずつ確実に、前足の間から掌を潜り込ませ、腹の柔らかい部分を抱え込み、肉に添わせ手首を捻ることで背中から地面へ叩きつける。二匹、四匹。

 飛びかかる力を利用して地面とぶつけるから、全身は強く震え、軽い脳震盪を起こす。しかし犬の皮膚は厚いから、そのくらいで怪我なんてしない。

 それでも制圧するには十分な衝撃だった。野犬たちは散り散りに何処かへ逃げ去ってしまった。その間僅か2秒。

 「桐立流・葉船掌(ヨウセンショウ)ーー」野犬たちの行く末を睨み続け、その姿が完全に見えなくなるまで、マキナは構えを解かずにいた。

 そして、はたと我に返った。

 「あぁーッ! 私また桐立流を……。もうしないって決めたのにィー!」父から伝授され、その師をも遥かに凌ぐ才能で以って十余年磨き続けた武の真髄は、呼吸や瞬きをするが如く無意識に引き出されるまでに至っていた。

 「まぁ、いっか……。ワンちゃん、大丈夫?」

 マキナは、いじめられていた仔犬を抱きかかえた。これはーー・

 「ロボット犬?」

 ちょうどマキナが物心つくような頃合いに、世の中でムーブメントとなっていた仔犬型のロボットのようだった。それにしては、顔も四足も短く、どちらかと言えば犬よりも飛騨のさるぼぼに近かった。表面の傷や凹みがひどく、動かなくなっている。そもそも表面にスイッチなどが見当たらず、動かし方がわからなかった。

 「おもちゃだったんだ……どうしよう、ここに置いていくわけにもいかないし……」マキナはその場でロボット犬を持ち上げたり地面に置きなおしたり、葛藤を始めた。

 「マキナちゃーん! はやすぎだよー!」

 マキナの後を追い、キッカもバスを降り、走ってきたのだった。マキナとは打って変わってこちらは息も絶え絶えだ。

 「キッカ! 先に行ってくれてよかったのに!」

 「マキナちゃんがワンちゃんとケンカしちゃうー! 危なーい! って思ってー! ついてきちゃったよーっ! でもやっぱりマキナちゃんはすごいねぇ、四匹も一気にやっつけちゃった! こっちに逃げてきたワンちゃんなんて泣いてたよ〜」キッカはとても視力が良いので、遠くからでもマキナ対野犬の一部始終を確認できた。

 「きりたちりゅう、ようせんしょう……」キッカはキメ顔のつもりで目を細め、マキナの構えを真似して見せた。

 「キッカ、やめて」

 「えへへ〜、マキナちゃん、それは?」抱きかかえたものを指差して問う。

 「ロボット犬……かな。仔犬だと思ったら……。壊れちゃってるみたい。これ、どうしよう?」

 キッカに受け渡そうと腕を伸ばすも、手をひらひらと振って拒否されてしまった。

 「矢生(ヤブ)教授のとこに持ってったらー?」

 「それだ! さすがキッカ! 放課後持って行こう!」マキナは、ロボット犬を丁寧にカバンに詰め、バス停へ戻った。間も無くバスが到着したので、そのまま乗車した。

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