ウチらは! マキナガァール!!
稲苗野 マ木
第1話 ドッカーン☆ 誕生! マキナスパーク!!①
桐立マキナ(キリタチ-)、空空(ソラカラ)学園女子高等学校二年にして生徒会長。母は町立科学館勤務の科学者。父は新興武道集団桐立流・空空論武館(ロンブカン)館長、つまるところ武道家。
激務により家を空けっ放しの母に対し、父親はあらん限りの愛情で以って、シングルファーザーのような心持ちで愛娘をここまで育て上げた。
文武両道、誰もが信頼を寄せるその立ち居振る舞い、仁の星の下、学友たちに慈しみを振りまくその姿は、外でもなく桐立流の心得による賜物に違いないーーと、父は確信している。
「嫌だーーッ! もう道着は着ないって! “カラテ”もしないって! 何回も言ってるでしょう!」格子戸をバチンと開け放ち、振り返りざまにマキナが叫んだ。
「空手ではない! 桐立流だ! 久し振りに朝稽古をしよう! な、マキナ!」マキナが飛び出した戸の向こうで、父が叫んだ。
「足が太いって! 腕が太いって! 皆に触られるのが恥ずかしいの! もう鍛えないから!!」
「それこそが、人間の誇るべき肢体よ! さあさあさあ、稽古だマキナ!」
「うるさい! 学校だから! じゃあね!」そう言い放つと、マキナは学校へと駆け出した。50メートルを6秒台で駆ける娘に、鍛え上げられた巨躯を誇る父親が追いつく術はなかった。
「では帰ってからだ! 待ってるからな! マキナァーッ!」父はブンブンと手を振って娘を見送っていた。扇の軌道を描く手の先の木々の葉が揺れていた。
父が部屋に戻ろうと向き直ると、眼下に人影を捉え、急速な後ろ跳びで間合いを確保した。
「でぃやッッ!」
「おはよ、館長。ウチだよ」
「なんだ、ナヲか……」
桐立ナヲ、空空学園女子中学校三年。男の後継が生まれなかった桐立家において、空空論武館を継ぐ後継として、論武館が運営する孤児院から、男児と間違われ(る程の武道センスを買われ)養子となった。
「この家にはウチと館長とマキナしか居ないんだから、毎朝威嚇しないで。朝稽古お願いします」
「ん、あぁ、ナヲは早く学校に行きなさい。遅刻するよ」
「え……うん、わかったよ」
ナヲは自室に戻り、着替えを始めた。
そのころマキナは、学園行きのバスを待っていた。
「マキナちゃん、おはよぉ〜」マキナが歩いてきた道から、眠ってしまいそうな程おっとりした声が聞こえてきた。
「おはよう、キッカ」
櫻田キッカ、空空学園女子高等学校二年にして、生徒会副会長。桐立家とはご近所さんで、マキナとは幼稚園からの大親友。両親が切り盛りするパン屋は、空空町でも知る人ぞ知る名店だ。
「今日も起こしに行ったんだよぉー……」マキナがニヤニヤしながらキッカに詰め寄る。
「あぁー! ごめんねマキナちゃん! 沢山のマンガリッツァちゃんたちと戯れてたら、ついつい……えへへぇ」
「マンガリッツァ……? なんだかよく分からないけど、夢の話?」
「うん〜、あ、バスが来たよぉ」
二人はバスに乗り込み、学生証をカードリーダーに読み込ませた。バスは間も無く発進した。
環境基準ギリギリで猛烈に吹き出す排気ガスが晴れると、生垣の陰に隠れバスの後ろ姿を見送る者が居た。
「桐立マキナッ……!」人影はリアガラスを睨みつけ歯ぎしりを一つすると、その場から立ち去った。
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