番外編

番外編 sweet or bitter


この話の時系列はプロローグより前の話になります。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「チョコレートを作る?」

「そう!お願い手伝って!明美!!」

私は頼れる親友に頭を下げていた。

明日はバレンタインデー…義理チョコや友チョコの分は用意してある。

問題は…

「…私お菓子作り得意なわけじゃないんだけど?」

「でも…ほら!、私よりは器用じゃない?何でかわからないけど手順通りにやってもうまく行かなくて…」

「…水瀬君にあげるやつ?」

「っ!…あはは、明美には隠しても仕方ないよね…」

私は言い当てられたことに驚いたけど自分の態度もあからさまだった自負があるから納得した。

「…誰かにお菓子なんて作ったこと無いんだけど」

自慢じゃないけど明美が友チョコをあげるのは親友である私だけである。

他の友達からチョコを貰っても面倒だから返さないよと言っているのにだ!!

面倒くさがりの明美が気を使わなくていいように私も市販のチョコでお互いにあげていたからこんなことになっているのだが…

「…いつも市販のチョコであげてたじゃん。水瀬君だけ少し高かったけど…なんで今回に限って手作りなの?」

何でと聞かれると私も困ってしまう。

告白しようなんて気はさらさら無かった。

クラスでも知られているくらいに別のクラスの渡辺さんという幼馴染みと付き合っているって話は和人君に気がある娘は皆知っている。

「…わからないけど…なんか後悔しそうだなって…」

何故かわからない…けど今回のバレンタインを逃すと次は無いような気がしたのだ。

「…はぁ、なに作るの?」

私を見てため息を吐きながらも聞いてくる親友に私は暗く沈みそうになった気分が晴れて「シュークリーム!」と叫ぶのだった。










「ねぇねぇ、渚は水瀬くんにバレンタインのチョコあげるんでしょ?」

授業が終わり休み時間に杏花がにやけながら聞いてきた。

「え、べ、別にあげないよ。今更そんなの…ただの幼馴染みだし」

本当は最近冷たくしている和人に周りにはばれないようにあげようと思っていた。

「えぇ~あげないの~?じゃあ私があげようかな~…本命」

「え…?」

杏花の言葉に私は頭の中真っ白になる。

「…ぷ!冗談だっての!」

杏花がケラケラ笑っているのを見て我にかえる。

「そ、そうだよね、冗談だよね」

「まぁでも和人君は他の女子からも貰うんだろうな~。クラスの女子とか?」

杏花の言葉に私は胸を刺されるような痛みを覚えてうつむいてしまう。

「渚と付き合ってるわけじゃないなら本命あげる娘もいるんだろうな~」

私はなにも言えなくて、和人が他の人からチョコを貰うことを想定してなかった自分を胸中で責めた。









私は美鈴の家に来ていた。

理由は勿論お菓子作りである。

「美鈴!計量はしっかりして!」

「え?でも3gしかオーバーしてないよ?」

「3gも!オーバーしてるの!!」

「わ、わかった」

美鈴は…

「水計るときは波が収まるまでまちなさい!正確に計れないでしょ!」

「は、はい!」

美鈴は…

「カスタードがダマダマだよ~」

「卵溶いたときちゃんと濾したの?」

「あっ…」

「(💢💢)」

とても大雑把だった…

「真面目に作る気あるの!!」

「ご、ごめん…」

しゅんとする美鈴を見て余計に怒りがこみ上げてきた。

私は恋なんてしたことがない。

でも物語が好きで本はよく読む。

そして身近な親友が恋していて私は少し期待していた。

物語でしか知らない熱のある恋を冷めた心に少しでも与えてくれるのではないか…?

そうすれば自分もいつかは…そう思った。

「…ねぇ?このお菓子誰にあげるの?」

「え?それは…水瀬くんに…」

恥ずかしそうに赤らめる美鈴を見てまた怒りが増した。

好きな人にあげるのにこんなにも適当なのか…?

「…そう、なら美鈴の水瀬くんに対する想いはその程度だったってことね」

私は失望を隠さずに言った。

「…えっ…?」

美鈴の顔が一気に青ざめる。

ああ、ここまで言われて言い返すことも無いのか…所詮は物語。

どこまでいっても創作物でしかなかったのか…

「時間の無駄ね」

私はそう言って荷物をもって家を出ようとする。

「ま、待って」

美鈴が弱々しく私の腕を捕まえた。

「なに?」

感情がここまで荒れることがあまり無い私はつい睨んでしまう。

「ご、ごめん。ちゃんとやるから…もう一回」

「…ねぇ、何の意味があるの?」

「…え?」

私はお菓子を一緒に作っていて美鈴に思ったことを聞いた。

美鈴の目を見て。

「ねぇ、美鈴。美鈴は本当にお菓子を渡す気あるの?」

「それは、勿論…」

しかし美鈴は目を反らして答える。

「…ねぇ、なんで水瀬君にお菓子をあげるの?」








なんで…?そんなの水瀬君が好きだから。

そう私は水瀬君が好きなんだ。

でも水瀬君には渡辺さんがいる。

…あれ?私なんで本命をあげようとしてるの?

私の恋なんて叶わないって知ってるのに…これを逃せば次はないって…次ってなに?

「なんで…?なんで私は…」

そもそも次なんて無いのだ。

先なんて無いのだ。

想いを伝えるつもりもないのになんで手作りなの?

「好きなんじゃないの?和人君が」

「…好きだよ、でも水瀬君には渡辺さんが…」

「だからなに?そんなの関係あるの?」

「え?」

「結局渡すのが怖くて逃げてるんでしょ?」

「私は…」

何も言い返せない。

「それでも好きなんでしょ?」

それでも好き。

「なら良いじゃない」

「いいの?」

「好きだからお菓子を渡すそれだけでしょ?告白する訳じゃない。でも好きだからお菓子だけでも渡したい。それってダメなこと?」

「…いいのかな?迷惑じゃないかな?」

「渡さないと後悔するんでしょ?それとも美鈴が好きになった人は好意を嫌な顔で返す人?」

「違う」

「即答なのね…ならどうするの?」

「…私…は」

















バレンタインの日。

和人が好きなビターチョコをシューの中に入れて作ったシュークリームを持って、杏花達がこない時間に登校していた。

和人のクラスに行くと和人と女子が話していて、唐突に女子が包装された袋を和人に渡した。


「ありがとう、柊」


和人が笑顔でそれを受け取ったのを見てしまった私は廊下を走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

熱が冷めたら残るのは醜い何か 暁真夜 @kuroyasya0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ