37話 虚栄心と独占欲
「父さん、お風呂上がったよ」
「ああ、わかった」
帰宅してすぐお風呂に入って汗を流して父さんと交代する。
テーブルに置いていたスマホを見ると2つメッセージが入っていた。
1つは優、明美、美鈴とのグループメッセージ、そして…渚。
俺は渚のメッセージを開く。
明日の朝一緒に登校しても良い?
その一言だった。
「…本当になんなんだ?」
2年も来なかった墓参りに現れて一緒の間何も言ってこなかったくせに、帰ったらメッセージで明日一緒に登校したいとは…
明日合流した所で面と向かって話し等出来るのだろうか?
…考えるまでもない…でも、それでも…
「…どこかではっきりさせないとダメだよな」
確かに渚を前にすると黒くてドロドロとした感情が沸いてくるのは間違いない。
だけどそうやってずっと避けていくのが正しいのか?
渚とはケンカしてもいつも俺から謝っていた。
変なところで意地を張る渚が謝ってくることは今回がはじめてである。
だからといってそれだけで許すことが出来るのかと言われればNOであるが。
なら何が許せない?
何が不満なんだ?
渚が友達の前で見栄をはって拒絶していたことはわかっていたのではないのか?
なら何故?
「ああ、そうか。俺は…」
物心つく前から一緒だった。
血は繋がってなくても兄妹のように育ってきた。
これからも一緒だと無邪気に思い込んでいた。
見栄をはった喧嘩でも俺を邪魔だと拒絶したことはなかった。
だからこそ許せなかったんだろう…
「…やっぱり俺って子供だな…」
父さんを支えたくて料理をしたり家事を覚えたり背伸びした。
そしたら泣いて喜ばれて父さんの誇りだと誉められた。
渚に格好つけたくて勉強も運動も頑張った。
そしたらクラスでも色んな人に頼られ羨ましがられた。
そしていつの間にか目的は変わって誉めてもらいたくて、良く見られたくて…勝手な押し付けで見返りを求めていた。
立派だと言われて悦に浸っていた。
「こんな俺に渚をとやかく言えるのか?」
気付いてしまえば自分の愚かさが恥ずかしい。
俺はため息を吐いて自分の部屋に向かった。
私は自分の部屋で和人にメッセージを送った画面をぼうっと見ていた。
きっと無視されるだろう…
返信があっても断られる。
期待するだけ無駄だと私は思っていた。
でもスマホの画面から目を離すことはできなかった。
「渚~、お風呂入りなさい」
「…わかった~!」
お母さんがドアの向こうから声をかけてくれた。
最近まではこんな会話も無くなっていた。
こんな家族として当たり前な会話すらも疎ましく思っていた。
何故疎ましく思っていた?
お風呂に浸かりながら私は考える。
何故か思い出したくないって思っていた過去を掘り起こしながら。
「和人くんは偉いわね!家事も進んで覚えて料理も出来るようになって。渚も見習いなさい!」
「私は食べる専門だもーん」
「聞いたぞ和人くん。学年で成績が5位以内によく入るそうじゃないか。正人も誇らしいって飲みながら話していたぞ。渚も頑張らないとな」
「和人に教えてもらうから良いもんね~」
初めは和人が誉められて私も嬉しかった。
そんな和人が格好良かった…
「でも段々とそれが苦しくなっていったんだ」
いつも和人に勉強を教えてもらって…和人が母さんと料理を作って…
皆が和人を誉めた。
凄いね、頑張ったねって。
先生からも誉められ、和人の隣には私が居たはずなのに気付けば和人の周りには人が自然と集まっていて…色んな人が和人を頼る。
だからいつもの帰り道で私はつい和人に言ってしまった。
「最近和人他の人ばっかと喋ってるね」
「ん?そうかな?俺はいつも通りだと思ってたんだけど…」
「…ふーん、そう。じゃいい」
私はイライラしてその場を離れようとした。
「待てよ、どうしたんだよ。何が気にくわない?」
私の腕を掴んで引き留める和人は困惑していた。
「っ!だからなんでもないってば!」
「なんでもないことないだろ!理由はわからないけど怒ってることぐらいはわかるさ!」
私は耐えきれなくなって和人の手を振り払う。
「何でも無いってば!どうせ和人にとって私はその程度ってことでしょ!!」
気付けば私は叫んでいた。
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