36話 それでも
「よう正人、和人くんも久しぶりだな」
玄関のインターホンがなって扉を開けると、渡辺夫妻と渚がいた。
「お久しぶりです」
「揃ったな。それじゃあ行こうか」
父さんが運転席に乗り、俺は助手席。
後ろの席に渡辺夫妻と渚が乗るのがいつもの席割りだった。
「今週末には行ってしまうんだな」
「向こうに行っている間は頼むな」
「べつにそれくらい気にしないで正人くん、深雪も正人くんも和人くんだって私たちの家族みたいなものなんだから」
父さんと引っ越して離れている間は渡辺夫妻に母さんのことを任せている。
「毎年の命日には来るんだろ?」
「ああ、そこだけは調整するさ」
「飲み仲間が減ってしまうな」
「この際アナタは禁酒したら?最近飲み過ぎよ」
バックミラーで不貞腐れている宏樹さんを見て笑ってしまう。
そして渚を見ると渚は外の景色を頬杖つきながら眺めていた。
時々両親が話題を振ると穏やかな顔で受け答えしていた。
…なんか変わった…いや、戻ったのか?
後ろの席で家族三人楽しそうに話しているのは随分と久しぶりに感じた。
母さんが眠っている墓地についていつものようにみんなで掃除をして手を合わせる。
三ヶ月に一度くらいは命日じゃなくても来ていたけれどそれもなくなるとに少し寂しさを覚えた。
話したこともない母親でもお墓参りに来ているときは近くにいるようで何故か心穏やかになるのだった。
普通ならこんな気持ちになるのも変なのかもしれないが。
チラッと父さんの顔を見ると目が潤んでいるように見えた。
そして俺の視線に気づいた父さんは俺をみて優しく頭をポンポンと手を置いて立ち上がる。
「行こうか、正人」
「ああ……また来るから、深雪…」
父さんは宏樹さんの言葉に頷いて行こうとするけど振り替えって小さく呟いていた。
「…俺もまた来るよ」
俺もそう言い残して父さんを追った。
「今日はありがとうな宏樹、和美、渚ちゃんも」
「今更なに言ってるんだよ、毎年のことだろ?」
「そうよ、手入れもちゃんとやっておくから安心して」
「最近来れてなくてすいませんでした。これからはまた私も行きます」
渚の言葉に俺は内心驚いていた。
渚が何を考えているのか全然わからない
「僕からもお礼を。有り難うございました。そしてお母さんをお願いします」
「おう!任せとけ」
宏樹さんが肩を叩きながら言う。
和美さんと渚は頷いていた。
「まぁ最金曜日にでも俺たちの家で最後に飲もうや」
「そうだな、楽しみにしてるよ」
そうして渡辺一家は帰っていった。
和人と正人さんを家の前でおろして帰りの車内。
歩いて10分かからないくらいの場所に家はあるので車で5分もかからないのに車内の空気は暗く、時間は長く感じた。
父さんも母さんも別れを惜しんでいるのがわかる。
「飲み仲間が居なくなっちまったな」
「あら、毎週のように飲みあるいているじゃない」
「殆どが付き合いだろ?気兼ねせずに飲めるのなんて正人くらいだよ」
「この際禁酒したら?」
「…禁酒は出来ないけど飲む量は嫌でも減るな…あいつと飲めないならおいしくないしな」
そこで両親の会話は途切れた。
いつもの母なら笑い飛ばしている所だろうがその言葉が真実だとわかるからか何も言わなかった。
そして和人の話を出さないのは私がいるからだろう。そして…
「大丈夫?」
突然の母の私への問いは和人のことだろう。
「なんとか…大丈夫にする」
今日帰ってきて母に言われるまで深雪さんの命日であることを忘れていた自分にとても腹がたったのと同時に、こんな私が幼馴染みと言えるのかわからなくなってしまった。
結局自分のことしか考えていないのだと思い知らされたのだ。
「それでも…」
それでもと願うのこの気持ちは醜悪で醜いのかな…
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