34話 確かなもの
ほんの少しだけ空いた引戸の奥から聞こえる会話に私の体は凍りついたように動かない。
「大好きな大好きな和人くんが会いに来てくれないからってあそこまで落ち込むとか笑える」
「それだけじゃないかもしれないじゃん。なんか本当に辛そうだったし」
冷たくなっていた心に美紀の擁護してくれるような言葉は嬉しくて私は泣きそうになった。
美紀は本当に私を心配してくれてる…
こんな私にもまだ…助けてくれる人はいる…
「なによ、あんたも和人くん狙いで渚に近づいたんじゃん。あんだけ笑っといて今更なによ?」
「そ、それは…」
美紀だけは私の味方だと思った私に杏花のその言葉は強く刺さった。
…嘘…だよね?
私は信じたくなかった…でも美紀から否定する言葉は出てこない。
「私たちがちょっとからかうだけでムキになってさ、和人くんに冷たく当たって落ち込んでるのみてあんたも楽しかったでしょ?」
「…」
杏花は可笑しそうに笑っていた。
あれだけ擁護してくれていた美紀はなにも言わない。
否定してくれない…
「でもそろそろ捨てよっかな、なんかめんどくさそうな感じになってきたし。でも人数の多いグループに行くのもな~。渚って顔だけはよかったから一緒にいたけど…」
私は杏花の言っている意味が理解できなかった。
「す、捨てるって?」
「ん?だから渚放っておいて他のグループに行こうって話。私は他のグループに取り入るために一緒に居たようなものだしね」
ああ…そうか、私はただの…
「和人君に気にかけてもらってるから使えたのにそれがないんじゃもう用無しかな」
気付けば私はいつもの帰り道にいた。
ここに来るまでの記憶は何も無い。
ただ杏花の言葉が頭の中で渦巻いていた。
私はもう用無し…必要とされていない。
必要ってなに?用無しってなに?
私たちはただ利害の為だけに仲良くしてたの…?
嫌いな人間と笑いあって遊んでたの?
友達と思っていたのは私だけだったの?
「もうわからないや」
どうでもいい…もう、どうでもいい。
肩肘張って取り繕って…周りを気にして大切なものを見失う。
そんなバカな私にはお似合いな仲間だったんだろう。
クラスのグループなんか気にして他人を利用することに躊躇いもない。
そんな人間になるくらいなら友達なんていらない。
私はもう…大切なものを見失わない…
「…たとえ和人がもう私を見ていなくても…私の大切な人なのは変わらない」
これは依存?
かもしれない。
でも私は我が儘を言わない。
彼を縛るつもりはない。
ただ…
「幼馴染みでいたい」
和人との繋がりだけは諦めたくなかった…取り戻したかった。
上辺だけの繋がりじゃない…二人の間にあった確かなものを。
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