28話 彼との距離は遠く

一人になった帰路で俺はスマホに届いていた渡辺のメッセージを見る。

『もう一度ちゃんと話がしたい』

そんな一文に俺は無性に腹が立った。

俺も何度も渡辺に対して同じことを言ったしメッセージでも送った。

それでも渡辺は無視し続けた。

そんな彼女は話を聞けと言う。

随分都合の良い話だ。

「はぁ、また結局こいつの事ばっかり考えている。」

イライラを落ち着けるように一度深呼吸してスマホをしまう。

渡辺と話すことは何もない。

これが過去の渡辺と同じことをして傷つけているとしても…

そう思いながら今日の晩御飯の材料を買いにスーパーへ向かった。






「和人が…引っ越す?」

「ええ、それも今週末よ。新幹線なら時間で2時間くらいだけどそれが近い場所ではないということくらいわかるわよね?」

お母さんの話を聞いて体の芯から冷えていくのがわかる。

ただでさえ心の距離が遠いのに物理的な距離まで遠くへ行ってしまう。

ここに来て事の重大さを理解する。

時間なんて元から無かったのだ。

「な…んで…なんで言ってくれなかったの…?」

私の言葉にお母さんは悲しそうな顔をする。

分かっている、これはただの八つ当たりだと。

私の我が儘でお母さんやお父さんを遠ざけていたことくらい自覚している。

それでも…

「何で言ってくれなかったのよ!!」

私は声を荒げてしまう。

いつもそうだ、自分の感情が先行して当たり散らす。

そして後で後悔して自己嫌悪に苛まれて…

それでもごめんなさいの一言も言えない。

思えばいつも私が怒って和人と気まずくなっても必ず和人の方が歩み寄ってきてくれていた。

そして私は謝ることもなくいつもの関係に戻っていったのだった。

幼い頃和人に謝ったのはいつだっただろうか…それすら覚えていない。

「っ!!」

私は耐えられなくて外へ出ていく。

後ろからお母さんが何か言っていたが今は和人が居なくなる…そのことで頭が一杯だった。

そんな私が向かう先なんて1つ。

和人の家のチャイムを鳴らす。

けれど誰も出てこない。

さっき来たばっかりで誰もいないのは不思議ではないのにそれが何故か余計に私の焦りを煽る。

「和人…和人!!」

私は焦りに焦ってドアを叩く。

今週末と言っていたからまだ引っ越ししていないはずなのにもう既に和人はこの家に居ないのではないかという考えが溢れて苦しい。

そして私は耐えられなくてドアを背にして座り込んでしまう。

和人が居なくなってしまう…

別に生きているのだから二度と会えなくなるわけではない。

けれど…もう私の傍には居ない。

そんなの…

「いやだよぉ…」

目から涙が溢れて止めることはできなかった。

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