26話 時間はまだある


「そこまで!!後ろから集めろ」

平坂先生の合図で小テストを終える。

前の人に回答用紙を渡して優の方へ視線を向けると机に倒れていた。

御愁傷様です。

明美を見ると鋭い目で俺を見ていた。

「さぁ!これでお前たちの成績も随分と差が出てくるだろうな。」

「先生!習っていない範囲の問題も出てました!!」

「そんなのありですか!!」

数人の生徒が抗議をあげる。

「最初に言っただろう?基本的評価されるのは基礎と応用だけだ。特別問題は加点問題でしかない。まぁ予習くらいはしときましょうってことだ。問題用紙は各自持って帰ってよし。それで予習するも気にせず遊び呆けるも自由だ。」

そう言って先生は教室を出ていった。

おそらくあの特別問題は高校受験の過去問から出たものだろう。

「俺たちまだ2年生なんだが…」

「俺はもう駄目だ…」

俺が一人ぼやいていると優が隣に来て嘆く。

「文句なら明美に言うんだな。多分明美が難しくしろって言わなければあんなことにはならなかった。」

難しかったのは特別問題だけでなく、応用問題もそれなりの難易度だった。

「…私だって不本意な難易度だった。習ってないところまで出るとは思わなかった。」

「流石にあれは反則だよ~」

明美と美鈴も来ていて不満そうな声を上げていた。

「まぁ先生もきっと俺たちのために出してる問題なんだよ。」

Sっ気の強い先生ではあるが生徒の事をよく考えている先生でもある。

たぶん…

次の授業の準備をしながらそんな会話をしていた。





学校からの帰り道、私はある公園に来ていた。

幼い頃よく和人と遊んだ公園。

公園のベンチに座って子供たちが楽しそうに遊んでいるのをボーッと眺めていた。

私と和人もあんな風に遊んでいたのだと思うと何故か気分が沈んでくる。

何時でも側にいると勘違いしていた私。

例えどれだけ近くに居たとしても心は遠く離れていた事に気付かなかった。

「でも当たり前だよね…」

何度も私に話そうとしてくれた。

それを拒んでいたのは私だ。

そっか…拒絶されるのってこんなにも辛いんだね。

今更こんな当たり前なことに気付くなんて。

でもきっとまだ遅くない。

今度は私が和人と話をする番。

例え拒まれても何度でも和人と話をしよう。

不安な要素はある。

もし和人があのいつも一緒にいる女子を好きになっていたら…

そこまで考えて私は思い直す。

今は和人との関係を戻すことを考えなきゃ。

私はそう思い直し立ち上がって和人の家へ向かった。

だけど玄関のチャイムを鳴らしてもだれも出てこない。

私は和人に電話をするけど和人が電話に出ることはなかった。

私は諦めてメッセージだけを残す。

『もう一度ちゃんと話したい。メッセージでもなんでも良いから連絡して』

私は家へ帰ることにする。

家に帰るのは正直ダルい。

事あるごとに両親が口うるさいから今ではなに言われても無視して部屋からでないようにしている。

中学二年になって和人と完全に疎遠になってから和人と何かあったのかとかしつこく聞いてくるから余計に疎ましく感じていた。

それからご飯はいつもお母さんが部屋の前の棚の上に置いていってくれる。

初めの頃はいつも出てきて皆で食べようとか言っていたが今はノックと置いておくねの一言で済んでいる。

幾分かストレスは減ったがたまに虚しくなる。

私は何に腹を立てていたんだろう。

あんなに好きだった両親や和人に冷たく当たって虚しくなって。

結局自分が何をしたかったのかわからない。

そんな沈んだ思考で家についてドアを開けるとリビングからお母さんが来る。

「渚、ちょっと来なさい」

お母さんは真剣な顔で私を呼んだ。

私は気圧されながら黙って着いていった。

リビングのソファに対面で座り、お母さんは切り出した。

「和人くんから今週末の事は聞いているの?」

私はまた和人の話かと一瞬思ったが今週末の事という言葉に引っ掛かりを覚えた。

「今週末?」

私はなにも解らず聞き返す。

私の返答にお母さんは少し悲しそうに目を伏せて「そう」と呟いた。

そんなお母さんの様子に何故か私は嫌な予感をおぼえた。

「…ねぇ、今週末なにがあるの?和人に関係することなの?」

私は何故か焦ってお母さんに問い詰める。

「…二人が何となく仲が悪くなっていたのは察していたけどなにも言わなかった私にも責任はあるわよね…」

お母さんはそう言って私の目を見る。

「落ち着いて聞いてね、和人くんは今週末…」

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