9話 戻らないもの

渡辺からのメッセージを取り敢えず無視して風呂を上がった父さんに続いて入る。

屋上での一件以降俺から会いに行くことはしてない。

これまで渚に抱いていた感情はすっかり変わってしまっていた。

渡辺に思うことはもう無い。

だからこそ柊からの告白は嬉しかったし断るしかないことがとても残念だった。

そして今日の本当の話をした時の柊を思い出す。

恐らく明日からは前みたいな関係には戻れないだろう。

「…けれど、それも自業自得だな」

俺はそう呟いて風呂を出た。


部屋に戻ってスマホを見ると渡辺からさっきのメッセージに続けて二件のメッセージが届いていた。

俺はため息を吐きながらアプリを開いてメッセージを見る。

『今日はフッた女子と遊んでたみたいね。まだ未練のある人を弄ぶなんて性格悪いわ』


『なに無視してんの?あの時のことまだ気にしてるわけ?女々しい』


『なんか言いなさいよ』


俺はメッセージを見てバカらしくなると同時に、重く暗い感情が沸き出してくる。

「なんでこいつにここまで言われないといけないんだろうな。何も知らないくせに」

俺はそのままスマホを放り投げて寝ようとした。

しかし柊の事を思い出して柊に「ごめん」と一言メッセージを送った。

もう柊とは仲良く話すことも無いのかもしれない。

だけどそれは俺の自業自得で、してしまったことは無かったことに出来ない。

もう戻らない…何もかも。

俺は睡魔に身を任せて眠りについた。



~渡辺渚side~


メッセージを送っても既読にならないことに何故か焦りを覚えて間を置かず更にメッセージを送っていた。

いつもならすぐ既読になって返事を返してきてくれていた。

だが、ふと冷静になる。

和人だってお風呂入ったりご飯を食べてて気づかなかったりすることもあるはずだと。

送って数分で既読がつかないことに焦る自分がバカらしくなる。

そしてふと上へスクロールして前のメッセージを見る。

自分達はどんな会話をしていたのだろうと思ったのだ。

最後にメッセージがあったのは二週間前。

それまでは和人の方がずっとメッセージを送ってきてくれていた。

「話したいことがある」

「少しだけで良い、明日時間が欲しい」

そんなメッセージが来ているにも関わらず私は既読無視していた。

そして自分が凄く自分勝手に思えた。

自分は平気で既読無視していたのに和人が無視していると思うと焦って、怒って…

「和人と…話がしたい…」

そう思ってさっき送った自分のメッセージに既読がつくのを待っていた。

そして数十分後既読がつく。

心臓が早鐘を打って返信を待つ。


だけどどれだけ返信を待ってもが返ってくることはなかった。

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