第2話 幼馴染み

渡辺 渚。冷たい眼差しを向けていた女子の名前だった。

幼馴染み。

それが渡辺との関係であり、全てだった。

何時からだろう、彼女があんな視線を向けるようになったのは。

数年前までは学校の登下校は良く一緒にしていたし、お互いの家に行き来して遊んだりしていたほど仲が良かった。

幼いながらもこれからもずっと一緒だと思い、幼馴染みにありがちな将来の結婚の約束もして。

初恋だと、そしてお互いに好きなんだと思っていて…。

だがお互い成長するにつれ渚は俺と距離を置き始める。

教室では意図的に避けられ登下校も別々に行くようになり、中学に入ってからはクラスで仲の良い女子の友達同士で固まって、声をかけると「話しかけないで」と明確に拒絶されるようになり始めた。

なぜここまで拒絶されるのかわからず、お昼休みや人目の無い放課後等に声をかけても聞く耳を持たなかった。

そして2年になると別々のクラスになり、入れ替わる様に柊と同じクラスになった。

それでも渚の態度は変わらず、寧ろ当たりは強くなっていった。

そして数ヶ月して俺は父親からある話を受けショックを受けながらもせめて幼馴染みである渚に伝えたくて渚に会いに行こうとするも渚は取り合ってくれなかった。

そしてタイムリミットは近づいて最早数週間後に迫っていた。

もう人目をきにすることは出来ず、渚のクラスへ向かった。

そこでは渚が数人の友達と談笑していたが俺はいつもの様に声をかける。

「すまん、渚、少しいいか?」

渚は俺を見ると直ぐに睨み付けため息を吐く。

「みんな帰ろ?」

周りは動揺しながらも立ち上がった渚に続こうとするが俺は渚の手を咄嗟に掴む。

「…頼む、少しでいいから。」

そのときの俺は必死だったからただ渚の目を見て頼み込む。

渚も驚いていたが手を振り払って「屋上で良いでしょ?」そう言って周りに少しまっててと伝え出ていった。

俺もそれに続いて教室を出ていく。

その時に渚の友達が何か言っていたようだが俺は耳に入ってなかった。

そして屋上に着くとそこでは渚が腕を組んで此方を睨み付けていた。

「なぎ‥「あのさぁ、いい加減にしてくんない?」っ!」

俺は話を始めようとすると渚は強い口調で遮った。

「ウザいんだよね、幼馴染みだからって付きまとわれるの。」

いつもより強い拒絶だった。

俺は頭の中が真っ白になる。

「私たちはもう子どもじゃないんだからさ、わかるでしょ?友達との付き合いもあるからアンタに構ってられないの!邪魔なの!」

「…」

声を荒げる渚を見て体の底から冷えていくのがわかった。

そして今の幼馴染みを目に焼き付けた。

記憶にあった無邪気に笑いあっていた幼い顔と今の少し大人びた幼馴染みの顔が重なりそうで重ならなかった。

そして気付く。もう俺の好きな幼馴染みはいないのだと。

「…そうか」

俺はなんとかそれだけ呟いて俯むく。

強く歯を噛み締めて。

「それじゃ」

そう言って幼馴染みは出ていった。

心の中で何かが割れる音がした。

不思議と涙は出なかった。

ただ冷えきっていた心に何かが込み上げていた。

これはただ俺が幼馴染みを追いかけて勝手に失恋した身勝手な気持ちだ。

それで幼馴染みを恨む気持ちは間違っている。

でも‥それでも。

「どうせ会えなくなるんだ…良かったな渡辺。もう顔も見なくて済むんだから。」

そう呟く俺の声はやはりドス黒いなにかを纏っている気がした。

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