熱が冷めたら残るのは醜い何か
暁真夜
第1話 冷たい眼差し
「水瀬(みなせ)君のことが好きです!私と付き合ってください!!」
放課後、屋上に呼び出された自分に待っていたのは顔を赤くしながら気持ちを告げる女子だった。
「…ありがとう、勇気を出してくれて。でもごめん、柊の思いには応えられない。」
彼女が真剣に思いを告げてくれたからこそ自分も真剣に応えるしかなかった。
「…そっか、そっ…か」
彼女は一度微笑みを浮かべようとして顔を歪めた。
その目には涙が溢れていた。
彼女はクラスメイトの柊美鈴(ひいらぎみすず)だった。
柊は顔を俯けて啜り泣いていた。
そんな彼女を俺はただ見守ることしか出来なかった。
「ごめんね、水瀬くん。」
「…謝ることじゃないよ。俺ももう謝らないから。悲しい思い出にしたくないから。寧ろ俺のことを好きになってくれてありがとう。」
俺は柊に感謝を伝える。
柊にはきっと素敵な人が現れるから…その人が現れた時に尻込みして欲しくないから。
「…うん!私もありがとう、受け止めてくれて。これからも友達でいてくれるかな?」
顔を上げた柊の顔に涙の後はあっても涙は無かった。
「もちろん、これからも宜しく。」
「うん!宜しくね。」
1つの恋が終わった。
でも柊ならまた素敵な出会いを見つけられるだろう。
そして俺はそんな彼女を見て後悔するのだろうか?
それほどまでに彼女は魅力的だったから。
でも…もう会うことは無くなるのかもしれない。
「ねぇ、1つだけ聞いて良い?」
俺が柊の笑顔に少し見惚れていると柊が遠慮がちに聞いてくる。
「なに?」
「水瀬くんが告白を断っているのってやっぱり渡辺さんが好きだから?」
渡辺渚(わたなべなぎさ)幼馴染みの名前だった。
「違うよ、渡辺はただの幼馴染みだから。」
俺はほほえみを浮かべて否定する。
「…じゃあ他に好きな人がいるから?」
「それも違うかな…いやある意味当たってるのか…何て言えば良いのか。」
完全に否定出来ずに困ってしまう。
「でも一番の理由はそんなことじゃない。あと数週間したら教えるよ。」
「そっか、わかった。ごめんね、色々聞いちゃって。」
「いいよ。気にしないで。」
そうして彼女とまた明日とお互いにわかれて俺は少し屋上で校庭を見ていた。
「…勿体ないことしたな。」
思った以上に柊の告白を断るのは精神的に応えていたようだ。
何度かここで告白されたことがあるが、殆どは交流の無い女子で真剣に向き合ってはいたが柊程心が重くなることはなかった。
柊は下手に仲が良かっただけに恋愛対象として見てなくても少し辛かった。
「柊となら付き合っても…て思ったんだけどな…」
変な思考に流れそうになった頭を振って屋上を後にする。
階段を降りているとこちらを見上げている人がいた。
「モテモテね、彼女泣いてたみたいだけどまたフッたんだ。」
微笑みを浮かべながらも目は冷たかった。
俺は無視して彼女の横を通りすぎる。
「っ!ちょっと!何か言ったら!?」
肩を捕まれるも大きく振り払う。
「俺に触んな。お前には関係ないだろ。」
ただそれだけを告げてそのまま帰路についた。
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