第33話 みんなの恋の応援隊
ガレリア王国は冬真っ盛り。この時期に外に出かけて行くのは、よほど切羽詰まった者しかいないだろう。
そのため、ここ、ガレリア王国の王城を訪れる者も、ピーク時に比べるとかなり少なくなっていた。
そう、この時期は、王族にとってはようやく訪れた安らぎのひとときなのである。
たとえ外が猛吹雪で荒れていようとも。
「猛吹雪イベントとかないよね?」
「ありませんわ。冬休み、夏休みはサッと元からなかったかのように飛ばされますわ」
それをモニカから聞いた俺は、安堵のため息をついた。
「実際はその期間にも物語は起こっているんだけどね。でも、その方が気が楽で助かるよ」
俺の言葉にモニカも賛同したのか、首を縦に振った。
「モニカお義姉様~!」
声がした方に、二人でクルリと振り向いた。
「もう、サクヤったら。レディーがそのように走ってはいけませんよ」
ごめんなさい、と言いつつも、サクヤはモニカに抱きついた。本当に仲良し姉妹だな。
ミーアが見たら発狂しそうだ。それを考えると、今から頭が痛い。
「こら、サクヤ。いきなり走り出したら危ないだろう? 申し訳ありません、モニカ嬢」
サクヤを追ってやってきたカイエンがたしなめていたが、その目は優しかった。
あの後、無事にカタルーニャ公爵の養子になったサクヤは、一流のレディーとなるために、毎日モニカから厳しいマナー講習を受けている、ということである。
俺の見立てによると、何とか高等部卒業までにはそれなりの形になるんじゃないかなぁと思っている。
何せ、見ての通りモニカが甘々なのだ。昔から妹が欲しかったのは分かるが、サクヤも同じ一五歳。絞めるところはビシッと絞めてもらいたいものだ。
ちなみにモニカには弟がいるので、カタルーニャ公爵はモニカが俺に嫁いでも無問題である。
「カイエン、監視がいないからと言って、一線は越えるなよ」
「ば、バカヤロウ! そんなことするか。その言葉、そっくりそのままレオにのしをつけて返すぞ」
「いやー、それが監視の目がきつくってさ」
俺はチラリと後ろに控えているピーちゃんとサラを見た。
「いや、本当に実行に移そうとするなよな」
カイエンが呆れていた。
春になり、新学期が始まった。
今年からはカイエンとサクヤも同じクラスに加わることになる。
カイエンは早速目をつけられたようで、多くのご令嬢達に囲まれていた。
しかし、すぐにサクヤという婚約者がいることが判明し、それもすぐに収まった。
今やサクヤはカタルーニャ公爵令嬢なのだ。文句を言ってくるものは誰一人としていなかった。
そうとも知らずに、サクヤはカイエンの腕に抱きついてご満悦である。
何だろう。なんだか嫉妬の炎が燃え上がりそうである。
「レオ様、何を羨ましそうに見ているのですか」
そう言ってモニカが腕に抱きついてきた。うん、やっぱり最高だな、俺の嫁!
「あらぁ~、ラブラブなカップルさんがまた増えちゃったみたいね」
その声に振り返った先には、ヒロインの一人であるシャーロット嬢がいた。その隣には頬を膨らませたミーア嬢。
どうやらボッチ属性から解放されたミーア嬢は、知らぬ間に友達を増やしていたようである。
「あら、ごめんなさいね。聞こえちゃったかしら?」
何だろう、このオネエさんを彷彿とさせる感じは。俺の気のせいか?
「モニカ様、サクヤ様と随分と仲がよろしいようですが、冬休みの間に一体何があったのですか?」
俺よりもさらに嫉妬の炎を燃え上がらせたミーアがモニカに詰め寄った。その勢いにモニカの体が後ろにのけ反った。
慌ててその背中を支えると、その形で安定したのか、俺の腕が支えた格好のままことの次第をミーアに話し始めた。
「……ということなのよ。ミーアもサクヤと仲良くしてあげてね」
「ズビッ! そういうことでしたのね。モニカお姉様は本当にお優しい方ですわ」
鼻水をすすりながらもしれっとお姉様呼びしているところを見ると、転んでもただでは起きないタイプのようだ。
「あらあら、男女のカップルも良いけど、女の子同士のカップルもいいわね~」
頬に手を当ててキャッキャッと言っているシャーロット嬢。そろそろこちらにも説明が欲しいところだ。
見ろ、カイエンを。女の子同士のカップルと聞いて、開いた口が塞がらなくなってるぞ。
百合は大変素晴らしいと思うが、全員に通用するとは限らないことを覚えておいてもらいたい。
「ところでミーア、こちらの方は?」
ようやく周りを見る余裕ができたモニカは、シャーロット嬢に気がついたようだ。
「紹介致しますわ。こちらはシャーロットさん。私のお友達ですわ。恋の相談をすると、ピッタリな答えを導き出してくれる凄い方なんですよ!」
ミーアの紹介を受け、いやいやそれほどでも、と照れるシャーロット嬢。
ふむ、恋の相談が得意なのか。色々と確認しなければならないことはあるが、今のところは無害なような気がするな。
不審そうな目をしている俺達に気がついたのだろう。シャーロット嬢は言った。
「警戒しなくても大丈夫よ。ワタシはみんなの恋を応援するのが一番の楽しみだから、誰の邪魔をするつもりもないわ」
そう言ってシャーロット嬢はこちらに向かってウインクをした。
その時感じた背筋への悪寒は、生涯忘れることはないだろう。
隣のカイエンも青い顔をしていた。無害なようだが、ある意味で恐ろしい相手のようである。
俺達がお互いに紹介し終わったころ、向こうからアルフレッドとギルバードがやって来た。
にこやかな顔をしているが、二人の顔にはどこか陰りが見える。
「相変わらず殿下の周りはにぎやかですね」
「二人そろってどうしたんだい? なんだか浮かない顔をしているみたいだけど」
ハハハ、と二人は乾いた声を漏らした。
「殿下には何もかもお見通しのようですね」
いや、そんなことはないと思うんだけどね。チラリと横目で見たモニカもカイエンも首を傾げていた。
「実は……」
ギルバードが話しにくそうにやや間をあけて話し始めた。
「私が鍛えていた後輩が今年から王立学園の一年生に入学したのですよ」
ああ、ロランくんの件だな、これは。チラリと横目で見たモニカと目が合った。
「優秀な人物みたいだね。入学おめでとう。それで、その後輩がどうしたのかな?」
「はい。実は、どうも誰かに後ろからつけられている感じがするそうでして……」
ギルバードは押し黙った。普通なら男なんだから自分で何とかしろ、と言われておしまいの問題だ。情けない相談をしてしまい、申し訳なく思っているのかも知れない。
「なるほどね。それじゃ、まずはその人物を紹介してもらえるかな?」
ホッとした表情を見せたギルバードは、すぐそこまで連れて来てますから、と言ってその子を呼びに行った。
「あの、その子もゲームと関係が?」
ボソボソとミーアが聞いてきた。二人でコソコソと話すのは妙な噂が立ちかねないと思い、頷きを一つだけ返しておいた。
そしてすぐに、その子が連れて来られた。
「ギルバード、一応確認のため聞いておくけど、男の子だよね?」
「そうです。女の子ではありません。……よく間違えられますが」
そこにはどう見ても女の子にしか見えない男の子がいた。名前はロラン。どうやら、ゲームの中ではショタ枠のようである。
可哀想にロランくんはガチガチに緊張していて、とても喋れる感じではなかった。そのため、状況の説明はほとんどギルバードとアルフレッドがおこなった。
「ギルバードとロランが一緒にいると、そういう関係のように見えるね」
「殿下、勘弁してく……」
「いいじゃない! 素敵よ、アナタ達の関係。とってもイイわ!」
興奮したシャーロット嬢が抑えきれないとばかりに口を挟んできた。それを聞いたギルバードは苦笑いをし、ロランは顔を赤らめた。
なるほど、ロランがこれだけ可愛いとなると、ストーカー行為をする者が出てきそうである。
ギルバードが鍛えているから、それなりに強いと思うのだが、見た目がこれだから侮られるのだろう。容姿ばかりは、さすがの俺でも、もうどうしようもない。
「殿下、どうにかなりませんかね?」
友の窮地にアルフレッドも困り顔である。
ギルバードにロランを護衛させて変な噂でも立てば、ギルバードの人生に大きな影を落としかねない。男色騎士として。
「しばらくはロランを囮にして、不審な行動を取る人達を地道に捕まえるしかないね」
時間はかかるが、今のところはそれしか方法が浮かばなかった。
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