第16話 ダンジョン①
あれからすぐにキリエの森の調査は行われ、方々に散った騎士達からは次々と報告があがっているものの、未だに有力な手がかりはなかった。
そうしている間に、俺達がキリエの森の調査に行く日がやってきた。
一番いい装備を身につけた俺は、剣と攻撃魔法と治癒魔法が使え、さらにはパーティーのリーダーという、まるでライトノベルのチート主人公のような役割を担っていた。
一方のモニカは、最高級の魔道士専用のローブをまとう、癒やし担当だ。
モニカの隣に立つサラはザ・バトルメイドと言った出で立ちをしており、近寄りがたいオーラを発している。
さっきサラの太股にナイフが隠してあるのかを確認していたら、モニカに殴られた。
グーで。
「レオンハルト殿下、モニカ公爵令嬢、お待たせいたしました」
声がした方向を見ると、三人の青年がこちらに向かって来ていた。
一人は、最高級の皮で作られた軽装の皮鎧に、マントを羽織った眼鏡をかけた美男子の
アルフレッド。彼の父親は現宰相であり、その手腕は国王陛下も随分と当てにしており、頼れる右腕だといつも言っていた。
二人目は、上等な金属製の鎧に身を固め、背中に盾、腰には剣をぶら下げた美男子、ギルバード。国内最強と言われている騎士団の団長が彼の父親だ。
そして最後は、黒いローブで顔が良く見えないが、魔道士団団長の息子であるブルックリンである。
「アルフレッド様にギルバード様、それにブルックリン様ですわね! 私はモニカ・カタルーニャですわ。モニカと呼んで下さいませ。本日はよろしくお願いいたしますわ」
モニカがお手本のような美しい貴族の礼をとった。それは、とても野暮ったい魔道士のローブを着ているとは思えないほど、優雅なものだった。
そのあまりの美しさに魂を奪われたであろう三人は、ハッとして慌てて返事した。
「お初にお目にかかります、モニカ様。こちらこそ、よろしくお願いいたします。私のことはアルと呼んで下さい」
「初めてお目にかかります、モニカ公爵令嬢。お噂通り、お美しい。私のことはギルと呼んで下さい」
「見習い魔道士のブルックリンです。ブルックと呼んで下さい。まさかモニカ様に名前を覚えてもらっているとは思いませんでした。よろしくお願いします」
三人は伝説の聖女モニカに直接会って、とても感激している様子。片膝をつき、頭を垂れていた。
「三人とも顔をあげて下さいませ。私達は同じ冒険者パーティーのメンバーなのですから、そのようなことは不要ですわ」
モニカが慌てて三人を立たせた。モニカのその権威を笠に着ることのない様子に、三人は感動で打ちひしがれていた。
ん? もしかして、三人は初めてモニカに会ったのかな? じゃあ何でモニカは三人の名前を知って……そうか! 三人はゲームの登場キャラクターなのか。だから名前をあらかじめ知っていたんだな。
三人ともかなりのイケメンな上に、身分も高い。ゲームの攻略対象としては申し分無いな。
確か攻略対象は俺を含めて六人のはず。
残りの二人の攻略対象が誰なのか分からないのはネックだが、四人分かっただけでもありがたい。
攻略対象がモニカと険悪な関係になれば、モニカに破滅の芽が出てきてしまう。
逆に言えば、そいつらを味方につけることができれば、将来安泰と言うことだ。
モニカのこれまでの言動からすると、ヒロインはゲームの舞台である王立学園に通うまでは表に出てこない。
それならば、今のこの期間はかなり重要な役割を持つことになる。
後でヒロインに逆転されないように、しっかりとモニカの優しさと美しさと可愛さと愛しさと優雅さと強さと、その他色々を三人に教え込まないといけないな。
「三人とも、今から俺のことはレオと呼ぶように。何かあったときに、敬称呼びする暇がないかも知れないからな」
「そうですわね。私達は冒険者パーティーですもの。家族同然、遠慮はいりませんわ」
俺とモニカの言い分に渋い顔をした三人だが、渋々ながら頷いてくれた。
「分かりました。このキリエの森を調査している間だけですよ。殿下」
「そういうことなら仕方ないな。レオ様、よろしく頼みますよ」
「レオ様、どんな冒険が待っているのか、楽しみですね」
「全くギルは。あなたのその変わり用には敬意を表しますよ。それにブルック、私達は遊びに行くのではないのですよ。そこはしっかりとわきまえておきなさい」
「ほんと、アルは頭が固いな。そんなんじゃ、将来禿げるぞ」
「何でそこで髪の毛の話が出てくるのですか!」
三人は同じ年齢ということもあって、昔から付き合いがあるようだ。三人のやり取りを見ていても、仲が良いことが分かる。ちょっと羨ましいな。
ひとまずはこれでヨシ。お互いを愛称呼びにしたことで、グッと連帯感が出てきたはずだ。後は共に行動する機会を増やしていけば、同じ仲間として認めてくれるだろう。
「それじゃ、出発するとしよう。俺達の冒険はこれからだ!」
「レオ様、そのセリフ、何だか調査が打ち切りになりそうですわ!」
用意された馬車に乗り込むと、俺達はあらかじめ騎士団によって決められていた場所へとたどり着いた。
それはそうだ。仮にも王子を未開の地に送り込むわけはないよな。
降りた場所の目の前にはキリエの森の木々が鬱蒼と生い茂っている。
しかしそこは、広大な森の外縁部であった。
「馬車はこの場所で待機しておりますので、夕暮れまでにはここへ戻って来ますようにお願いします」
「分かったよ。任せておいてくれ」
この約束を破ると、俺達の冒険は今後二度とないだろう。
そうなると絶対にモニカが悲しむので、それだけは避けなければならない。
サラに目配せすると、一つ頷きを返した。了解した、とのことである。
「そうだ、みんなに紹介しておかないとね。ピーちゃん!」
【お呼びでしょうか? 我が主】
「紹介するよ。俺の守護霊獣のピーちゃんだ。みんな仲良くしてやってくれ」
「で、殿下、それってもしや……」
「もしかして、伝説のフェニックスですか!?」
驚きの声をあげるアルとギル。ブルックは早くも片膝をついて崇めている。その目には、感激のあまりか、涙が浮かんでいた。
「ほら、レオ様が規格外の霊獣を見せるから二人が固まっているじゃないですか。少しはご自身が規格外であることをご自覚下さいませ」
モニカがほら見たことか、と言わんばかりの顔で言った。
自分のことは棚にあげておいてそんなことを言われるとは、実に心外である。
「それじゃ、行こうか。サラ、先頭は任せたよ」
「お任せ下さい」
「おいおい、大丈夫なのか?」
「ギル様、心配はいりませんわ。サラはあらゆる場所を網羅した地図を、頭の中に持っておりますのよ。そのお陰で、私もお城で迷うことがなくなりましたわ」
モニカがニッコリとサラの素晴らしい能力を誉め称えた。
文字通りの意味なのだが、そうとは思わないアルは、本当に大丈夫なのかと顔を引きつらせていた。
「そ、そうなんですね……」
アルよ、君はすぐにその性能を知ることになるよ。
サラを先頭にキリエの森へと入って行った。
その途端、頬を冷たい風が吹き抜けた。森の中は魔物の気配こそないものの、頭の上を覆い被さるかのように伸びた木々によって、日の光は足元まで届かない。
周囲の鳥がギャァギャァと鳴く声を聞きながら、俺達は足を森の奥へと進めた。
前衛は俺とギルとサラ。間にモニカとピーちゃん、後ろにアルとブルックという布陣だ。俺とモニカ、ブルックが警戒の魔法を使っているので、魔物に不意討ちされる恐れはほぼないだろう。
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