第15話 トラブルに飛び込むタイプ

 王族として公務に出席するようになってから、それなりの月日が流れていた。

 この頃になると、俺もモニカも国の看板を背負って出かけることに慣れて来ており、以前ほどの緊張感はなくなっていた。

 そして良い意味で余裕が出てきて暇になっていた。

 人間暇になると碌なことを考えないと言うが、それはどうやら異世界でも変わらないようだ。


「モニカ、森では魔物の氾濫イベントがあるはずだったのですよね? もしかして、他にも大きな被害が出る可能性のあるイベントがあったりするのですか?」

「突然何を言い出すのかと思ったら……。えっと、確か何もなかったはずですわ。学園の在籍中に起こるイベントの中で、王国が危機的な状況になるのは、キリエの森で発生する魔物の氾濫イベントだけですわ。他に起こった学園のイベントは……」


 そこで言葉を切ったモニカ。

 俺はモニカが学園で起こるイベントをポロリと言うのではないかと期待して、先を促した。


「他に起こった学園のイベントは?」

「えっと、確か……って、言いませんわよ!? 何ナチュラルにイベント情報を聞こうとなさっているのですか!」

「残念」


 これ以上無理に聞こうとすると、モニカがへそを曲げてしまう恐れがあるので、ここまでにしておこう。

 国民に被害が出るような出来事が、しばらくは起こらないことが分かっただけでも御の字だ。


「しかし気になりますね。どうしてキリエの森に魔力溜まりができるのでしょうか。このままでは、また数年後には同じようなことが起こる可能性があるわけですよね?」


 俺はモニカに質問を向けた。確かにそうだとモニカも思ったようである。


「サラ、あなたはそのことについてどう思いますか?」

「このままですと、恐らく約三十年後に、再び魔物の氾濫が起きるものと思われます」


 サラがさらりと爆弾発言をした。三十年後とは、それほど先の未来の話ではないのだ。

 ギョッとした俺とモニカは、二人してサラに詰め寄った。


「どういうことなんだい? 詳しく説明してもらえるかな?」

「サラ、詳しく説明して下さいませ。今は大丈夫でも、将来、私達の子供がそれに立ち向かわなければならないことになるのでしょう? たとえ三十年後の魔物の氾濫を解決しても、またその先も同じことが起こりうるのですわよね?」


 おおお! モニカが俺との間に子供を作ることを前提に話をしている! 俺は今、猛烈に感動している。ヨッシャー! って叫びたい。キミが好きだと叫びたい。

 母親として、子供のことが気になるのだろう。俺も父親として、子供のことがとっても気になるよ、モニカ。


「原因を突き止めないことには、数年ごとに魔物の氾濫が起きると思われます。ですがその根本的な原因については不明です」

「不明? じゃあ、どうすれば分かるようになるのかな?」

「実際に森に行って、調査するしかありません」


 なるほど、現地調査の必要あり、か。確かにここからだとキリエの森まではそれなりの距離がある。原因が分からなくても仕方がないか。


「それでは、実際にキリエの森の調査に行くことにしましょうか。もちろん、騎士団にも調査に行ってもらいますが、魔力を感知することができるピーちゃんと、GMのサラが一緒にいる私達なら、視覚だけでなく、もっと別の視点から調査することができそうですからね」


 キリエの森は広い。闇雲に探していては、原因究明までにどれだけ時間が掛かるか分からない。

 原因究明の確率を上げるためにも、二人の協力は必要不可欠であった。


「モニカはどうしますか? 一緒に行きますか? それとも、お留守番しておきます……」

「行きますわ!」


 俺が言葉を言い切る前に、モニカが即答した。

 本来、王族の言葉を遮ることはご法度であり、そのことはモニカも重々承知のはずなのだが……。


「まさか、まさか冒険に行くことができるだなんて、思っても見ませんでしたわ! 公爵令嬢であることに気がついてからは、冒険者になるなど無理だと思っておりましたのに、まさかこんなチャンスが転がりこんで来るだなんて! ぜひ、ぜひとも行かせて下さい!」


 あまりのモニカの食い付きっぷりに、思わず腰が引けた。


「わ、分かりました。それではその方向で話を進めておきますね」

「ヨッシャー!!」


 モニカは俺が言うのをためらったセリフを、何の躊躇もなく叫んだ。よほど嬉しかったのだろう。でもね、モニカ。それ、ご令嬢が言ったらいかんやつだからね?

 この部屋が機密性の高い部屋で良かった。本当に良かった。

 その後、国王陛下と王妃殿下に事の次第を話し、無事に了承を得ることができた。

 ただし、二人だけては不安なので、後でお供をこちらで用意するとのことだった。

 もちろん俺は食い下がった。

 俺とピーちゃんとサラがいれば、絶対に後れはとらない、何なら国一つ滅ぼすことができますよ、と。

 だが、二人とも首を縦に振ることはなかった。


「あなた達が強いことは十分に分かっているわ。でもね、守護霊獣を別世界に帰らせている間にレオンハルトがモニカさんに襲い掛かったら、一体誰がそれを止めるのかしら? たとえ止めることができなくても、それを報告する人があなた達のパーティーには必要よ」

「その通りだぞ、レオンハルト。モニカ嬢と正式に婚姻を結ぶまでは、傷物にしてはならん。絶対にだ」


 大きくため息をついた二人を見て、いかに自分が信頼されていないかを改めて痛感した。

 俺はそこまで野獣じゃない。ヤるならちゃんとモニカに確認を取るくらいの理性は残っているはずだ。

 合意の上ならオッケーだよね?

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