「Killing Body」
〇本文URL
https://ncode.syosetu.com/n0353gl/2/
〇読みながら感想
あらすじがなかった作品なので完全初見ですね。
では、参ります。
物語はニューヨーク市内のとある遺体安置所に持ち込まれた女の遺体を解剖するシーンから始まります。
ベテランのアンソニー、若手のニコラスの二人が担当するようです。
>若い検死官――ニコラスは死の匂いが充満する場所に似つかわしくない、明るい調子で言った。彼はこの部屋ではいつも上機嫌になる。助手とはいえ解剖に立ち会えることに、全身の血液がシャンパンになったような軽やかな興奮を覚えていた。
ほっほう、面白い比喩ですね。
解剖に立ち会えるだけで興奮してるところがまだ若手って感じがして良いです。
> アントニーがゆっくりと死体袋のファスナーを下ろすと、美しい女性の遺体が現れた。赤みがかった豊かな金髪、白い肌、閉じられた瞼を縁取る長い睫毛。うたた寝をしているように安らかな様子で、声を掛ければ目を覚ましそうな気さえした。
>ニコラスも、勿論アントニーも、造形の美醜を話題にしているわけではない。彼らが注目しているのはその状態だ。彼女にはかすり傷ひとつなく、また死後に現れるはずの様々な変化が起きていないように見えた。死んで間もないのであればあり得ない話ではないが、警察によれば彼女が死んだのは十時間以上前とのことだった。三十年以上も検死官をやっているアントニーは、前にも同じような遺体に出会い、謎を解き明かせないまま終わったことを思い出して顔をしかめた。
物語のきっかけとなる遺体が普通なわけがないですから、こうして具体的なイメージを湧かせる描写があるのは助かります。
エロ小説書きとしては、人物の外見描写は真っ先に気になるところなので。
読み進んでいくと、解剖の描写が実に丁寧ですね。
横書きだともう少し改行で分けてもいいかなとは思いますが、難しい表現がないのでするする読めました。
>「なあ、あの遺体はやっぱり普通じゃないよ。彼女はキリングボディに殺されたんじゃないかな?」
「キリングボディ? なんだそれは」
物語の転調はここでしょうか。
結局解剖しても死因は特定できず、途方に暮れていた時、若手のニコラスが突如として言い出したのは、巷で噂の超能力者「キリングボディ」の仕業だということでした。なんでも遺体の状況が噂そっくりだとか。
前触れがなかったのでやや突飛に見えました。
>キリングボディ。魔法のように人を殺す超能力者。心の何処かではそんな存在がいるはずがないと思いながらも、疲れて頭が回らないせいか、アントニーはその都市伝説を少し信じ始めていた。
今後の不穏さを匂わせて第一話終了です。
〇気になる点
蓋を開けてみると、まさかの「解剖学」×「オカルト」でした。
そして読んでて妙に波長が合うなぁと感じていたのですが、もしや作者様は海外ドラマファンなのでしょうか?
死体に焦点を当てたドラマでぱっと思いつくのが、「ボディ・オブ・プルーフ/死体の証言」「BONES―骨は語る―」などですね。
日本でも最近「アンナチュラル」がありましたが。
男二人の年の差バディで、死因から事件を紐解くというコンセプトは悪くないと思います。
ちょっと気になるのが、「オカルト」がどの程度出しゃばってくるのかですね。
個人的には「解剖学」を主軸として、「複雑怪奇で超常現象にすら見える殺人のヒストリーを、解剖学の知識と論理で暴いていく」という展開だと、読んでてすごく気持ちよくなれると思います。
逆にオカルトがマジの超能力だと、ジャンル同士の衝突で主軸がぼやける気がしますね。
また、冒頭にキリングボディの殺人シーンをもっていくやり方もあったと思います。海外ドラマの入りあるあるですね。
これだとニコラスが話題に挙げた際の唐突感は薄れるかなと。
ただし4000字の中で解剖シーンをしっかり描写したいという意図がビンビンに伝わってきたので、キリングボディの殺人場面が入ると字数的にきつい!というのも分かります。
〇総評
お調子者なニコラスとハードボイルドなアンソニーのコンビというキャラクター性、丁寧な解剖描写と個人的に好みな要素が多くありました。
一方で、ラストの引きの弱さがWeb媒体では不利に働くかなとも思います。
静かに続くのも好きなんですけどね。
ありがとうございました。
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