「妖怪屋敷の箱入り娘」
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〇読みながら感想
非常に「迷い家」な文脈を感じるあらすじですね。
さっそく読んでいきましょう。
物語は主人公が屋敷に迷い込んだところから始まります。
>七月下旬の炎天下。午後五時という夕方に差し掛かる時間にその屋敷は――燃えるような紅葉に囲まれていた。
俺の肌を撫でる熱気は本物だ。頭上から突き刺さる日差しも現実だ。現代に似合わない、立派な和風の屋敷も確かに存在している。山火事かと錯覚してしまうほどに鮮やかな紅葉も、見間違いじゃない。
俺はただ一人。階段をのぼりきり、滝のように溢れてくる汗を拭いながら、その光景に見惚れていた。
それはまさに異世界のようで。
その絵画のような世界の中心、屋敷の縁側。
ほほう、これは書きなれた人の情景描写ですね。お祭り常連の方でしょうか。
マヨイガが何か分かってる人なら「夏で紅葉」もすんなり受け入れられますが、念のため「季節外れの」という一文があった方が分かりやすいかなとは思います。
屋敷に住む少女に招かれ、接客される主人公。
どうやら彼は肝試しにやってきたようです。
>「ううん、鈍感よ。だってほら――後ろ」
「――ッッ!?!?」
跳ねるようにして振り向く――が、紅葉が舞っているだけだ。
「何もないじゃないか!!」
「あははははは!!!」
彼女は楽しそうにカラカラ笑う。
このように、ヒロインの少女が活き活きとして可愛らしいです。
キャラ文芸好きに刺さる見せ方ですね。
後半に移るにつれて、お話は思わぬ方向に転がっていきます。
どうやらこの妖怪屋敷には、少女とは別にヌシがいるようなのです。
あらすじにもある通り、このヌシに囚われているせいで、少女は屋敷から出られない模様。
そして事態は思ったよりも深刻です。
>彼女を眺めて、ふと気づく。
――指がない?
楽しそうにスマホをいじるその細い指。やっぱり見直して見ても何本かそこにあるはずの指がなかった。具体的には右手の小指と薬指、左手の薬指。
生まれつき障害があったのか、それとも何か事故でもあったのか。事故でなくなったにしては変ななくなり方だけど。
そんなことを楽しそうにしている彼女を眺めながら考える。
という前置きをしてからの、
>「私の――好きな部分あげるから」
ですよ。
この転調は先に布石を打たれていたので、違和感なく頭へと入り、ぞっとすることができました。やはり作者は手慣れてますね、読者がつまずくことなく物語に入れ込めるのを意識してます。
>不自然に数本の指がかけた、不完全な手。それが何を示すのか、その一端が頭によぎる。
「……やめる?」
困ったような顔をして、彼女はそう問いかけてきた。
無意識に頷こうとして、思いとどまる。
俺は何しにきた? ビビリとか馬鹿にしてきたやつを見返すためだろ。なら――いるかどうかもわからない何かにびびるわけにはいかない。
「まさか」
「! そう。楽しみにしてるわね!」
そう笑う彼女は、ごくごく普通の少女のようだった。
姿の見えないヌシのプレッシャーに押し負けそうになった主人公ですが、ヒロインを見て再び気合を入れ直します。
もちろん、先のヴィジョンなんてない空元気ですが、主人公の見せ方として良いと思います。
〇気になる点
最初の文章の雰囲気でライト文芸を期待した方は、恐らく回れ右をするでしょう。
逆にこの緩急のある薄暗いテイストを気に入った方は抱き込める、といったことでしょうか。
基本キャラで押していくスタイルなのでしょうが、偶に主人公が思いつきと勢いだけで行動しているのかなと感じるシーンが散見され、ちょっと不安ですね。
そしてこの先の流れがどちらかというとバッドエンド寄りなところも読者を選びそうです。
まぁ、僕は死ぬ結末でも救いがあればハッピーエンドだと解釈しますけど^^
〇総評
届けたい読者層をきっちり見据えた構成が光りますね。
恐らく大衆向けでなくとも味のある作品に仕上がる期待が持てます。
ありがとうございました。
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