「団地の花子さんと死にたい死神くんの人生実況解説動画」

〇本文URL

https://ncode.syosetu.com/n0181gl/24/


〇読みながら感想


 あらすじを拝読すると、コメディ調でありながらブラックな予感。

 ターゲット相手を具体的に書いているのは手慣れている印象を受けますね。

 では、本編に入っていこうと思います。

 


>私の地元は自殺の名所だ。


 東京外れの団地街。低くても十一階。高いと十七階まである高層団地から飛び降りた人は数知れず。あまりに自殺者が多いので、私が子供の頃に屋上は封鎖された。が、根性ある自殺志願者は、高層階のお宅にピンポン。開けてもらった瞬間にベランダまで猛ダッシュ。そしてそのままアイ・キャン・フライ。そのはた迷惑さと執念は、一周回って称賛ものだ。



 

 「自殺」という重いワードからスタート。

 その後の文章のポップさで、やはりコメディだということが分かりますね。

 恐らく女性作者さんでしょうか。文章の色からそんな気配がします。



 >そんな冬のある日、二十二歳派遣社員女性が死のうとしています。

  名前は御手洗花子。自殺動機は、社会人になっても『トイレの花子さん』と虐められたため。

  


 ここを始め、全体としてアップテンポな調子で地の文が進んでいくので、なんだか乗せられて読んでしまいますね。

 僕は結構波長が合うので気持ちよく読めます。

 


>私、頑張ったよ。よく頑張った。こんな名前でよく頑張ったよ。だからもうラクになっていいよね? そうだよね――それなのにどうしてフェンスの向こうで今にも飛び降りそうになっている先客がいるんだあああああああああああああ⁉



 ここ、主人公が飛び降りる前にまさかの自殺希望者がもう一人いた!?という展開なのですが、さらさらっと流し読みするタイプの人は目が滑る可能性があるので、横書きでは少し改行を挟んだ方がよろしいかと。



 そしてなるほど、飛び降りの先客だと思っていた白シャツのイケメンは、あらすじにも出ていた死神くんだったわけですね。

 そのまま屋上の真ん中で、二人の会話がしばし続いていきます。

 

 僕は男性向けのR-18が主戦場なのですが、そういった小説は「いかにウリのヒロインを読者に想像させることができるか」が一つの焦点になっています。

「これからこんなヒロインにあんなことやこんなことをしてもらうんだ」という期待を煽るためですね。

 そういう観点から見ると、女性向けであっても根本は同じなのかなと思いました。ギャップの有るイケメン死神くんのキャラクター性でガンガン押してますね~。



>「それが死ねなくて。生者っていいですよね、すぐ死ねて。僕も今まで十三回くらい死のうとしてきたんですけど、もうぜんっぜんダメ。刃物はすり抜けるわ、毒は効かないわ、落ちようとしても空飛べちゃうわ……自殺の名所に来たら変わるかなぁ~なんて思ったんですけど、やっぱり難しそうですね。でもこのままじゃ動画再生回数も伸びないし……僕、どうしたらいいのでしょう?」



 どういう訳か、死神のくせに死にたがるイケメン君。

 ここ、動機が別に重いものがあるのか、単に再生数を稼ぎたいだけかで物語の色が変わってしまうので結構重要なポイントだと思います。

 ここまでの話の流れと調子を見る限り、俗っぽい理由の方がハマると感じたので個人的には後者ですね。


 

 最後は主人公が動画撮影協力者にならないかと誘われ、外気の寒さとイケメンといる緊張?からか気を失って終了です。


 

〇気になる点



 こういう文のスタイルで僕は書けないので、大変興味深く読ませていただきました。死神くんのキャラの見せ方はウリのポイント押さえてて良いと思います。


 気になったのはタイトルにある「人生実況」という一番のセールスポイントが、結局一話では出てこなかったことですかね。

 あくまでなろうのようなWeb連載の話になりますが、今はとにかく作品が乱立し、高速で消費される時代なので魅力となるポイントは速攻で読者に提示しないとあっという間に離れてしまいます。


 もちろん作者さんのアップテンポ調の文章と、主人公や死神くんの「黒いことやってるのになんか明るい」キャラクター性は魅力あるのですが、それだけで十分な突破力になるかと言われたらやや火力不足感も否めません。


 この作品の他所では楽しめない快楽ポイントである、「嫌いな人のあんな姿とか、気になる人のこんな姿とかを盗み見る」はもう一話の時点で見せないといけないのでは、と個人的に感じました。



〇総評


 文章のテンポが楽しく、ストレスの多い社会で生きる現代人に共感を訴えるポイントもある作品。それだけにタイトルのキャッチを早々に生かす構成を考えて欲しいと感じました。


 ありがとうございました。

 

 


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