第六幕 エリアボス討伐 ― NAO ―
「え?何このアイテム!?」
私は、CFOの攻略Wikiを見るうち、ある一点の情報に釘付けになった。
CFOに限ったことではないが、MMOの攻略Wikiの売りは膨大な情報量と新情報の早さだ。
更新された情報の中に「エリアボスドロップ」の情報が加わっていたのだが、これがなかなか凄い。
「あそこのエリアボスから、こんなのが手に入るなんて・・」
私が目をつけたのは、先日のアップデートから追加されたLV95のエリアボスの固有ドロップ情報。
エリアボスドロップの装備効果は、だいたいにおいて武器や防具のそれに比べ、微々たるものである。
さらに、用途がニッチなものや「これ、どこで役立つの?」といったネタ的なものも多い。
だがニッチな分、ハマればなかなか有能なものもある。これは私にとって、かなり有能だ。
「力、命中率の微増と、・・シーフ、モンク、舞士のスキル効果時間微増。これは欲しい!」
私が現在、主に使っているフォームは舞士。その強力なスキル「分身」や「天国と地獄」の効果時間が伸びるのは大歓迎である。
これは取りに行かないと!
私はワクワクしながら、CFOにログインした。
「今から95のエリアボス討伐行ける人いませんか?」
私は挨拶もそこそこに、ギルドチャットで募集を呼び掛けた。ONしている人たちから返事が来る。
「ごめん。俺とGANTZ、たかみさんは89D中。まだ時間がかかる。」
「すみません。」
「・・・残念。」
「いえ、頑張ってください。」
D、ダンジョン攻略中は仕方ない。というか、3人で89Dって・・・。
「俺はいける!」
「自分もいいっすよ。」
ギルさんとエル様は、快く承諾してくれた。3人ならいけるかな?
<「Hiro」さんがログインしました。>
「こんばんは~」
「あ、Hiroさん、95エリアボス行きますよ。」
「いきなり!!?」
「問答無用w」
「ご指名ww」
しまった。もう一人くらい欲しいかなと思った矢先、タイミングよく入ってきたものだから反射的に言ってしまった。
・・・まぁ、別にいいよね?
「好かれてるな、ヒロw」
「ワーーイ、ウレシイナーー。」
ライアスさんの突っ込みにおどけた後、真面目に返事をくれる。
「・・Naoさんが95エリアボスってことは、ボスドロ狙いかな?いきまっせw」
・・・流石、Hiroさん。
「と言う訳でやってきました!95エリアボス、「ヒュージワーム」討伐バトルの開始じゃ――!」
「何?そのテンションwww」
Hiroさんとギルさんの掛け合いに私は構わず、ボスを探す。
「とは言え、討伐中とかじゃないといいけど・・」
「あ、いた。大丈夫っぽそうやな。」
エル様の示す方向を見ると、目指す95エリアボス「ヒュージワーム」の姿が。他のプレイヤーの姿は見当たらない。良かった。
エリアボスは、基本すぐに湧く、リポップするその辺の雑魚敵と違い、リポップまで時間がかかる。具体的には2時間。
あと、「他のプレイヤーが討伐中は手を出さない」のが暗黙のルールだ。
敵と交戦したかは、「プレイヤー本人もしくはPTメンバーの誰かが敵にダメージを与えた」かどうかで判定される。つまりは強敵のHPを必死の思いで99%削ったとしても、通りがかった他人が1%というか1発でも攻撃を当てた時と、倒した時の恩恵は変わらないのである。こういった行為を「横取り」と揶揄される。
ちなみに、これを利用して、低レベルのプレイヤーに経験値やアイテムを集めまくらせる行為が、先日問題になった「寄生」である。
なお、運営は横取りを特に罰していないので、中には普通に(知らないを含めて)やるプレイヤーもいる。
・・・まぁ実際、横取りされたから損をすることはないのだ。経験値やお金が変わるでもなく、アイテムもプレイヤーまたはPT単位で手に入る。
そして、今回目当てのエリアボスドロップも、討伐参加プレイヤーに一人一人に、低確率ではあるが人数の制限はなく平等に手に入るようになっている。
・・・が、「横取り」はやはり双方良い気持ちにはならないことが多いので、誰も討伐していないに越したことはない。
「さって、じゃあ、役割を決めましょうかね。」
「そうですね。」
ギルさんの言葉に私は相槌を打つ。今回討伐する「ヒュージワーム」は、若干いやらしい所はあるものの、極端に特殊な攻略がいるわけではない。
4人だから盾1、回復1、アタック2が妥当かな。
「う~ん、じゃあ、時間短縮するためエル様、回復とアタッカー兼任で頼める?ギルっちとNaoさんは適当なアタッカーで。」
と言うことは、Hiroさんが盾か。まぁ、無難かな。
「・・・俺も近接アタッカー、やってみるか」
「なんで!?」
私は思わず突っ込みを入れてしまった。
いや、そうでしょう?盾一人もいないし、
「・・・Hiroっち、近接じゃきついっすよ?」
そうなのだ。今回の敵「ヒュージワーム」は、このレベル帯のボスにしては攻撃力や堅さはそれほどではない。
だが、このボス、とにかく動く。しかもなかなかに速い。
その名の如く、巨大ムカデ型でうねうね動き回る。移動中に当たるとダメージとなるので、しっぽの方はともかく、頭の方で当たってしまうと多段ダメージをくらってしまうこともある。
おまけによく地面にも潜り、その間はダメージを与えられない。この辺が若干いやらしい所だ。
時折、地上で止まるタイミングがあるので、その時に盾がヘイトを稼いでから総攻撃。その攻撃にしても移動範囲が広いので、移動力があるか遠距離型のフォームで固めるのがセオリーの攻略となる。
・・つまり、今回のボスに対し一番使えないフォームが「近接アタッカー」なのだ。
「でもま、斬が特攻なので、そこつきたいんだよねぇ。」
「そりゃあ、斬属性が特攻だけど、止まってる間に運よく切れるとは限らないし・・」
そう、近接アタッカーに多い斬属性で攻撃できればかなり有効だが、移動範囲が広いので運良く近くに止まらないと、敵に向かっている内にまた移動されてしまう可能性が大なのだ。
「うん、だから、移動中に斬ってくw」
「はい?」
何言ってるの、この人?
「Hiroっち、それは難しいでw」
「・・・自分も試したことあるけど、なかなかできなかったっすよ。」
試したんだ、エル様・・・
「俺もすんなりいくと思ってないけど、「半キャラずらし」っぽいの試してみたいんだよねw」
「「半キャラずらし?」」
ギルさんとエル様がハモる。・・・二人は知らないのか。
「・・・確か、キャラの半身だけ敵に当てて攻撃する、昔のアクションゲームのテクですよね?」
「おー、Naoさん知ってましたか!それっす!」
いや、それっすじゃないでしょ。
「でもあれは、昔のゲームだからできるような。」
「もちろん、そのまんまやる訳じゃないです。あんなイメージで攻撃できれば上手くいくかなって思いつきです。」
「出来れば1回だけ!先っちょだけでもやらせてください!お願いします!」
「先っちょだけの表現、BANされかねないんでやめいww」
ギルさんがツッコミを入れる中、私は考えて答える。
「・・まぁ、何も考え無しではなさそうなんで、1回目はお任せします。でも、上手くいかなそうなら2回目以降は正攻法で行ってもらいますから、それで。」
「ありがとうございまっす!」
感謝するHiroさん。それを見てふと思った。
(・・・なんでこの人、私なんかの許可とってるの?サブマスだよね?)
でも私は、何故かそこまで違和感は感じなかった。
「じゃあ、900いってるファイターにチェンジっと」
「全スキル取得ですか。・・・でも、よりによって一撃型・・・」
ファイターは最初からなれるフォームなので、ガンナーで900いってるHiroさんなら900いってても不思議ではない。
だが、ファイターは一撃の威力は高い分、攻撃速度は速くない。要するに「動きの速い敵には当てにくい」のだ。なんでそれを選ぶかなぁ・・・
「お待たせしました。・・では、初手いきます!」
盾ではないとはいえ、ヘイトは基本持つ形のHiroさんがスキルを発動する。
一定時間攻撃力を上げる「気合」からの、ファイター最強スキル「とどめの一撃!」。
これで完全にボスはHiroさんに向かうが、流石に初手はかわす。
「ぅぁ、やっぱ速いな」
弱音を吐きながらも、比較的隙の少ないスキルを出して攻撃していく。様子見と思われるが、当たったり当たらなかったりで効果的なダメージは与えられているようには思えない。
「これだとキリがない。・・もうちょい攻める!」
Hiroさんはその言葉の通り、基本の「気合」に加え、攻撃力とクリティカルが10秒間上がるスキル「怒り」を発動し、攻撃スキルを積極的に当てていく。・・でも、
「怒りの後の弱体化は、まずいです!」
「「鋼体」で凌ぐ!直撃を避けられれば何とか生き残れるはず!」
スキル「怒り」は効果が切れると、反動で20秒間全ステータスが下がる「弱体化」状態になる。そして、攻撃力が高いが故に敵のヘイトも溜まるので高確率で反撃される。雑魚殲滅ならともかく、ボス戦には注意が必要なスキルだ。
「鋼体」は文字通り防御力を上げる反面、速度が激減する。ただし、弱体した状態ではそれほど速度は変わらないので、上手く移動できれば耐えきれると言う事だろう。・・・だが、
「まずい!!」
「この段階で暴走!?速い!!」
ヒュージワームが、HPが残り少なくなったボスによくある「暴走」状態になり、これまで以上の速度でHiroさんに迫る。・・ヒュージワームの残りHPは4割程度。暴走はだいたい1~3割程度で発動する事が多いが、稀に4割程度でも発動するランダムだ。その稀なケースに当たったことになる・・・
少しでもその当たり判定からずらそうとするが、それもうまくいかず。
「ごめん、まずった!!」
・・・HiroさんのHPが0になった。
標的を倒したヒュージワームは、次に私を標的にするが、落ち着いて回避に徹する。そうすることで、遠距離から攻撃しているギルさんにヘイトを一時的に移すと、
「蘇生行くっす!」
戦闘中に仲間を生き返らせる数少ない方法、魔導士のスキル「蘇生の法」でエル様がHiroさんを生き返らせた。
「感謝!」
即座に手持ちの回復薬でHPを全快にするHiroさん。この「蘇生の法」、戦闘中に復活させられる稀有なスキルだが、CTは20分。つまり今から20分間は使えない、虎の子のスキルだ。
「汚名返上、いく!」
復活したHiroさんは、まずギルさんからヘイトを外すため、威力より命中率を重視して攻撃を仕掛ける。それがわかっているので、ギルさんは攻撃を止め、回避に徹している。
遠距離軽装備のギルさんよりは、Hiroさんか私がヘイトを取った方がPT的には楽なので、私もなるべく攻撃を当てていく。
標的が私に移ったのを確認すると、共倒れにならないようHiroさんとは違う方向に移動しようとすると、
「Naoさん、こっち!!」
Hiroさんが自身の方に来るよう求めてくる。一瞬たじろいだが、反射的にそちらへ。
「この辺!」
Hiroさんがスキル「大地斬り」を仕掛ける。
このスキルは、大地、目前の地面に衝撃を与え、しばらく後その地点から小爆破を起こし、上にいる相手にダメージを与える時限式のスキルだ。
使う場面が難しい分、当たればなかなかの威力があるので、よほどの乱戦じゃない限り使っておいて問題ない。
そのまま「気合」・・・しない?そこで溜めるの!?
スキル「溜めの一撃」は5秒~最大20秒間タメを行い、強力な一撃を繰り出すスキルだ。溜めが長いほど威力が増加するが、攻撃を受けると解除される。
・・・自分が向かってるからやってるんだろうけど、そんなに溜められない、ままよ!!
と、そこで、ヒュージワームの頭部がやや上を向く。これは、地面に潜る予兆だ!
ここで潜られたら、溜めの一撃がまともに入らない・・・と思った瞬間、
「え?」
先程Hiroさんが仕掛けた「大地斬り」が発動する。それが、上手い具合にヒットしたのみならず、
・・・ヒュージワームは地面に潜るのを辞め、その場に留まった!
(え?なにが?)
「ハァッ!」
そこに溜めの一撃が直撃する。
「みんな、総攻撃!!!」
我に返り。攻撃を再開する。・・・他の二人も同様なのか、慌てたように攻撃を始める。
・・・そんなことはないはずだが、ヒュージワームの動きも緩慢に見える・・気がする。
総攻撃の成果か、敵が動きを再開した時には残りHPは2割弱。最もヘイトを稼いだであろうHiroさんに向かって、高速突進を開始する。
「Naoさん、天国!!」
「!!」
反射的にスキル「天国と地獄」を発動する。
効果範囲は決して広い部類には入らず、高速移動の敵には使いにくいこのスキルだが、Hiroさんの近くにいたことで、向かって突進してくるボスに面白いようにヒットし、確実にHPが削れていく。凄い!
「こいつで・・・とどめ!!」
舞士最強スキル「天国と地獄」がクリーンヒットする中で、ファイターの最強スキル「とどめの一撃!」が見事に直撃し、
一気にエリアボスLV95「ヒュージワーム」の討伐に成功した!
「よっし!お疲れ~~」
「おつかれ~~」
「お疲れ様っス。」
「お疲れ様です。」
強ボス討伐後恒例の、「お疲れ」掛け合いを終えると、Hiroさんがすぐに聞いてきた。
「・・・・で、お目当てのドロップは出ました?」
「俺は出てないw」
「自分もっすね。」
私も答えた。
「残念ながら、私も出てないですね。」
これに対しては、私は特に悲観していない。エリアボスに限らず、ボスドロップが出にくい事は今までで何度も経験している。初見で出ることもあったが、だいたい、5,6回以上。本当に欲しいものなら20回挑戦とかも少なくない。
このボスの討伐は今回で2回目。確率的に非常に低いのは最初から分かっていたことだ。
「・・・・・。残念でしたね。次に期待しましょう。」
「・・・それで、Hiroさんは?」
私は追及する。
「Hiroっちは?」
「Hiro氏は??」
面白がって、ギルさんとエル様も私に続く。
「・・・・出ちゃいました。エリアボスドロ・・・ごめんね、テヘッ」
「・・・やっぱりですか。」
「テヘッ、じゃねぇww」
「豪運、乙ww」
Hiroさんの報告に、私は冷静を保つよう努める。
(わかってるわよ。ドロップは運。運・・・。でもなんか、なんかね・・・)
「・・とりあえずHiroさんIN時は、私の分が出るまで強制で討伐参加してもらいますね。」
「横暴だ――――!(泣」
知らず漏れていた発言にHiroさんがツッコミを返す。・・いや、別にいいよね?
「Hiroっち、骨は拾ってやるからなw」
「乙でっすww」
ギルさんとエル様から、どうじょ・・いや、冷やかしのコメントが。関係ないけど、エル様、「乙」っていうちょっと古めのネット用語にハマってる?
「しゃーない。今度はまた別の近接斬フォームで」
「あ、次からは死なないよう盾でお願いしますね。」
「・・・・・はい。」
「ぐうの音も出ねぇwww」
「これは逆らえないww」
討伐速度よりも確実さを重視した私の発言に、Hiroさんは逆らえず、他二人は囃し立てる。
(・・・楽しいな。)
なお後日談になるが、Naoがお目当てのボスドロップを手に入れるまで、結果として討伐したヒュージワームの数は10体以上となる。
・・・その討伐のほとんどに、Hiroは付き合わされることになるのであった・・・
MMOとリアル(続) Syu.n. @bunb3
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