破る
くるみちゃん
破る
ある白鳥の母親が卵を生みました。母の羽毛はたいそう白く、天使の羽のようでした。そんな母鳥が生んだ卵たちは温められ、殻を破り勢いよく、外の世界へ飛び出しました。そして、母鳥は力強く殻を破る我が子に感動していました。
「本当に可愛い子たち!」
と母鳥が喜んでいると、1つの卵から真っ黒な子鳥が殻を破ってきました。
「なんて黒いの!?」
母鳥ははじめ、驚きを隠せませんでしたが、それと同時に
「黒の子供は初めてみたけれど、とても艶があってきれいじゃない!」
と、母鳥は嬉しがりました。
ある日、
「なんで君の羽はそんなにきれいなの?」
と、黒い白鳥はある兄弟から聞かれました。彼はその質問にこう答えました。
「僕の羽はきれいなのかな。僕もみんなと一緒が良かったのに。」
周りの兄弟は彼の黒い艶のある羽に憧れていました。それでもなぜか彼はみんなと同じ色になりたかったのです。その後もよく周りや他の兄弟から
「なんで君の羽はそんなにきれいなの?」
と聞かれるようになりました。彼はこの質問にいつも
「僕はみんなと同じが良かった。」
そう答えるようになっていました。
そんな彼はある日、急に灰色になっていました。地面の泥を羽に塗りたくっていたのです。
「なんでそんなことするの!みんなが憧れているあなたの綺麗な羽を 台無しにしないの!大事にしなさい!」
母鳥は黒い子鳥の行動を叱りました。自分を大事にしてもらいたかった母鳥にとって、泥で自分の羽を変えていることはすごく悲しいことだったのです。しかし、黒い子鳥は母がなぜ怒っているのかわかりませんでした。
その時、なぜか黒い小鳥だけに雨が降りました。なにやら大きな音もします。それはさておき、せっかく塗った灰色の泥は雨に流され全て落ち、黒い羽は濡れました。濡れた羽は一層艶をおび、美しく見えました。彼はその姿をちやほやされましたが、彼の気持ちは晴れませんでした。
「僕もみんなと一緒が良かったのに。」
彼の心の中はそんな気持ちでいっぱいでした。それから、彼はこの言葉が口癖になってしまいました。
兄弟や母は黒い羽をうらやましがっていたので黒い子鳥の気持ちはさっぱりわかりませんでした。
「自分の気持ちは誰もわかってくれないんだ、、、」
ひどく落ち込んだ黒い子鳥は自分だけになりたいと思い、家族の群れから離れていきました。
1人でトボトボ歩いていると、木にぶつかりました。その木は何やらおかしかったのですが、黒い子鳥は気にせずに開いている部分をくぐって進んでいきました。トボトボ歩き続け、ふと顔を上げると、そこはみたことのない場所でした。黒い子鳥は急に怖くなりました。
するとなにかが迫ってきました。”なにか”は黒い小鳥よりも遥かにでかく、見覚えのあるものでした。彼は逃げようとしましたがその”なにか”に胴体を捕まえられ、持ち上げられました。彼は必死でもがきましたが、逃げることはできません。諦めかけて地面に目を落とした時、兄弟や母を見つけたのです。
そのとき、彼は家族を囲むように変な壁が建ててあることに気づきました。それは黒い小鳥が先ほどくぐったおかしな木でした。おかしいと思った黒い小鳥は、異変を家族に知らせようと大きな声で鳴きました。しかし、急に目の前が真っ暗になり、なにやら上で大きな音がしました。彼は怖くなり、鳴くことをやめました。
彼の視界はずっと真っ暗でした。まるで彼の羽のように。
破る くるみちゃん @ruuuuka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます