愛する人

くるみちゃん

愛する人

 私には、愛する人がふたりいる___。


 愛する人がふたり。愛というものは本来1人に捧ぐものなのだとずっと思ってきた。だから、一途に夫に全力で愛を捧げてきた。しかし、彼に出会ってから、私は夫と彼。2人に愛を捧げるようになった。


 夫は同い年だ。俗にいう、3K、”高身長・高収入・高学歴”とまではいかないが、高収入なことは確かだ。高身長はというと、私も背が高いため、2人で並ぶと、高身長とは言えないのが現実。学歴は、どのような基準で高学歴と言っているのか、私が理解できないため、高学歴かもしれない、ということにしておく。そして、ついでにいうとイケメン。

 かの有名なテクノロジー企業にはたらいているため、仕事をしている時間が多く、私が仕事から帰ってきてもいないことがほとんど。夫は家事をする暇もなく、仕事を楽しんでいる。私としては家事を少しでもいいのでしてもらいたいところだが。とは言いながらも、朝ごはんは夫がつくってくれる。目覚まし時計の機械音で目覚める朝は嫌いだが、キッチンから野菜を切る音がすると、起きようと思えてくる。栄養バランスが整っていて、美味しい朝ごはんを朝からつくってくれるのは本当に幸せなことで、本当にありがたいことだ。夫のいいところはまだある。

 私のことを笑顔にするのが得意だし、誕生日にはサプライズもしてくれる。そして、言わずとも私の好みをわかっている。私が甘いものを食べたいというと、必ずアイスを買ってきてくれるのだ。私が無類のアイス好きで、甘いものといえばアイスと考えていることがわかっているからこそできる至難の業なのだ。


 でも、夫はいつも頼もしいわけじゃない。さっきも言ったように朝ごはんをつくる以外の家事はほんとになにもしてくれない。掃除も洗濯もすべて私がやっているのだ。重要なのでもう1度言うが、少しでもいいので家事をしてもらいたい。夫の頼もしくない部分は他にもいくつかある。ホラー映画を見れば私よりも怖がるし、服を選ぶ時は優柔不断だし、絶対使わないようなものを買ってくる。夫の買ってくるものはガラクタにしか見えない、と思っているのは内緒だが。また、ファッションセンスも独特だ。でも、彼はなぜか着こなせてしまうのだ。不思議すぎる。 


 いままでで一番幸せだった時間は、やはり結婚式だろうか。付き合って2年が経った春。桜色のワンピースを着て、カフェのテラスで2人でお茶をしていた時。プロポーズの指輪と一緒ににもらったのが結婚式場のパンフレット。私は涙ぐみながら指輪とパンフレットを受け取った。そして、結婚式に向け2人でパンフレットを見ながら、プランを立てていった。衣装を選んで、お世話になったたくさんの人への招待状を書いて。夫が「君には桜色が似合うね。」なんて言うもんだから、「桜色のドレスじゃなきゃ嫌だ!」って私がわがまま言ったんだっけか。あのときはごめんなさいね。結婚式はみんながお祝いしてくれて、2人で歩む人生の初めての1ページに刻まれた思い出。


でも___。

 結婚して2年目、夫は変わらなかった。いいところも、頼もしくないところも。なのに私は、他の人も好きになってしまった。夫のことが嫌いになったわけじゃない。あくまで他の人「も」好きになってしまったのだ。その人のことを彼と呼ぼう。夫と彼の2人を好きになった。それからの日々というもの、不安もあったが、愛せる人が2人もいるという幸せで私は包まれていた。

 

 夫がいなければ、私はその人に会えなかった。だから夫にはとても感謝している。彼に会うために私は痛い思いをした。でも、そんなの彼に会えると思ったらへっちゃらだった。夫と居てダメ人間になったことはなかったが、彼と居ると、私は彼に見とれてダメ人間になってしまう。彼のためにお金に糸目はつけなかった。ときには、夫と2人で貯めたお金で彼へのプレゼントを買ってしまうこともあった。夫は気づいていないだろう。


 今日も彼のための服を買いに来た。いつもと違うのは、夫も一緒ということだ。昨日、私が彼を好いていること、2人で貯めたお金で彼にプレゼントを買っていたことについて夫から聞かれた。夫は前から知っていたらしい。怒られそうで不安だったが、夫は怒らずに、「俺も一緒に服を選びたい」と言った。驚いたし、一緒にいきたくないと思ったが、断りようもないので夫の仕事が休みの今日、一緒にショッピングモールへ向かったのだ。しかし、私はまだ不安だった。

 

 なんでかって、夫のファッションセンスは独特なんだもの。彼に似合うかしら。でも、彼は夫に似てるから、何でも着こなせちゃうかも。でも、一緒には行きたくなかったんだよねぇ。久しぶりに夫が家事をしてくれるかと思ったのに。そんなことを考えながら、2人で一緒に彼の服を選びにベビー服のコーナーへ向かった。私とも似ているはずなんだから、彼も桜色が似合うはずよね。

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