第2話 こいつ嫌いだ。

「…」

「ヒュー、ヒュコー」

(話が、始まらない。)

俺の呼吸音だけが響く中で2人で見つめ合う。いや、正しく言えば見えているのは俺だけだが。

使用人達とトロイメライに席を外してもらって俺は今部屋でサニーと2人だけだ。流石に転生のことをトロイメライ達に話してもすぐに信じられるとは思えず、まずは2人にしてもらった。扉に初歩的な防音魔法もかけてある。サニーの目も、これ以上どこかが悪くなることはないらしい。

…完全に潰れているから。

(っていうかこれどんなクソゲーだよ!転生1日目で屋敷全焼!俺は喉が潰れて!もう1人の転生者候補弟は全盲になって!っていうか話せないプラス見えないでそもそも意思疎通ができねーじゃねぇか!神様は何をしてんだよ!)

荒れる脳内でそんなことを考えていた。しかしまずは、サニーと話さなくては。黙っているサニーの背後に周り、背中を触る。昔よくやっていた、書いた文字を当てるゲーム、あれならサニーに話しかけられる!

[サニー、目はもう痛くないですか?]

怖がらせないように、ゆっくりと書く。フルフルと髪が揺れてこそばゆい。

「サ、ニー。もう、めは、い、たく、ない、で、すか…?」

サニーがこっそりと復唱する。その言葉に密かに、しっかり伝わったことに安堵した。

その時だった。


「はぁ?痛くないわけないだろ。馬鹿か?

つーか、ベタベタさわんな。」



(…はぁぁぁ!!?)

一瞬置いて驚愕。俺の中の、いや、『僕』の中のサニーの印象が音を立ててガラガラと崩れていく。あぁ、記憶の中のサニーが、可愛く笑いかけていたサニーが、「兄さん」と駆け寄ってきていたサニーが、川の向こうから手を振っている。えっ、何?兄さんはまだこっちにきちゃだめだって?ごめんな、兄さん疲れたんだ。もう眠らせてくれ…。

「いつまで触ってんだよ。離れろ。」

危うく記憶サニーに誘われるように渡り損ねた三途の川を渡ろうとしていた俺はその言葉で引き戻された。いや、かなりダメージはあるが。

[離れたら意思疎通できないじゃないですか!?それよりもこれから協力が必要になるんです。相談くらいしなくては…]

「は?ウザ。つか長ぇ。」

グサッ

(だめだ。

こいつ嫌いなタイプだ!)

泣きそうになりながらキイッと睨みつけるとサニーが鼻で思いついたように顔を上げた。

「あぁ、話し方キモいし、お前あれだろ。死にそうな顔して歩いてた社畜だろ。」

(ヴッ)

社畜、という言葉を否定はできずに黙る。

[いいでしょう!別に!!そっちこそあんな時間に外に出てるなんて普通の仕事じゃないですよね!?」

「ざんねーん、俺は在宅ワークの仕事をしてるんですー。」

(うぐぐ…)

一言ごとに怒りが湧き上がる。だがしかし、その時俺はふっとある噂を思い出した。

[お前、ニートだろ。]

「はっ!?」

サニー(In自称在宅ワーク)の奴の顔が曇る。俺の顔にはニンマリとした笑みが広がっていた。

[そういや、前に噂してたんだよ。近所の家の一人息子が家に引きこもってるって。在宅ワークでもなんでもない、ただの自宅警備員かよw]

ふはははは!笑いが止まらない。サニー(Inニート)はもう耳まで真っ赤だ。悔しがれ!こっちは定職(ブラック)持ち様だ!

「う、うるせぇ!社会の犬!」

ゲシリと蹴られる。

[こっちのセリフだ!社会の荷物!]

俺も蹴り返した。

そこからはもう、手が出る、足が出る。

「社畜!」

[ニート!]

「社畜!」

[ニート!]

「ニート!」

[社畜…あ、違った。]

そんなこんなでどったんばったん喧嘩して、お互い体力不足で肩で息をする頃にようやく喧嘩は止まった。

[とにかく…急に変わったら他の使用人やトロイメライに疑われるだろ!もしも中に入っているのが別人だとバレて、殺されたらどうすんだ!]

「うぅ…クッソ。」

相変わらず語彙力の乏しい罵倒を鼻で笑い飛ばす。俺の方が若干背が高くてよかった!

[とりあえず、こういう小説の定石は「ステータス」っていうとその時の状態が出てくるんだよ。俺は今喋れないからお前が言え。]

そう言うとニートはあからさまに嫌そうな顔をする。

「は!?言うわけ…」

[言え。]

「チッ…『ステータス』。」

ブォン

鈍い重低音に若干テンションが上がる。目の前の空間には四角い青緑に発光する板のようなものが浮かんでいた。ふくれているニートを置いておいて俺は2枚のステータスを見る。


〔ステータス 不憫〕


「は?」





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