第5話 デート
呆れたことにシャル達はパスポートの紛失手続きをまだしていなかったらしい。
ウチが病院先からホテルに戻るとテーブルの上に書き置きがしてあった。
なになに―皆でたまには外食にでもいこうとの内容。集合時間と待ち合わせ場所を確認する。
「ギリギリの時間じゃねえか」慌てて出かける。
服屋で集合となっている。なんとか時間に間に合う。場所はきっとシャルが選んだんだろうな。このお店にも憶えがあった。
いつかの洋服は店頭から消えていた。
まあ、ウチが着ても似合わなかっだだろうし。と一人納得する。
とりあえず、中に入ればいいのかなと、足を扉に踏み出した瞬間に呼び止められた。
「麗煌、久しぶり」ガラスの扉越しにロンの姿が映っている。
急速に事態を察する。(アイツら、計りやがったな)
「ひ、久しぶり」
「えーと、何から言えばいいのかな」と
頬をポリポリと掻く姿が何ともいえず可愛い。
「あっ、そうだ。えーと、いつもその服でしか見かけないから…」と片手に下げた紙袋を胸までかかげる。
(?)
「いや、早く買わないと人気商品みたいで。他のお客もためつすがめつしていたからさ。一回、着てみてよ。きっと似合うから」と
半ば強引に店員に先程買った者ですけど、と
試着を頼みこむ。
試着室の中で手渡された洋服に驚いた。
―え、この服って―
それは、いいなと思っていたあの服だった。
「うれしい」思わず声が出る。
「え?何。どうしたの」外からのロンの声に「な、なんでもないよ。ちょっと首元のタグがこそばゆいなって、ついつい声出ちゃったの」と慌てて誤魔化す。ああ、そうなんだ。とロンは合点がいったようだ。単純なんだから。いや単純なのはウチかもしれない。
カーテンを開ける。恥ずかしくて目を合わせられない。
「ど、どうかな」口元に手がいく。「か、可愛いと思うよ。やっぱり似合うと思ってたんだ」と逆に照れて返される。
その後は自然と互いの距離が縮まり、手をつなぎながら服に合わせるアクセサリーを眺めた。クラシックが好きだと言うと、曲が鳴る
造りのブローチも買ってくれた。
その後、喫茶店をハシゴして…それから…
ロンが神社へと連れて行ってくれた。
「さあ。麗煌もお願いごとしようよ。きっと
叶うよ」
ロンがそう言うなら、そんな気もする。
賽銭箱に銭を投げ入れる。言われてみれば
今までお願い事なんてしたことなかったな。
いつも自分の手で切り拓いてきた。
けれど今回ばかりは、どうなるかしれない。
困った時のなんちゃらとも聞くしご利益あるかも。
(弟のこと。そしてロンとのこれから)
「叶うかなあ」ひとりごちる。
(祈るしかあるまいて!d(*´ω`🎀))
「え?」
「どうしたの麗煌」
「いや、なんか今声がしたような」
「そうかなあ。僕には聞こえなかったけど」
鈴麗とロンの逢瀬をソッと見守る怪しげな
人物が3人。
「いくら何でも初デートに服のプレゼントは敷居高いでしょうよ、敷居が〜」
ガン・トレットが呆れた声を出す。
「フン。悪かったな。だが、欲しがっているモノを好きな相手から渡されるのは合理的だろ」
「効果的の間違いじゃないですか姉さん♪それより良く鈴麗があの服欲しがってたなんて判ったな」とまんざらでもなく感心した様子。
「ん…ああ…まあな。女の感だ女の」なぜか濁すように言う。
「シーッ!!お静かに。お二人とも良い雰囲気ですわ。作戦大成功ですわよ。さあ人気はいない。今がチャンスですわ。押し倒すのよ!押し倒すのですわロン!!」興奮しているせいか、自分が一番声が大きいことに気がついていないらしい。
「人気がないってミー達がいるじゃんか」
「いや、スナイパーたるもの、気配を悟られるのは三流。つまり、あたしは除かれる」
自分の期待と反対にいっかな行動に移さないロンに痺れを感じたのか
「なんですって」と眉を釣り奇声を上げる。
もはや怒りの矛先を向ける相手がおかしい。
「あーッお前ら何そこでしてんだよーッ」
「ゲェッヤバ。見つかっちゃった。ソーリー♪んでグッバイ〜」と悪びれないガン・トレット。
「見つかってしまったアタシが、プロのアタシが」ブツブツとスナイパーライフルを掲げ
色を失ったミヒェルに
「そもそも!!貴男がグズグズしてるからですわ」と逃げながらもよく判らない論理を振り回すシャルロット。
果たしてデート作戦は成功に終わったのだろうか。その答えはロンだけが知っている。
ロンは追いかける鈴麗の姿をクスクスと
見守っている。愛らしい眼差しを向けながら。
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